都合のいい話、都合の悪い話
あけましておめでとうございます。今年も頑張って連載を続けますので、よろしくお願いします。
「はぁ、今日も収穫無しか」
家に着くと、ため息を付きながらクリムがそう呟く。先ほど俺はクリムやナラと一緒にハーシュへと向かい、神父の情報を探っていた所だ。
三人で手分けしながらあちこちを回ってみたが、あの町に彼の痕跡らしき物は何一つ残っていない。入念に姿を消していると言っても過言ではなさそうだ。
「ったく、あんなに大きな町なのに情報が一つも見つからないっていうのはどういう事なのかしら?神父さんの知り合いとかいてもおかしくはないと思うんだけど」
「そうですね。どの人に話を聞いても、「彼の事は知らない」って言ってましたし。あまりにも不自然です」
確かに、神父という位だからあの町に住む殆どの人が彼の事を知っていてもおかしくはない。だけどナラの言ってた通り、人に聞いても「そんな人は知らない」としらばっくれるばかりだ。まるで最初からそんな人はいなかったかのように…。
…ん、待てよ。俺はふと、一つの可能性が浮かび上がった。
「なあ二人とも、ちょっと聞いてくれるか?俺、一つだけ考えてみた事があるんだ」
「何よ急に?」
「…もしかしたら、神父はあの町の住民の記憶を弄って記憶を消しているんじゃないかって事」
俺がそう言うと、二人は呆れたような顔をした。…さすがに突拍子もない話だったか。
「何を言い出すかと思えば、そんな話?ある意味あんたらしい考えね」
「そ、その言い方はさすがに失礼だと思いますよクリムさん…。まあ私もちょっと、今の話は信じられないかもとは思っていますけど」
「そりゃそうだよな、うん。…今のは忘れてくれ」
そんな話をしていると、後ろから扉が開く音が聞こえてきた。
「ただいまー!今日も無事に一人で終わらせてきたよー!」
この元気のいい特徴的な声は…ミントだ。丁度、彼女も用事を終わらせて来た所か。
「あらミント、おかえり――ってフリント?何であんたもここに?」
ミントの方を向くと、隣にフリントが立っているのが見える。途中で偶然会ったのかな?だとしても家に何の用だろう。
「やっほー、皆。…森で修行をしていたら、オークに襲われているミントちゃんを見かけたのよ。そこで私が助けて、その後に一緒にここまで来たって訳」
「ミント、あんた魔物に襲われていたの?怪我はしていない?」
「うん、あたしは大丈夫だよ。あと少しでオークに食べられるところだったけどね」
「軽く恐ろしい事言わないでよ!全く、あんたって本当に無茶するのね。強くなりたいのは勝手だけど、あまりあたし達を心配させないで頂戴」
「えへへ…ごめんなさい。反省してます」
ミントは照れるように頭をかきながらそう言った。…ミント、魔物に食べられる寸前だったのか。もしあそこでフリントがいなかったら、今頃どうなっていた事か…考えただけでも恐ろしい。
「それよりもミントちゃん、皆に伝えたい事があったんじゃなかったっけ?」
「あっ、そうだった!あのねあのね、あたしさっき凄い情報を見つけたの。聞いたら絶対ビックリすると思うよ」
「凄い情報…?それって何なんだ?」
「ふふーん。…実はね、あたし達が前から探していた神父さんの居場所が分かったんだよ~!」
…は?何だって?神父の居場所が分かった?俺たちがあれだけ探しても分からなかった神父の居場所が??あまりにも唐突過ぎて、俺たちはあっけらかんとした顔になる。
ミントはそんな俺たちに構わず話を続けた。
「神父さんはノーヅァンの遥か遠くにある、遺跡で身を潜めているんだって!みんなは遺跡の事について何か知ってる?」
「遺跡?確かあそこって今は滅んでしまった文明があった場所じゃなかったっけ。前に読んだ本でそう書いてあったわ」
「はい。…もしミントちゃんの話が本当であれば、神父さんはそこで何をしているのでしょうか」
「なあ、それって誰から聞いた話なんだ?名前や特徴とか覚えてるか?」
「名前は分からなかったけど、特徴は覚えてるよ。確か長くて黒い髪をしてて、黒い服を着た女の子だよ」
「黒い服を着た女の子、だって!?」
俺は今の話を聞いて驚いた。まさかその子、俺や前に倒したダミアンって人が会ったのと同じなのか…?でもそうだとしたら、何故ミントの目の前に現れたんだ?
