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3/9

 兵士が、金属製の拘束具を持ってアリナへ近づいた。


「待て」


 俺が前へ出る。


 ディントが間に入った。


「どけ」


「できない」


「アリナは何もしてない」


「分かってる」


「なら――」


「俺だから来たんだ」


 言葉を遮られた。


「何?」


「別の部隊なら、お前が邪魔をした時点で、お前も拘束される」


「だから感謝しろって?」


「違う」


 ディントが拳を握る。


「お前まで連れていかせたくない」


 俺は答えなかった。


「確認が終われば、それで済むかもしれない」


「かもしれない?」


「俺から言えるのはそこまでだ」


「……何を確認する」


「魔力の状態と、危険性だ」


 兵士が再びアリナへ近づく。


 俺が動こうとすると、アリナが袖を掴んだ。


「お兄ちゃん」


「離して」


「嫌」


「アリナ」


「私、行くから」


「何言ってんだ」


「お兄ちゃんまで捕まる方が嫌」


 怖がっている。


 声も少し震えていた。


 それでも、アリナは俺の袖を離さなかった。


     ◇


 バレンティアは、玉座の前で膝をついていた。


「早かったな」


 王が言う。


「書状をいただきましたので」


「ならば、用件も分かっているだろう」


「娘を解放してください」


「できない」


 返答は即座だった。


「陛下」


「お前なら分かっているはずだ」


 王の声は静かだった。


「私は、何も起きなかったことにはできない」


 バレンティアは答えない。


「お前は知っている」


「……はい」


「ならばなおさらだ」


 短い沈黙。


 王はバレンティアを見ていた。


 ただ臣下を見る目ではなかった。


「かつてのお前なら、私と同じ判断をした」


 バレンティアの目が、わずかに伏せられる。


「……そうでしょう」


「なら――」


「ですが」


 バレンティアが遮った。


 ゆっくりと頭を下げる。


「陛下」


 玉座の間に声が響いた。


「私は貴族である前に、あの子の親です」


 王は何も言わない。


「国が何を恐れているのかも分かります」


 バレンティアは顔を上げた。


「それでも、娘を諦める理由にはなりません」


     ◇


 アリナの手首に、拘束具がかけられた。


 金属音がした。


 その音だけが、やけに大きく聞こえた。


「……すぐ帰ってくるから」


 アリナが言う。


 誰に言い聞かせているのか分からなかった。


「今日の夕飯どうすんだよ」


 気づけば、そんな言葉が出ていた。


 アリナが目を丸くする。


「……何それ」


「お前が決めるんだろ」


 一瞬。


 アリナが笑った。


 今にも泣きそうな顔で。


「じゃあ、明日ね」


「ああ」


 兵士たちが歩き出す。


「待ってろ」


 アリナが振り返る。


「絶対、迎えに行く」


「……うん」


 その背中が遠ざかっていく。


「いつ帰ってくる」


 ディントに聞いた。


「……分からない」


「確認が終われば帰れるんじゃないのか」


 ディントは答えなかった。


 同行していた役人が書類を確認しながら口を開く。


「結果によっては、隔離が継続されます」


「隔離だけなのか」


 役人の手が止まった。


 ディントが何かを言おうとする。


 その前に、俺は聞いた。


「他に何がある」


 役人は一度だけディントを見る。


 そして、淡々と答えた。


「最悪の場合、処分です」


 意味を理解するまで、少し時間がかかった。


「……処分?」


 アリナの背中が遠ざかっていく。


 夕飯の材料が入った紙袋だけが、俺の手に残っていた。


 周囲のどこかから、小さな声がした。


「魔女裁判だ……」


 俺は、その言葉を初めて聞いた。

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