↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
53/58

出発前

 監理院へ戻ると、ガンカレスはまだ報告書を読んでいた。


「今度は何だ」


「アリナのこと、確認したい」


「場所は教えんぞ」


「分かってる」


 ガンカレスが顔を上げた。


「……そうか」


「昨日みたいなこと、また起きない?」


「起きないとは言い切れん」


 即答だった。


「何か変えた?」


「ああ。移送先を知る者は減らした。警備も増やしている」


「外は?」


「点検口と外壁を調べ直している。見回りの経路も変えた」


「セレスさんは?」


「本人にも協力してもらっている」


「そっか」


 どこにいるのかは、知らなくていい。


 でも。


 アリナが一人で待っているわけじゃない。


 それは分かった。


「俺たちが王都を離れても、北から来る試料は調べてくれる?」


「当然だ。こちらで照合する」


「……うん」


 ガンカレスが俺を見る。


「それで」


 隣のオルティナへ視線を移す。


「どこへ行く」


     ◇


「私の村」


 オルティナが手紙を差し出した。


 ガンカレスが読む。


「行方不明は四人」


「うん」


「その中に幼なじみがいる」


「レイリ」


「魔法使いか」


「最後に聞いた判定はC級。雷が得意」


「最近の判定は?」


「知らない」


 ガンカレスが手紙を置いた。


「この手紙だけでは、王都や北の件と同じ事件とは言えん」


「分かってる。まずは村で確かめる」


「それでいい」


 オルティナが少しだけ目を丸くした。


「止めないんだ」


「止める理由がない」


 ガンカレスが俺を見る。


「お前も行くのか」


「行きたい」


「アリナは」


「だから先に聞きに来た」


 少しだけ迷ってから言う。


「村の件がこっちと関係あるかは分からない。でも、オルティナ一人で行かせたくない」


「一人でも行けるけど」


「そういう話じゃない」


「じゃあ何」


「友達だから」


 オルティナが黙った。


「……勝手にすれば」


「行くよ」


「うるさい」


 ガンカレスが小さく息を吐いた。


「村の詰所には、こちらから話を通す」


「いいの?」


「失踪者が出ているのは事実だ」


「ありがとう」


「礼はまだ早い」


 いつもの言い方だった。


「それとライク」


「何」


「行くなら、アリナに会ってからにしろ」


「会えるの?」


「手配する」


「場所は?」


「教えん」


「分かってるって」


     ◇


 案内されたのは、監理院の面会室だった。


 俺だけ先に入る。


 少しして、扉が開いた。


「お兄ちゃん」


「おう」


「おう、じゃないでしょ」


「元気?」


「昨日も話した」


「昨日は昨日」


「何それ」


 アリナが笑う。


 それだけで少し安心した。


 向かいへ座る。


「それで?」


「分かる?」


「何か言いたい顔してる」


「そんなに出る?」


「出る」


 全員に言われる。


「オルティナの村で、人が帰ってきてない」


「うん」


「四人。その中に、オルティナの友達がいる」


「……そっか」


「俺も一緒に行こうと思ってる」


 アリナは少し黙った。


「私がいるから迷ってる?」


「うん」


「やっぱり」


「怖くない?」


「怖いよ」


 すぐに返ってきた。


「昨日みたいなこと、またあるかもしれないし」


「……うん」


「でも」


 アリナが俺を見る。


「お兄ちゃんがここにいても、ずっと私の部屋の前に立ってるわけじゃないでしょ」


「まあ」


「場所も知らないし」


「それは言わないで」


「本当じゃん」


「そうだけど」


 少し笑う。


「警備のことは聞いた?」


「聞いた。増やしてる。調査も続けてる」


「なら」


 アリナが頷く。


「行ってきたら?」


「いいの?」


「私に聞いたんでしょ」


「そうだけど」


「じゃあ答えた」


 そうだった。


「私も」


 アリナが続ける。


「自分のこと、分かったら教えてほしいって言ってる」


「ガンカレスさんに?」


「うん」


「検査も?」


「器具のことも」


「……そっか」


「私のことだもん」


 アリナはそう言ってから。


「だからお兄ちゃんも、ちゃんと行ってきて」


「うん」


「オルティナさんの友達、見つかるといいね」


「ああ」


「帰ってくる?」


「帰ってくるよ」


「ならいい」


 アリナが少し笑った。


「行ってきて」


 今度は、俺も迷わなかった。


「行ってくる」


     ◇


 面会室を出る。


 廊下にはガンカレスがいた。


「済んだか」


「うん」


「場所は聞かなかったな」


「聞いてない」


「よし」


「信用ないなあ」


「そういう問題ではない」


「分かってる」


 一枚の紙を渡される。


「村の詰所への照会状だ」


「ありがとう」


「失踪者の記録と、捜索の経過を確認しろ」


「うん」


「何か見つけても勝手に持ち帰るな」


「はい」


「返事だけはいいな」


「最近成長したので」


「自分で言うな」


     ◇


 翌朝。


 王都の門。


「遅い」


 オルティナが言った。


「まだ時間前だろ」


「私より遅い」


「知らねえよ」


 アカポリスが俺の荷物を見る。


「照会状は?」


「持った」


「水は?」


「ある」


「珍しい」


「俺を何だと思ってる?」


「坊ちゃん」


「答えになってない」


 オルティナが鼻で笑う。


「アリナは?」


「会ってきた」


「どうだった?」


「行ってきてって」


「そっか」


 それだけ聞いて、オルティナは歩き出した。


 俺とアカポリスも続く。


 王都の門を抜ける。


「そういや」


 歩きながら聞いた。


「前に、レイリはお前より口が悪いって言ってたよな」


「覚えてたんだ」


「それくらい覚えてるよ」


「どうだか」


「で、ほかは?」


「すぐ拗ねる」


「やっぱり悪口じゃん」


「本当だよ」


 オルティナが少し笑った。


「私が水で遊んでると、自分も混ざりたがるくせにさ」


「雷で?」


「だからみんなに止められる」


「そりゃそうだろ」


「本人も分かってる。でも拗ねる」


「面倒だな」


「面倒だったよ」


 過去形。


 少しだけ気になった。


「私が水の魔法を練習してたときも」


 オルティナが続ける。


「横でずっと石投げてた」


「応援は?」


「『まだできないの?』って」


「邪魔じゃん」


「邪魔だよ」


 笑う。


「でも」


 少しして。


「できるまで、帰らなかった」


 オルティナは前を向いた。


「……元気だといいな」


「ああ」


 今は。


 それで十分だった。


 まずは、村へ行こう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。