ミント、危機一髪!?
あたしは突然現れたイレギュラー達としばらく睨みあっていた。丸い形をしたイレギュラーはあたしを見てからかうかのように、不気味に笑う。…もしかして、あたし舐められてる?
そう思うと頭にきた。まだまだ半人前だけど、こんな奴くらいあたしでも倒せるんだから!あたしはクロスボウを構えていつでも攻撃に入れるようにする。
すると、それが合図のように一匹のイレギュラーがあたしに向かって襲い掛かってきた。
「――あ、危ないっ!」
あたしは咄嗟に矢を放ち、それを相手に命中させる。矢に当たったイレギュラーは一瞬にして消えていく。それを確認した後、あたしは次々と矢を放って一匹ずつ確実に倒していった。
「こ、これで全員倒せた…よね?」
目の前のイレギュラーを一通り倒した後、あたしは辺りを見回しながらそう呟く。あいつらが出てくる気配は全くしない。という事は…今のでおしまいかな?
――ガサガサ。
そう思った瞬間、近くで草むらが揺れる音がした。ま、まだ誰かいるの…?あたしはドキドキしながら音がした方を向く。
「えっ、嘘…!?」
音がした方を見た途端、あたしは思わず声が出た。そこにはさっき倒したはずのオークがあたしの前に立っていたからだ。それも、身体の半分が紫に変色した状態で。
…これ、昨日のトロールと似ている。もしかしてイレギュラーに取り付かれちゃったの?と、とにかく倒さなきゃ!
あたしは慌てながらもクロスボウを構え、矢を撃とうとする。…だけど、あたしはここで重要な事に気づく。
(あ、あれ?もしかして矢を使いきっちゃった!?)
そう、今日使う分の矢が無くなってしまった。まさかこんな所でイレギュラーと会うなんて思ってもいなかったから…と、自分に言い訳してみたり。
とにかく、武器が使えないんじゃあいつに攻撃する事は出来ない。ここは一旦逃げよう!あたしは急いでこの場から離れた。
「はぁ、はぁ…。もう、ここまで来れば大丈夫だよね?」
あたしはしばらく走ると、後ろを振り返ってオークが来ていないかを確認する。今の所、あいつが来る気配は全くない。…よかった、何とか逃げきれたみたい。
今のうちに早くこの森から出ようとした、その時――。
「きゃっ!だ、誰!?」
突然、あたしの背中に手が触れられたような感触が襲う。慌てて振り返ると、森の奥から長い腕がこっちへと伸びてきているのが見えた。だ、誰の腕…?もしかして、さっきのオーク!?
あたしは掴んできた腕をほどこうとするも、相手の力が強いのかそれが出来ない。そうこうしてるうちにあたしは伸びてきた腕に勢いよく引っ張られてしまう。
「は、離してー!離してよーっ!」
あたしは必死になって暴れながら抵抗するも、やはり腕から逃れる事は出来なかった。そしてあたしは伸びてきた腕の正体へと近づいていく。その正体はあたしの予想通り、イレギュラーになったオークだった。
オークはあたしを引っ張り終えると、馬鹿にするようにニヤニヤ笑いながら口を大きく開ける。それを見て全てを悟った。…このあと、あたしは間違いなくあいつに食べられる。あたしは何も出来ない悔しさと、魔物に食べられるという恐怖で自然と涙が流れた。
――ごめんねナオちゃん、そしてみんな。せっかく神父さんの情報を手に入れたのに、あたしはそれをみんなに伝えられないままここで命を落とすんだ…。あたしは全てを諦めるように目をつぶった。
――ドンッ!!
突然、何かを殴ったような音が聞こえた。あたしはそれに驚いて目を開くと、オークの動きが止まっている事に気づく。あたしは何が起きてるのか分からないまま戸惑っていた。
すると、オークはうつ伏せになってゆっくりと倒れていく。あたしはその時の衝撃であいつの腕から離れ地面に放り出される。
(いたた…た、助かったの?あたし)
よく分からないけど、あたしはオークに食べられず済んだみたい。でも何が起きたんだろう?もしかして、誰かがあいつを倒してくれたとか…?