「ナ、ナオちゃん急に大きな声出さないでよぉ。あたしビックリしちゃった」
「あ、ああ。ごめんよ。そのミントが会ったって子、もしかしたら俺の知ってる人かもしれないからさ」
「やっぱり知り合いなんだ。あの女の子も、ナオちゃんの事知っているみたいだったよ」
…やはり、俺の知ってるあの子で間違いないようだ。俺がこの世界に来てから黒い服の女の子を見たのは今の所一人だけだからな。
「そう言えば、こんな事も言ってたよ。ナオちゃんの本当の名前は『フジサキ・ナオト』で、ナオちゃんには借り物の力という物があるんだって」
「なっ…!?」
俺はまた驚いた。あの子、俺が他の世界から来た人間だというのを言ってしまったのか!?それに俺が『神の力』を持っている事も…。
「ねえ、これってどういう事なの?あたしに教えて」
「そ、それは…」
「そういやあんた、あたし達と初めて会った際にその名を言ってたわね。変わった名前だったからずっと気になってたわ。そもそもこの世界にあんたと似たような名前を持つ人間は、あたしの知ってる限り誰もいないしね」
「それに、借り物の力というのも気になりますね。ナオトさんがあんなに強い魔法を使えたのと何か関係があるのでしょうか…?」
皆は興味津々になって俺の事を聞こうとする。ど、どうしよう…。言わない方がいい気がするけど、この状況で上手く誤魔化せる気がしない。
しょうがない、ここは素直に全てを明かすべきか…。
「えっと、実は俺――」
「皆、あまりナオト君を困らせるような事は言わないの。そんな事よりも今は神父さんを探しに向かうのが先じゃない?」
俺が話そうとした寸前、フリントがそれを遮るように言ってきた。もしかして、俺の事を助けてくれたのか?
「何よフリント、急に…。というより、ミントの言ってた情報は全て本当なの?第一、あの町の人でさえ知らない情報をただの子供が知ってる時点で不自然よ」
「そ、それはそうだけど…」
「でも、その子供がナオトさんの本当の名前を知っていたというのが気になります。ナオトさんの反応から察するに嘘はついていないようですし、ここはあの子を信じて遺跡に行った方がいいかもしれません」
「うーん…。ま、どのみち情報に飢えて困ってたしいいタイミングだわ。行ってみる価値はありそうね」
「うんうん、みんなで一緒に行ってみようよ!…あ、その前にお腹空いたから昼ご飯を食べないと」
こうして、俺たちは後でノーヅァンにある遺跡へと向かう事になった。俺の真相についてはフリントのおかげもあり、結局言う事は無かった。彼女に感謝しないとな。
話が終わると、皆は一旦武器を戻す為に自分の部屋へと行く。今ここにいるのは俺とフリントの二人だけだ。
今なら誰もいないし都合がいいので、俺はフリントにお礼を言う事にした。
「…フリント、さっきはありがとな。俺の事を庇ってくれたんだろ?」
「ふふん、バレた?でも私は当たり前の事をしただけよ。困った時はお互いに助け合うって、前にナラちゃんが言ってたでしょ。…それに、ナオト君がどんな人だろうと私は全然構わないわ。君が決して悪い人なんかじゃないって信じてるからね」
「そっか。…へへっ、そう言ってくれると嬉しいよ。改めてありがとな、フリント」
「どういたしまして。――さーて、そろそろ私も昼ご飯を食べに行きますか。また後でね、ナオト君♪」
フリントは俺にそう言うと、昼ご飯を食べる為に一度俺たちと別れる事になった。…俺が決して悪い人なんかじゃない、か。何だかそう言われると照れくさいや。その期待に応えるよう、これからもしっかりと頑張らないとな。
俺はそう決心した。




