第3話 ランドリアの街
あれからかなり長い間、森の中を彷徨った。
俺一人なら孤独に耐えられなかっただろうが、召喚したドール達のおかげで、孤独を感じなくて済んだ。
召喚ドールは、あれから2人増やして、今は6人いる。
増えたのは、家事ドールのアマンダと、職人ドールのドーソンだ。
アマンダは女だが、ドーソンは初めての男の召喚ドールだ。
アマンダは、俺の食事をつくってもらったり、汚れた服を洗ってもらったり、拠点のログハウスを掃除してもらう為に召喚した。
ドーソンは、鍛冶職人がいれば便利かもしれないと思って召喚した。
ドーソンは、ドワーフをモデルにしているようで、髭もじゃの上、背は低くて筋骨隆々の中年男で、鍛冶から金属細工、革細工、木工から大工まで出来る、多芸多才な上、裏表の無い職人気質の付き合いやすい奴だった。
戦闘ドール達は、あの後、もう一度固有スキルの+00を使ったので、森の中でも無敵なほどに強くなっている。
アマンダは、家事スキルしか持っていなかったので、+00を3回使った。その結果、戦闘スキルを使わない状態では、ドール達の中で一番強くなってしまった。
ドーソンは、鍛冶職人のスキルに戦闘に応用できるものが幾つもあったので、+00を使うのは2回だけにした。
俺は、アマンダにステータスを追い抜かれたのが悔しくて、自重出来ずに俺自身にもう一度+00を使った。その結果、ステータスは百万単位になり、もう森の中のどんな魔物を相手にしても瞬殺できるが、人間社会の中で、力を手加減するのが難しいかもしれないと、悩ましいことになった。
ついでに言えば、レベルは、いつの間にか87にまで上がっている。
遠くから見えていた街の城壁が、とうとう目の前にある。
これからこの異世界の人間社会、つまり街に初めて入って行くわけだが、根が臆病な俺だけに、何の準備もせずに街に入るという選択肢はない。
実は、数ヵ月も前に街が見えるところまで来ており、俺が入る前に、先行部隊を送り込んでいる。
一番最初に街に送り込んだのは、クノイチのアキハだ。
アキハには、たっぷり金を持たせて、拠点になる借家を借りることと、普通に冒険者として活動しながら街の様子を探ることを指示した。
俺と召喚ドールの間には魔力の繋がりがあるので、念話が出来るだけでなく、視覚や聴覚などの感覚を共有出来る。アキハは、クノイチのジョブスキルで、遁術や変装や分身が出来る。冒険者をしながら、誰にも悟られずに、短時間で、街の実情を探り出してくれた。
何故金を持っているかというと、森の中で盗賊のアジトを幾つも潰し、彼らの蓄えていた金をごっそり奪ったからだ。
また、アキハからの情報を元に、新しく召喚した3人の性ドール、サリー、ルルー、ベルタを街に送り込んだ。
アキハは、頻繁に門を出入りする冒険者の活動を考えて普通に街の門から入らせたが、サリー達は、アキハをアンカーにして、直接、街の中に転移させた。
性ドールは、サキュバスをモデルにしているらしく、魅了や洗脳系のスキルを元々持っていたが、そのステータスを100倍に引き上げたので、今のサリー達は、危ない洗脳系のスキルを色々と持ってしまっている。
そんなサリー達には、何処かの娼館を乗っ取るように指示してある。3人のステータスとスキルなら、街のギャング相手でも無双できるだろうし、娼館を誰にも悟られずに裏から支配するぐらいは、容易いことだろう。
俺自身は、敢えて街から離れて、送り込んだドール達が街の中で拠点を確保するのを待った。
数週間後、アキハが拠点となる借家を借りたというので、カトレアとワストンを彼女に合流させる為に街に送り込んだ。カトレア達には、冒険者として活動してもらうため、正式に街の門から入らせた。
