9話 偶然の出会い
本日は土曜日。
テストも終わり、やっとのんびり出来る曜日だ。
勉強に関してはあまりしていないが...それでもテスト期間終了というものはとてつもなく大きい。
(ん~、もう3時か...)
1日、本やテレビなどを観て過ごしていた真琴。
(そういえばまたカップ麺とか補充しないとな...)
いつものようにスーパーへと向かう。
そして、またいつもと同じようにカップ麺をカゴの中に入れた。
「あら?」
そこで、背後から声が聞こえた。
どこかで聞いた事がある声だ。
「...あなた達は...」
以前、バイト先である″ルージュ″に来てくれた夫婦だ。
「たしか、あの喫茶店で会ったわよね?」
「はい、ご来店ありがとうございました」
挨拶をしていると、夫婦の後ろから誰かが来た。
「お母さん、豆腐は絹で良かった...え?」
「...あ」
それは、真琴の隣の席の女子生徒だった。
「と、東仙寺君!?」
「え、結城?」
この出会いは偶然だった。
お互い、驚く。
「あら...東仙寺?」
「え?はい」
「ふぅ~ん?」
何故か結城の母親が微笑を浮かべる。
「あなたが東仙寺君なんだ~...へぇ~...」
「?」
どうやら真琴の事を少しだけ知っているようだ。
何を知っているのかは知らないが、多分転校初日に喧嘩したという話だろうか。
「娘からよく話は聞くけど、へぇ~」
「お、お母さん!?」
何やらさっきから真琴の事をジロジロとみている。
それも上から下まで隅々と...
(何か凄い観察をされてる...)
すると、結城の母親は何かに気付いた。
「それにしてもカップ麺、いっぱい買うわね~。ちゃんとご飯は栄養あるもの食べないとダメよ?」
「...分かってはいるんですけど、一人暮らしだとどうしても食事は適当になってしまうんですよ」
「え?一人暮らしなの?高校生で?」
ズイツ!と顔を近づけてくる。
「え、ええ」
驚くのも無理はないだろう。
高校生が一人暮らしなんて、そうそうあるもんじゃない。
「そ、そうだったんだ...。あっ、だからお昼ご飯も食べてなかったの!?」
「料理は苦手だし、朝は寝たいからな」
「そんなんじゃ体壊しちゃうよ!」
同級生に体の心配をされる真琴。
その気持ちは嬉しいが、どうしても面倒だから...と逃げてしまう。
「お昼ご飯も食べてないのね...」
ちらりと娘の方へと目を向けると、結城母の目が光った感じがした。
悪い事を思いついた小学生みたいな表情だ。
「よし!なら今日はうちにご飯食べに来なさい!」
「えええええっ!!?」
真琴よりも驚いているのは結城だ。
「いやでも...」
「良いのよ!それに体壊しちゃったら、夏未が悲しむでしょ?」
「...悲しむ理由はよく分かりませんが...」
「はい、もう決定!」
どうやら拒否権は無いみたいだった。
娘と違って随分と強引な母親だ。
とりあえず会計を済ませ、外で待つ事にした。