王命
「魔女って、何言ってんだ」
誰も答えない。
代わりに、人が離れていく。
一歩。
また一歩。
さっきまでアリナのすぐ横を歩いていた人間たちが、距離を取る。
「帰ろう」
アリナの手を取った。
「うん」
市場を出ようとしたところで、甲冑の音がした。
兵士が数人、通りを塞ぐ。
「止まれ」
「なんだよ」
「その女性から離れろ」
「嫌だ」
「命令だ」
「誰の」
兵士は答えない。
アリナが俺の後ろへ隠れる。
周囲から声が漏れた。
「まさか……」
「魔女狩りか?」
「でも、あの子は子供を助けただけだぞ」
兵士の一人が前へ出る。
「対象者を確保する」
「対象者って言うな」
「退け」
「何したっていうんだよ」
「退け」
「子供を助けただけだろ!」
兵士の手が剣の柄へ触れた。
俺も一歩前へ出る。
「お兄ちゃん」
「大丈夫」
「でも」
「大丈夫だから」
そのとき。
「待て」
兵士たちの後ろから声がした。
聞き慣れた声だった。
「……ディント?」
ディントが歩いてくる。
「ディント殿」
兵士の一人が道を空けた。
別の一人も軽く頭を下げる。
学院では同じ学生だ。
だから時々忘れる。
こいつが、騎士団預かりの従騎士でもあることを。
俺は息を吐いた。
「ちょうどいい。こいつら何か勘違いして――」
ディントは俺の隣まで来なかった。
兵士たちの前で止まる。
「どうした?」
答えない。
「おい」
一度だけ目を伏せた。
「すまない、ライク」
「何が」
懐から書状を取り出した。
赤い印。
それくらいは俺でも知っていた。
「……王命?」
ディントが書状を開く。
「対象者を王国管理下に置く」
「は?」
「危険性の確認が終わるまで、身柄を預かる」
「待てよ」
アリナが小さく息を呑んだ。
「お前、何言ってんだ」
ディントは俺を見る。
ほんの少し前まで、木の下で一緒に笑っていた。
「連れていく」
「どこに」
「監理院の施設だ」
「なんで」
返事が遅れる。
「俺から話せることじゃない」
「じゃあ断れよ」
「できない」
「なんでだよ」
「王命だ」
低い声だった。
俺の後ろで、アリナが服を掴んでいる。
ディントはアリナを見る。
「アリナを拘束する」
俺はディントを見た。
「……お前が?」
目を逸らさない。
「ああ」
ディントは答えた。
「俺が連れていく」