次に、サリーは、その美貌からすぐに娼婦として、ある娼館に潜り込むことに成功し、ルルーとベルタを呼び寄せて、またたくまに、その娼館を裏から支配してしまった。
彼女達とは別に、ドーソンに、ある使命を与えて、転移で街に送り込んだ。
ドーソンは、商業ギルドの力が及ばない、スラムと一般地区の境目辺りで、裏社会にも顔がきく鍛冶職人としての地位を築けと言ってある。
こうして数カ月で、街の中に楔を打ち込んだので、いよいよ俺もブルガリとアマンダと一緒に街に入ることにした。
俺達が街に入るにあたっては一つのストーリーを考えた。
本物の貴族に見える銀の聖騎士装備に身を包んだブルガリを、お忍びの貴族に仕立て、俺は従者、アマンダは侍女を装うことにした。
「お貴族様は、あちらからお入り下さい」
と門兵が、貴族専用らしい豪華な門に腕を差し伸べる。
そこへ俺が進み出て、
「我が主は、身分を明かすわけには行かぬゆえ、この門を選ばれておる」
と従者の芝居をする。すると門兵が、
「せめて、家名なりともお示しくださいませ」と、やや焦りながら答える。
「くどい」と俺が強い口調で言い返そうとすると、ブルガリが俺を身振りで制して、鎧の中から、拳くらいの大きさの皮袋を取り出して俺に手渡した。
俺は、それを恭しく頂き、門兵に
「我が主からだ」と差し出した。
これは、アキハの遠隔からの助言を受けながら、何度も練習した仕草だ。
皮袋を受け取ってしまった門兵は、皮袋の重さに驚き、皮袋の中を覗き込んで、さらに驚いた。
「こ、これは」と門兵が声を振るわせる。
「これで問題はあるまい」とブルガリが鷹揚に言う。
門兵が驚くのも無理はない。皮袋には金貨が詰まっていたからだ。
入街税は銀貨2枚。そして、金貨1枚は、銀貨100枚に相当する。皮袋には、数十枚の金貨が入っており、銀貨にすれば数千枚分、入街税としてこんな大金を受け取ったことが人に知られれば、この門兵は斬首刑になる。
門兵は凄い勢いで皮袋を俺に突き返してきた。そして、青ざめた顔で、
「ど、どうぞお通り下さい」と、腰を屈めて俺たちを通した。
ブルガリは悠々とその前を通り、返された皮袋を受け取った俺は、アマンダとともにその後を追う。
入街税はうやむやになり、結局、銀貨の1枚も払うことなく街に入ることが出来た。
門兵のような、権限の小さい役人に、権限を遥かに越えた金を見せるとパニックを起こして、役人としての判断力が麻痺して、上位の者に譲歩する。この場合は貴族に見えるブルガリが上位の者になる。
そういった作戦だったが、上手く嵌った。
さて、俺が何故、こんなにたくさんの金貨を持っていたのかということだが、その理由は俺の固有スキル+00にある。
このスキルは、俺のステータスボードに現れた数字に使えることが分かっている。
そして俺のステータスボードには、亜空間収納の中身として、所持している金貨の枚数と銀貨の枚数の表記が出ている。それならと、金貨の枚数に+00を使ってみると、金貨の枚数が100倍になった。
これは贋金を造ってしまったのか?さらに、俺のスキルで生まれた金貨だから、俺の魔力の供給が途絶えたら消えてなくなってしまうのではないかという疑問が生まれた。
贋金の疑いがあるが、つくってしまったものは仕方がないと割り切って使うことにした。
そして、この贋金の有効な活用方法として考えついたのが、ブルガリを偽貴族に仕立てて贅沢な暮らしをすることだった。
何処の世界でも、金持ちでないと入って来ない情報というものがある。
アキハがクノイチのスキルを発揮して苦労して手に入るような情報が、金持ちになれば、日頃の会話から手軽に入ってきたりするものだ。
せっかく、金貨を無尽蔵に増やせるのだから、俺はブルガリに思いっきり贅沢な暮らしをさせようと思ったのだ。
こうして首尾よく街に入った俺達は、この街の最高級のホテルに向かった。




