使ったあと
北から送られる金属片も、黒い粉も、まだ届いていない。
監理院を出たあと、俺たちは近くの通りを歩いていた。
「少しだけだったんだよね」
オルティナが言った。
「何が?」
「北の石」
「ああ」
「全部じゃなくて、少しだけ削られてた」
全部は持っていけなかったのか。それとも、少しでよかったのか。
「もし」
俺が言う。
「少しあれば足りるんだとしたら」
「何に?」
「それが分かんない」
「分かんないのかよ」
「だから考えてるんだよ」
アカポリスが横から口を挟む。
「使うものだとも決まってないからね」
「分かってる」
「ならいい」
集めることだけが目的じゃないなら、どこかで何かに使うのかもしれない。
「石そのものを追えなくてもさ」
「うん?」
「持ってったあとに何か起きるなら、そっちから探せないかな」
アカポリスが少し考える。
「使ったあとを探すってこと?」
「使ったなら、だけど」
「さっきよりマシ」
「何その評価」
「断定しなくなったから」
「はいはい」
オルティナから返事がない。見ると、さっきから一枚の紙を握っていた。
「それ何?」
「ん?」
「手紙」
「ああ」
オルティナが紙を見る。
「村から」
「いつ来たの?」
「今朝。宿に届いてた」
「何かあった?」
「……うん」
少しだけ間があった。
「私、一回帰る」
「村に?」
「うん」
「なんで」
オルティナが手紙を俺たちへ見せた。
「何人か、帰ってこないんだって」
◇
最初は、森へ入った一人が戻らなかった。村の人たちが探したが、そのあと別の人も帰ってこなくなった。
「探しに行った人も?」
「いるみたい」
オルティナが答える。
「近くの詰所には知らせてる。でも、どこで消えたのかも分かってないって」
「何人?」
「四人」
事故か、獣か。それとも別の何かなのか。手紙だけでは分からない。
「今の事件と関係あると思う?」
「知らない」
オルティナは即答した。
「関係なくても行くよ」
「……そっか」
「村の人が帰ってきてないんだから」
アカポリスが手紙を見る。
「オルティナに帰ってきてほしいって?」
「うん」
「なら、一度見た方がいいね」
「そのつもり」
オルティナが手紙を畳みかけたところで、手が止まった。
「それと」
「何?」
「一人」
声が少し低くなる。
「知ってる名前があった」
「誰?」
「友達」
オルティナは手紙へ目を落とした。
「最近、連絡してなかったんだよね」
「久しぶりに会ったら、また文句言われると思ってた」
「何て?」
「『今まで何してたの』って」
「会ってすぐに?」
「言うよ。絶対」
オルティナは少し笑った。けれど、手紙を持つ指は緩まなかった。
「魔法使い?」
アカポリスが聞いた。
「うん」
「判定は?」
「最後に聞いたときはC級」
「どんな魔法?」
「雷」
オルティナが答える。
「昔は、そんな大きな魔法は使えなかった」
俺は手紙を見る。
「名前は?」
少し間があった。
「レイリ」
◇
「いつ出る?」
「できれば早く」
「俺も行く」
言ってから、止まった。
アリナ。
昨日までいた部屋のほぼ正面に、器具が付けられていた。
今は場所すら知らない。
「……でも、その前に監理院戻る」
「アリナ?」
オルティナが聞いた。
「うん」
「一緒に来いとは言ってないよ」
「行きたいんだよ」
「なら好きにすれば」
いつもの返しだった。
「ただ」
「何?」
「妹さんのこと気になるなら、ちゃんと聞いてからにしな」
「……うん」
アカポリスを見る。
「北から来る試料は?」
「ガンカレスが手配してる」
「俺たちが村に行っても?」
「調査は止まらないよ」
「そっか」
少し前までは、アリナのことも黒い石のことも、自分がここにいなきゃいけない気がしていた。でも、俺たちだけで調べているわけじゃない。
「戻ろう」
「うん」
歩き出す。
村の失踪と黒い石に関係があるかは分からない。
なくてもいい。
オルティナの友達が帰ってきていない。
今は、それだけで。
行く理由には十分だった。




