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守るため

 魔獣から取り出した金属の輪は、第三倉庫とは別の保管庫へ送られることになった。


 魔獣も大きな檻に移された。鎖は残っているが、暴れてはいない。西を向いたままだ。


「本当に帰りたいんだね」


 オルティナが言った。


「そう見えるだけだ」


 ガンカレス。


「分かってるって」


「ならいい」


「俺たちは?」


「帰す」


 ガンカレスは短く答えた。


 兵士が走ってきた。


「ガンカレス管理官」


「何だ」


「王宮からです」


 全員がそっちを見る。


「早くない?」


 俺が言った。


「保管区への魔獣侵入だぞ」


 ディントが答える。


「第一報はすぐ上がる」


「王宮まで?」


「軍の施設だからな」


 兵士の後ろ。一人の男が歩いてくる。王宮の紋章。封をされた書状。


 ディントの顔が少しだけ変わった。


「王命?」


「ああ」


 男が答える。


「従騎士ディント」


「はい」


 ディントが一歩前へ出る。書状を受け取った。封を切る。読む。


「……」


「何?」


 俺が聞く。ディントはすぐには答えなかった。


「おい」


「アリナの件だ」


 背中が固まった。


「何」


 ディントがもう一度、書状を見る。


「隔離区画を移す」


「は?」


「監理院の第二隔離区画」


「なんで」


「警備を強める」


「だからなんで!」


 少し、声が大きくなった。兵士たちがこっちを見る。でも、止められなかった。


「今分かったのは」


 第三倉庫を指す。


「あの黒い石みたいなのに、魔獣が反応したってことだろ」


「ああ」


「魔獣の身体にも、変なものが入ってた」


「ああ」


「だったら」


 息を吸う。


「なんでアリナの隔離が厳しくなるんだよ」


「ライク」


「アリナが何かしたわけじゃないだろ!」


「分かってる」


「じゃあ――」


「これは判定じゃない」


 ガンカレスだった。


「何?」


「アリナ・ベルティムの危険度を上げる話ではない」


「でも奥に移すんだろ」


「ああ」


「同じじゃん」


「違う」


 ガンカレスが俺を見る。


「本人が危険なのと」


 言葉を切る。


「本人が狙われている可能性があるのは、別だ」


「……」


「混ぜるな」


 言い返そうとして。止まった。ディントが書状を畳む。


「俺が護送する」


「今から?」


「ああ」


「俺も行く」


「駄目だ」


「なんで」


「移動が終わるまで、面会も止める」


「妹だぞ」


「知ってる」


「なら」


「知ってるから言ってる」


 ディントの声が少しだけ低くなった。


「今のアリナが危険だからじゃない」


「……」


「誰かが」


 第三倉庫を見る。


「北の事件に関わるものへ手を出している可能性がある」


 今度は、魔獣。


「それが」


 小さな容器。


「ここまで来た」


 ディントが俺を見る。


「アリナも、その線の中にいる」


「だったら家に帰せばいい」


 すぐに言った。


「俺がいる」


 ディントは答えなかった。代わりにアカポリスが言った。


「坊ちゃん」


「何」


「家も見られてた」


 口が止まった。家の近く。父さんの仕事部屋が見える場所に、印は残っていた。


 あの印。黒髪の男。市場。菓子屋。


 学院。家。


「……でも」


「家へ帰せば安全だって」


 ディントが言う。


「今のお前は言い切れるか?」


 言えなかった。言いたかった。俺がいる。アカポリスもいる。守れる。そう言えばいい。でも、市場では俺たちが知らないうちにアリナは見られていた。


 三回。知らないところで魔力まで測られていたかもしれない。


「だから閉じ込めるのかよ」


「守るためだ」


「それ便利だな」


「便利じゃない」


 ディントが俺を見る。


「俺だって」


 一度、言葉を止めた。


「アリナには帰ってほしい」


 知っている。こいつは最初からそうだった。


「でも今は」


 書状を握る。


「俺が行く」


「……」


「お前が行けないなら」


 息を吐く。


「俺がそばにいる」


 ずるい。そんな言い方をされたら。何も言えない。


「絶対一人にするなよ」


「しない」


「怖がってたら」


「分かってる」


「大丈夫って言っても」


「信じない」


「……ならいい」


 ディントが笑った。


「お前ほど長く知ってるわけじゃないけどな」


「そこ張り合うところ?」


「違う」


「なら言うなよ」


 一瞬だけいつもの顔に戻る。でも、すぐに騎士の顔になった。


「行ってくる」


「ああ」


 ディントが王宮の使者と歩いていく。門の方。その背中をしばらく見ていた。


「坊ちゃん」


「何」


「大丈夫?」


「大丈夫」


「妹と同じこと言ってるよ」


「……今のなし」


「遅いね」


 オルティナが笑った。俺も笑おうとして。できなかった。視線が小さな容器へ戻る。


 魔獣の身体から出てきたもの耳の後ろ。皮膚の下。刺し傷。


「……ガンカレスさん」


「何だ」


「アリナって」


 一度、喉が詰まる。


「身体も調べた?」


 ガンカレスの目が止まった。


「入所時の検査はしている」


「全部?」


「外傷確認もある」


「耳の後ろとか」


「……」


「髪の中とか」


 誰も何も言わなかった。俺は容器を見る。小さすぎる。毛の中にあれば。


 近くまで寄らないと。たぶん、分からない。


「アリナにも」


 口にしたくなかった。でも、言わない方がもっと嫌だった。


「何か、刺さってないよな」


 ガンカレスが容器から目を上げた。


「戻るぞ」


「え?」


「監理院へ戻る」


 歩き出す。


「確認するんだよね」


「ああ」


 今度は、即答だった。


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