↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
54/58

森の南側

 村に着いたのは、日が傾き始めた頃だった。


「……変わってないなあ」


 オルティナが、入口に立つ古い道標を見上げる。


 王都に比べれば、ずいぶん小さな村だ。


 家の間に畑が広がっていて、その向こうには森が見える。


「どのくらい帰ってないの?」


「半年くらい」


「意外と最近だな」


「何それ」


「十年ぶりとかかと」


「十年も帰らなかったら、さすがに怒られるよ」


 オルティナが歩き出す。


 最初に声をかけてきたのは、道端で籠を片づけていた女の人だった。


「あら、オルティナ?」


「ただいま」


「帰ってきたのね!」


 女の人が駆け寄ってくる。


「大きくなったわねえ」


「半年だよ」


「半年でも大きくなるわよ」


「ならないって」


 アカポリスが笑った。


 オルティナが俺たちを見る。


「えっと、友達」


「お友達?」


「王都で知り合った」


 女の人が俺を見る。


「よろしくね。こんな子だけど」


「どんな子だよ!」


「昔から口が悪くてねえ」


「帰る」


「帰ってきたばかりでしょ」


 また笑い声が上がった。


 普通の村だった。


 少なくとも。


 女の人が森を見るまでは。


「……手紙、読んだ?」


「うん」


 オルティナも森を見る。


「だから帰ってきた」


「そう」


 女の人は籠を抱え直した。


「暗くなる前に、詰所へ行っておいで」


     ◇


 村の詰所は、広場の隅にあった。


 ガンカレスから連絡は入っていたらしい。


 照会状を見せると、兵士が記録を持ってきた。


「現在、行方が分からないのは四人です」


 机に紙が広げられる。


 最初に戻らなくなったのは、森へ薪を取りに行った男だった。


 村の人たちが探したが見つからず、そのあとさらに三人が戻らなくなった。


「探しに行った人も?」


「含まれています」


「みんな同じ場所?」


 兵士は首を横に振った。


「消えた場所までは分かりません。ただ、最後に目撃された場所は、森の南側に集中しています」


 誰も、消えるところは見ていない。


 森へ入った。


 それきり帰ってこなかった。


「獣は?」


 アカポリスが聞く。


「調べましたが、血痕や大きな足跡は見つかっていません」


「ないとは言い切れないね」


「はい」


 兵士が別の紙を出した。


「それと、捜索中に妙なものが見つかっています」


「妙なもの?」


「森の南側に、使われなくなった見張り小屋があります」


 小さな箱が机に置かれる。


 蓋が開いた。


 中にあったのは、曲がった細い金属の輪だった。


「……これ」


 身を乗り出す。


 似ていた。


 魔獣の体から見つかったものに。


 輪の表面には、黒いものも残っている。


「触らないでください」


「あ、ごめん」


 兵士が箱を少し引く。


「最近取り付けられたものらしいのですが、心当たりのある者はいません」


「何に使うの?」


 オルティナが聞く。


「分かっていません」


 アカポリスが箱の中を見る。


「坊ちゃん」


「うん」


「似てる?」


「似てる。でも」


 もう一度見る。


「同じものかは分からない」


 形も大きさも、記憶だけでは比べられない。


「王都へ送る予定は?」


 アカポリスが聞いた。


「はい」


「なら、この黒いものも調べてもらった方がいいね」


 俺も頷く。


「北から送られてくる粉と、王都で見つかった粉も調べてる」


「黒い粉ですか」


「うん。これも比べてもらえないかな」


「伝えます」


 今は。


 似ている。


 それだけだ。


「取り付けられてた場所、見てもいい?」


 俺が聞く。


「案内します」


     ◇


 見張り小屋は、村から少し歩いたところにあった。


 森へ入る道の脇。


 低い木造の建物で、屋根の一部が傷んでいる。


 中へ入る。


「ここです」


 窓の下。


 外へ伸びた木の手すりに、新しい傷がついていた。


「金具はここに?」


「はい」


 アカポリスが裏側を覗く。


「取り付けた跡は残ってる」


「何してたんだろ」


 オルティナが言った。


「分からない」


 俺は窓の外を見る。


 森へ続く道が見えた。


 ここに立っていれば、誰が森へ入るかは見える。


「失踪した人たち、ここ通った?」


「確認できた者は。ただ、森への道はほかにもあります」


「そっか」


 オルティナが窓際へ寄る。


「ここ、昔は人いたんだよね」


「見張り?」


「うん。子どもだけで森に入ると怒られた」


「入ったんだ」


「……入ったよ」


「怒られた?」


「めちゃくちゃ」


「誰と?」


 オルティナが俺を見る。


「レイリ」


「ああ」


「二人で逃げて、結局捕まった」


「何やってんだよ」


「あいつが行こうって言ったんだよ」


「レイリのせい?」


「半分は」


「残り半分は?」


「私」


「じゃあ同罪じゃん」


「うるさい」


 オルティナは少し笑った。


 それから、窓の外を見る。


「この先に、よく遊んでた場所がある」


 森へ続く道。


 今は、誰も歩いていなかった。


     ◇


 村へ戻る途中。


「ねえ、ライク」


「何?」


「レイリ、最後に見られたのどこ?」


 詰所で写してもらった記録を開く。


「えっと……」


 名前を探す。


 レイリは最初の失踪者が出たあと、捜索を手伝うために森へ入っていた。


「南側」


「どの辺?」


「さっきの小屋へ続く道の近く」


「……そっか」


 目撃者は、一人で森へ入るレイリを見ている。


 だが、戻ってきたところは誰も見ていない。


「オルティナさん!」


 後ろから声がした。


 兵士が走ってくる。


「何?」


「詰所に、新しい目撃情報が」


 オルティナが振り返る。


「誰の?」


「レイリさんです」


 一歩。


 オルティナが前へ出た。


「レイリを見たの?」


「本人かはまだ分かりません。ですが、似た女性を見たと」


「どこ?」


「森の外れです。村の方へ歩いていたそうです」


「いつ?」


「昨日の夕方です」


 オルティナが兵士を見る。


「……帰ってきてるの?」


 手元の記録を見る。


 レイリは。


 森へ入ったまま、戻っていないことになっている。


 でも。


 目撃されたのが本当にレイリなら。


 まだ。


 この村の近くにいる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。