ない番号
「そろそろ戻す」
ガンカレスが言った。
「もう?」
「確認は終わった」
アリナが立ち上がる。
「お兄ちゃん」
「何」
「変なことしないでね」
「なんで俺が言われるの」
「勝手に入ってきそうだから」
「入らないよ」
「本当に?」
「たぶん」
「ほら」
ディントが笑った。
「信用がない」
「お前は黙ってろ」
アリナも笑う。それから、扉の前で止まった。
「お兄ちゃん」
「何?」
「来てくれてよかった」
それだけ言って、今度こそ職員と一緒に部屋を出ていった。
扉が閉まる。すぐそこにいたのにいなくなる。
「……帰すからな」
「本人がいなくなってから言うのか」
「うるさい」
◇
アカポリスとオルティナが戻ってきた。
「会えた?」
「うん」
「元気だった?」
「大丈夫って言ってた」
オルティナが口の端を上げる。
「じゃあ大丈夫じゃないね」
「なんで知ってるの」
「美少女の勘」
「ああ、そう」
「そこはつっこみなさいよ!」
そう言ってから、オルティナが俺の顔を見る。
「……何?」
「いや。あんたも大丈夫じゃなさそうだなって」
「俺は大丈夫」
「はいはい」
ガンカレスが三枚の原票を机に並べた。
「家族として、お前が二人の同席を認めるなら、今回の確認には加えていい」
「いい」
「即答だね、坊ちゃん」
「駄目な理由ないだろ」
「次は、この数字が何から出たのかを見る」
十一日前、六日前、三日前。別々の日の記録には、どれも同じ器具番号が印字されていた。
「同じ機械?」
オルティナが身を乗り出す。
「記録を信じるならな」
「でも、この番号。私が検査で見るのと並び方が違う」
ガンカレスが番号の横に、監理院で使う番号の例を書いた。
所属、器具の種類、個別番号。アリナの原票は、その順になっていない。
「その機械、監理院にあるの?」
「ない。二十年以上前までの登録にもない」
「別の施設のものかもしれない?」
アカポリスが聞く。
「あり得る。王都内の所有施設には照会している」
「じゃあ、答えが来るまで何もできない?」
「番号だけなら控えていい」
ガンカレスが紙を一枚寄越した。
短い記号、数字、また記号。書き写してから、胸ポケットへしまう。
「監理院の地下で付けた番号とは違うんだな」
ディントが確認した。
「あれは資料の管理番号だ。こっちは測定に使った器具の番号」
「そうだ」
ガンカレスが原票を揃える。
「機械が分かれば、持ち主も?」
「登録があればな」
窓の外に目を向けた。アリナがさっきまで座っていた椅子は空のままだ。
アリナが帰り際に言った「来てくれてよかった」が、まだ耳に残っている。
次に会うときは、あいつに話せることを一つ増やしていたかった。