あたしは倒れた姿勢のまま顔を上げると、オークの後ろに人が立っているのが見えた。あたしと同じ女性で、動きやすそうな服を着ていてポニーテールの髪型が特徴的な人だ。
…その人は、あたしも良く知っているあの人物だった。
「ギリギリ間に合ったみたいね。そこの君大丈夫――って、ミントちゃんじゃない!」
そう、フリント姉ちゃんだ。あたしは嬉しさのあまりフリント姉ちゃんに飛びつく。
「フリント姉ちゃーん!助けてくれてありがとう!あたし、あと少しであいつに食べられるところだったんだよぉ!」
「そうだったの。こんなところに君一人で来るなんて珍しいわね。何かあったの?」
「うん、それなんだけどね――」
あたしはフリント姉ちゃんに、昨日から一人でギルド生活を送るようになった事を話した。
「へぇ、そういう事だったのね。…やっぱりあの件の事、まだ気にしてるの?」
「うん。あの戦いでね、怖いから逃げてばかりじゃ冒険者として駄目だって思ったの。だからね、それを治す為に一人で魔物を倒す特訓をしてたんだ」
「ミントちゃんなりに考えたのね。怖かっただろうに、それに耐えながら一人で頑張れたのはとても凄い事よ。偉い偉い」
フリント姉ちゃんはそう言いながら、あたしの頭を優しく撫でる。…えへへ、姉ちゃんってばまるで母さんみたい。
「ところで、姉ちゃんはここで何をしていたの?」
「いつもの修行よ。今日はたまたまこの森で修行を行っていたんだけど、その途中でイレギュラーに遭遇してね。そいつらを片付けていたら、向こうで魔物に襲われてる君を見かけたの」
…そうなんだ。じゃあ、もしフリント姉ちゃんがこの森にいなかったらあたしはここでオークに食べられていたかも…。そう考えたら怖くなってきた。姉ちゃんがこの森にいてくれて本当によかったぁ。
「それにしても、さっきのオークは明らかに普通じゃなかったわね。身体の色が紫に染まってたし、やはりイレギュラーに身体を乗っ取られていたみたいね」
「そうみたいだね…。まさかこんなところで会うなんて思ってもいなかったからビックリしちゃったよ」
「奴等は神出鬼没、いつ現れてもいいよう常に油断せず行動を取るのが得策ね。一人で仕事をするのはいいけれど、十分気を付けて」
「分かったぁ。――あっ、そう言えばフリント姉ちゃん!あたしね、さっきいい情報を手に入れたんだよ!それもみんながビックリするような奴!」
「いい情報?どんな物なのか私に詳しく教えて」
「うん!あのねあのね…」
あたしはさっき出会った黒い服を着た女の子から、あたし達が探していた神父さんがノーヅァンの遠くにある遺跡で身を潜めていると言ってた事を話す。フリント姉ちゃんはそれを聞いて驚いた顔をした。
「黒い服を着た女の子って…もしかして、前にナオト君が言ってたあの子と同じなのかしら?」
「フリント姉ちゃんはその子について何か知ってるの?」
「ううん、ナオト君から聞かれただけで後は全然知らないわ。…とにかく、君の言ってた情報が本当だったら凄い収穫ね。早く町へ行って皆に報告しましょ」
「うん!フリント姉ちゃんも一緒に来てくれるよね?」
「勿論よ。さ、別の魔物が出てこないうちにさっさとこの森から出るわよ」
あたしはフリント姉ちゃんと一緒に森から抜け出した。…ナオちゃんたちに今の出来事を話したら、きっとビックリするだろうなぁ。そんな事を思いながら町まで戻っていった。
今日は活動報告の方も更新しましたので、そちらも一緒にご覧ください。