管理番号
「地下を使い始めたのは、いつから?」
「北の事件のあと」
「ティリナがここに入ってから?」
「そこまでは分からない」
オルティナが考える。
「気づいたら、使うようになってた」
「何に?」
「知らない」
「入ったことは?」
「ない」
「入口は?」
「ちょっと」
オルティナが眉を寄せる。
「質問多くない?」
「大事なんだよ」
「私には関係ないでしょ」
「ティリナのことだろ」
オルティナが黙った。
「それに」
監理院を見る。
「アリナも今、中にいる」
地下にいるとは限らない。ティリナが地下へ行ったとも限らない。
でも、知らないままにはしたくない。
「入る?」
アカポリスが聞く。
「地下?」
「そう」
「入れるの?」
「正面からは無理だろうね」
笑っている。
「じゃあ――」
「だからって、今すぐ忍び込むとは言ってない」
「言いそうだった」
「坊ちゃんじゃないんだから」
「俺そんなに突っ込んでないだろ」
二人が俺を見る。
「何」
「別に」
なんなんだ。
「まず見るだけ」
アカポリスが監理院の横へ視線を向ける。
「出入口。人の流れ。荷物。警備」
「地下の?」
「本当に使われてるなら、何かは出入りする」
「なるほど」
「ライク」
聞き覚えのある声に振り返る。
「ディント」
学院の制服じゃない。騎士団の制服で、手には紙の束を持っていた。
「まだいたのか」
「そっちこそ」
「調べ物だ」
アカポリスが俺の横へ来る。
「また騎士様」
「従騎士だ」
「覚えてたんだ」
「そっちが忘れてないだけだろ」
「誰?」
オルティナが聞く。
「友達」
答えてから。
「……たぶん」
「たぶん?」
「今ちょっと揉めてる」
「お前が勝手に揉めてるだけだ」
「妹連れてったやつが言う?」
ディントが黙った。
オルティナの表情が変わる。
「アリナを?」
「俺が拘束した」
前と同じだった。
言い訳しない。
「それで」
ディントが俺を見る。
「前に言ったこと、覚えてるか」
学院の門。
作成者のない資料。
『俺も、何も知らないまま連れていったわけじゃない』
『次に会ったとき話す』
「覚えてる」
「確認が取れた」
紙を一枚抜く。
「俺がアリナを連れていったとき、命令がおかしいことは分かってた」
「おかしい?」
「ああ」
「何が?」
「事前判定はある。だが、本人を確認する前からA扱いになるのは珍しい」
オルティナが顔を上げた。
「珍しいどころじゃないでしょ」
ディントが彼女を見る。
「魔法使いか?」
「B」
「なら分かるか」
「本人もまともに測らずAなんて、普通じゃない」
やっぱり。
「それだけじゃない」
ディントが続ける。
「俺が受け取った命令書には、最初から隔離区画まで指定されていた」
「確保してから決めたんじゃない?」
「違う」
「市場より前から?」
「ああ」
胸の奥がざらつく。
「それを知ってて、アリナを連れていったの?」
オルティナが聞いた。
「ああ」
「最低」
「そうかもしれない」
ディントは否定しない。
「俺が断れば、別の人間が行った」
「だから自分がやった?」
「ああ」
俺を見る。
「自分なら、アリナを傷つけずに連れていけると思った?」
「そこまでは言わない」
少しだけ声が低くなる。
「でも、俺なら手荒なことはしない」
分かってる。
それくらいは。
分かってるから、余計に腹が立つ。
「それが、前に言ってたこと?」
「半分は」
「半分?」
ディントがもう一枚、紙を抜いた。
「命令書には、根拠になった調査資料の管理番号が添えられていた」
「管理番号?」
「例の資料と同じものだ」
学院。
市場。
菓子屋。
俺たちが追った場所が、最初から並んでいた紙。
「作成者がなかったやつ?」
「ああ」
「追えた?」
「作成者は無理だった」
やっぱり。
「でも」
ディントが紙を指で叩く。
「管理番号が、どこで付けられたかは分かった」
「どこ?」
「監理院」
アカポリスの目が細くなる。
「受付?」
「違う」
「じゃあ?」
「記録保管区画」
オルティナが顔を上げた。
「それって……」
「監理院の地下だ」
誰も喋らなかった。
「正確には」
ディントが続ける。
「北の事件以降、地下の一部が記録保管区画として使われている」
オルティナを見る。
「それ以前は?」
「使用記録がない」
「……やっぱり」
オルティナが小さく言った。
ティリナの事件のあと、それまで使われていなかった地下が使われ始めた。
そこから、アリナを調べていた資料の管理番号が出ている。
「いつ?」
「番号が付いたの」
ディントが紙を見る。
「三日前」
息が止まった。
三日前。
菓子屋。
学院。
あの男。
「つまり――」
口から出かかって、止めた。
地下が、あの男と繋がっている。
そう言うには、まだ足りない。
「……三日前には」
言い直す。
「地下で、アリナの資料が扱われてた」
「ああ」
ディントが頷く。
「そこまでは確実だ」
オルティナが俺を見る。
「何?」
「いや」
「何だよ」
「もっと勢いだけの人かと思ってた」
「失礼だな」
「だって質問多いし」
「関係ある?」
「ちょっと」
オルティナがほんの少し笑った。
すぐに監理院へ視線を戻す。
「地下なら」
「うん?」
「入口」
細い杖を持ち直す。
「一つだけ、知ってる」
アカポリスの表情が変わる。
「どこ?」
オルティナが建物の裏手を指した。
「検査を待ってたとき」
「一度だけ」
少し間を置く。
「そこから、女の人が出てくるのを見た」




