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知っていた

 気づけば、走っていた。


 監理院の施設がどこにあるのかも知らない。


 追いかけたところで、兵士に止められるだけかもしれない。


 それでも、何かしなければならなかった。


 処分。


 あの役人の声が、頭から離れない。


 アリナが。


 処分される。


「ふざけんな……」


 子供を助けただけだ。


 誰も傷つけていない。


 なのに。


 屋敷の門が見えた。


 勢いのまま扉を開ける。


「父さん!」


 返事はなかった。


「父さん!」


 廊下を進む。


 書斎。


 食堂。


 どこにもいない。


「ライク様?」


 使用人が驚いた顔でこちらを見る。


「父さんは?」


「旦那様でしたら、王宮へ」


「王宮?」


 足が止まった。


「なんで」


「それは……私には」


「いつ?」


「はい?」


「いつ王宮に行った」


 使用人が少し考える。


「ライク様がお帰りになるより、ずっと前ですが」


「……前?」


 手から何かが落ちた。


 紙袋だった。


 市場でアリナから押しつけられたもの。


 床に落ち、口が開く。


 野菜が一つ転がった。


 三人分。


 今日の夕飯。


 俺と、アリナと、父さんの。


「ライク様?」


 しゃがんで野菜を拾う。


「父さん、何か言ってた?」


「いいえ。ただ、急いで王宮へ行くと」


「急いで?」


「はい」


「何かあったのか」


 使用人が迷った。


 それから、小さく答える。


「書状が届きました」


 顔を上げた。


「書状?」


「王家からのものだったと思います」


 王家。


 王命。


 ディントが持っていた、赤い印。


「それ、いつ来た」


「旦那様がお出かけになる少し前です」


 頭の中で、時間を辿る。


 俺は学院にいた。


 ディントと木の下で話していた。


 そのあと、アリナと市場へ行った。


 馬が暴れた。


 アリナが魔法を使った。


 男が叫んだ。


 魔女だ、と。


 でも。


 父さんが王宮へ向かったのは、その前だ。


「……おかしい」


「ライク様?」


 アリナが魔法を使ったからじゃない。


 市場で騒ぎになったからでもない。


 その前から。


 王家は父さんに書状を送っていた。


 父さんも、それを読んですぐ王宮へ向かった。


「父さんは……知ってた?」


 何を。


 アリナが連れていかれることを?


 あの王命のことを?


 それとも。


 もっと前から。


「ライク様、何か――」


「馬を出して」


 使用人が目を瞬いた。


「今からですか?」


「ああ」


 床に落ちた紙袋を見る。


 アリナは言った。


 じゃあ、明日ね。


 明日を待っている場合じゃない。


「王宮へ行く」


 父さんに聞く。


 何を知っていたのか。


 なぜ、俺には何も言わなかったのか。


 そして何より。


 アリナを、どうすれば連れ帰れるのか。

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