↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
37/60

刺さっていた

 魔獣はまだ西を向いていた。鎖を引く。


「とりあえず」


 ディントが言った。


「傷の手当てが先じゃないか」


「ディントが斬ったもんね」


 オルティナが言う。


「お前も水をぶつけただろ」


「俺も刺した」


「坊ちゃんは足もかけたね」


「なんで俺だけ増やすの」


「静かにしろ」


 ガンカレスに、全員で「はい」と答えた。


     ◇


 魔獣をその場から少しだけ移した。第三倉庫が直接見えない場所。それでも魔獣はそちらを探さなかった。西。


 ずっと。そっちを見ている。


「左前脚」


 ガンカレスが言う。


「洗え」


「はい」


 兵士が水を持ってくる。土が流れ、傷の輪郭が見えてくる。ディントの剣、俺の刃、アカポリスの矢。それから、オルティナの水撃。傷は分かりやすかった。


「思ったより浅いね」


 オルティナが言う。


「皮が硬いからな」


 ディントが答える。


「誰かさんは硬いって叫んでたけど」


「本当に硬かったんだよ」


「聞こえてた」


「なら知ってるだろ」


 アカポリスが魔獣の周りを歩く。脚。腹。背中。


「何見てるの?」


「他に傷がないか」


「俺たちがつけた?」


「それ以外」


 少し、離れる。また近づく。


「坊ちゃん」


「何」


「こっち来て」


「なんで」


「いいから」


 魔獣の頭側。近づく。低く。唸られた。


「怒ってるけど」


「さっきよりまし」


「基準がおかしい」


「耳」


「耳?」


 左。大きな耳。その後ろ。灰色の毛が少し固まっている。


「傷?」


「新しくはないね」


 アカポリスが指先を近づける。触らない。


「戦ったとき?」


「ここは誰も攻撃してない」


 ディントも近づいた。


「俺は斬ってない」


「私も撃ってない」


「俺も」


「魔法は?」


 オルティナが首を振る。


「耳には当ててない」


 ガンカレスが来た。


「退け」


「はい」


 場所を空ける。毛を細い器具で分ける。皮膚。そこに小さな傷があった。


「刺し傷?」


 俺が聞く。


「そう見える」


 ガンカレスが答える。


「いつの?」


「時期までは分からん」


「今日できた傷?」


「それもまだ言えん」


 ガンカレスが傷の周りを見る。そこで手が止まった。


「何?」


「光を」


 兵士が灯りを近づける。毛の奥。皮膚のすぐ下。何かが見えた。


 黒い。小さい。


「……何か入ってる」


 ディントが言った。


「触るな」


 ガンカレスがすぐに止める。細い器具をもう一本。


「押さえろ」


「誰を?」


「魔獣だ」


「ですよね」


 兵士たちが鎖を持つ。魔獣が嫌がる。頭を振る。


「ちょっと待って」


 オルティナが杖を持つ。


「少しだけ押さえる」


 水が地面を走り、魔獣の首元へ巻きつく。頭が少しだけ固定された。


「今」


 ガンカレスが器具を差し入れる。魔獣が吠えた。


「うわっ!」


「動くな!」


「俺に言ってる?」


「全員だ!」


 器具の先が何かを挟む。そして。


「取れた」


 ガンカレスの器具の先に、小さな金属片。いや。


 金属の輪みたいなもの。指先より小さい。その中心に黒い粒が埋まっていた。


「……黒」


 オルティナが言う。誰も続けなかった。ガンカレスが布の上へ置く。


「これ」


 俺は第三倉庫を見る。その中に黒い石の残った破片がある。そして、今。魔獣の身体からも黒いものが出てきた。


「同じ石?」


「照合していない」


 ガンカレスが答える。アカポリスが金属片を見た。


「自然に生えるものじゃないね」


「それはそうだろ」


「誰かが入れた?」


 ディントが聞く。ガンカレスはすぐには答えなかった。


「少なくとも」


 魔獣を見る。


「身体の中に、これがあった」


「それだけ?」


「今確実なのはな」


 魔獣が頭を振った。一度、二度。傷のあった耳の後ろを後ろ脚で掻こうとする。鎖が邪魔で届かない。


「嫌だったのかな」


 オルティナが言う。


「そう見えるが、今は様子を見る」


 でも、魔獣の様子は少し変わった。呼吸がゆっくりになる。低い唸りも止まった。西を見る。


 そして、地面に身体を伏せた。


「……落ち着いた?」


 俺が言う。アカポリスが少しだけ近づく。


「そう見えるね」


 ガンカレスは布の上の金属片を見る。


「これを保管する」


「第三倉庫?」


「別だ」


「なんで」


「同じ場所に置く理由がない」


「ああ」


 確かに。


「それと」


 ガンカレスが兵士を見る。


「こいつを殺すな」


「え?」


 兵士が聞き返した。


「魔獣ですよ」


「知っている」


「保管区へ侵入して、怪我人も」


「いる」


「なら」


「だから生かす」


 ガンカレスは魔獣を見る。


「こいつ自身が」


 一度、布の上の小さな黒い粒へ目を落とす。


「まだ証拠だ」


 兵士は少し迷ってから、


「分かりました」


 と答えた。


「……証拠じゃなくなったら?」


 オルティナが聞いた。


「何がだ」


「この子。調べ終わったら、どうなるの」


「今は決められん」


「私は、帰れるなら帰してあげたい」


「私も、不必要に拘束しようとは思わん」


「帰せるなら帰す。だが、危険なら責任を持って管理する」


「……そっか」


 ガンカレスが魔獣の左前脚を見る。


「その前に、傷の手当てを終わらせろ」


「うん」


     ◇


「ガンカレスさん」


「何だ」


「さっきの」


 布の上にある、魔獣の身体から出てきたもの。


「もし」


 言葉を止める。


「もしあれが」


「仮定なら短くしろ」


「分かった」


 言い直す。


「誰かが入れたものなら」


「ああ」


「こいつ」


 西を向く魔獣を見る。


「自分でここへ来たんじゃないのかもね」


 ガンカレスは答えず、金属片を見た。


 第三倉庫の黒い石と、魔獣の身体から出てきた黒い粒。まだ同じものだとは言えない。


 ただ、来ないはずの場所まで走ってきた魔獣の身体に、俺たちの知らないものが刺さっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。