↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
57/58

水の壁

 「チッ!」


 オルティナが水路へ手を伸ばす。


 水が一気に持ち上がった。


 壁になる。


 雷がぶつかった。


 白い光が水の表面を走る。


「っ……!」


 腕を振る。


 水ごと、横へ。


 雷が逸れた。


 直後。


 下流に立っていた木が裂けた。


 幹から煙が上がる。


「……何、今の」


 オルティナが呟く。


「だから」


 レイリが自分の手を見る。


「変わったって言ったでしょ」


「変わったって、これ……!」


 昔のレイリなら、こんな雷は出せなかった。


「オルティナさん!」


 兵士が近づこうとする。


「来ないで!」


「ですが――」


「人呼んできて!」


 裂けた木を指す。


「ここにいたら危ない!」


 兵士が足を止める。


 一瞬迷って、村の方へ走った。


 レイリがその背中を見る。


「……行っちゃった」


「追わないでよ」


「追わない」


 レイリは答えた。


 でも。


 指先にはまだ光が残っている。


「レイリ」


「何?」


「手、下ろして」


「下ろしてるよ」


「光ってる」


「……うん」


「なら、こっち見て」


 オルティナが水を寄せる。


「一回止めよう」


「止めたいよ」


「じゃあ――」


 雷が走った。


「っ!」


 水を跳ね上げる。


 二発目。


 水の壁にぶつかって、横へ流れる。


 石造りの水場が砕けた。


「レイリ!」


「ごめん」


「謝るくらいなら止めて!」


「やってる!」


 レイリの声が強くなった。


「やってるんだって!」


 自分の右手を左手で押さえる。


 それでも。


 指の間から光が漏れた。


     ◇


「何だよ、あれ!」


 道の入口。


 俺は水場の方を見た。


 木々の向こう。


 水が持ち上がる。


 その中を、白い光が走った。


「雷」


 アカポリスが弓を取る。


「レイリ?」


「たぶん」


「オルティナは?」


「防いでる」


 矢をつがえる。


 でも。


 撃たない。


「撃たないの?」


「二人が近すぎる」


 また光。


 今度は地面が弾けた。


「俺、行く」


「待って」


「でも!」


「坊ちゃんが入って何するの」


「……」


 何も浮かばない。


「兵士を近づけないで」


 アカポリスが言った。


「オルティナが止めようとしてる」


 ちょうど。


 水場の方から兵士が走ってきた。


「詰所へ知らせます!」


「お願いします!」


 兵士が村へ走っていく。


 アカポリスは弓を構えたまま、木々の向こうを見ていた。


     ◇


「最初は」


 レイリが言った。


 オルティナは水を構えたまま見る。


「何?」


「逃げるためだった」


「……何が?」


「魔法」


 右手に光が集まる。


「捕まって」


 レイリが手首を見る。


「あれを当てられて」


「うん」


「逃げた」


 光が大きくなる。


「レイリ、話すなら手を――」


「でも」


 レイリが続けた。


「また見つかったんだ」


「同じ人たち?」


「分かんない」


「何された?」


「戻れって」


 右手を左手で押さえる。


「まだ終わってないって」


「……うん」


「嫌だって言った」


 光が弱くなる。


「でも、腕掴まれて」


「それで?」


 レイリが顔を上げた。


「使った」


「何を」


「雷」


 指が開く。


「レイリ!」


 雷が飛んだ。


 オルティナが水を斜めに立てる。


 光が水の表面を滑った。


 横へ逸れる。


 地面が弾けた。


「……逃げられた?」


 オルティナが聞く。


「うん」


 レイリは頷く。


「その人、死んだから」


 オルティナの動きが止まりかけた。


「……レイリ」


「最初の人」


「最初?」


 聞き返す。


 レイリは答えない。


 自分の手を見ている。


「怒った?」


「今それ聞く?」


「聞きたい」


「知らないよ!」


 オルティナが水を動かす。


 細い流れが地面を這う。


 レイリの足首へ。


「何?」


「動かないで!」


 水が足に絡む。


「話は聞く!」


 もう一本。


 右手へ伸ばす。


「だからまず止まって!」


「止まってる」


「止まってない!」


 水が手首へ届く。


 巻きつく。


 その瞬間。


 内側が白く光った。


「!」


 雷が弾ける。


 水が吹き飛んだ。


「……ほら」


 レイリが自分の手を見る。


「ほら、じゃない!」


 オルティナが水路から新しい水を引く。


「もう一回!」


「無理かも」


「やるの!」


「相変わらずだね」


「そうだよ!」


 オルティナが一歩踏み込む。


 水を束ねる。


 レイリの左手へ。


 雷。


 途中で水が弾けた。


「くっ……!」


 残った水を前へ。


 壁にする。


 光が横を抜け、地面を焼いた。


 オルティナが距離を取る。


 でも。


 レイリは追ってこなかった。


 ただ。


 自分の手を見ていた。


 怖そうに。


「ねえ、オルティナ」


「何!」


「さっきの話」


 指先で光が鳴る。


「最後まで聞いてくれる?」


 オルティナが息を整える。


「……聞くよ」


「そっか」


 レイリが小さく頷いた。


「最初は」


 また。


 白い光が指の間を走る。


「本当に、逃げたかっただけなんだ」


 オルティナは水を構え直した。


「……最初は?」


 レイリが目を伏せた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。