第4話 鍛冶職人ドーソン
ご主人様の命令は、この街のスラムと一般地区の狭間で、ちょっとした顔役になれ。ということだった。
ご主人様にステータスを2回も強化してもらっているから、スラムのゴロツキやギャングなんか怖くはない。
ご主人様のステータス強化は、1回目が100倍、2回かけてもらうと、なんと、1万倍のステータスになる。実際俺のステータスの筋力は45万にもなる。その気になりゃ、2階建ての家を担げるほどの筋力だ。だから、怖いものなんてありゃしない。
ただし、むやみに殺すなよとも言われている。
この街には、門を通らず、直接転移で送り込まれた。ご主人様の神の如きなお力によってだ。
街の中では、アキハというクノイチが待っていた。その者の案内で、儂は、この街のスラムと一般地区の境目までやって来た。
アキハの役目を案内だけだ。
これから儂はここでひと暴れするから、アキハが仲間だと知れると具合が悪い。アキハには、誰にも見られないうちに帰ってもらった。
『さて、どこで暴れようか?』
儂は、スラムの入り口の一つの壁際に腰掛けると、腰の収納袋から刃物を10本ほど取り出して目の前に並べ、さらに砥石を取り出して刃物の一つを研ぎ出した。
シュッ、シュッと、小気味良い音を立ててナイフを研いでいると、あちらこちらの路地から柄の悪そうな男が何人も出て来て、儂を取り囲んだ。
「おい、おっさん。誰に断って、ここで売を広げてやがる」と、そのうちの一人が噛み付く様に言った。
儂は相手を見ずに、
「自分の刃物を研いでいるだけだぜ。何で誰かに断りを入れなきゃなんねえ?」
と惚けてみせると
「やかましい」た叫びながら、いきなり顔に蹴りを入れてきやがった。
避けることは簡単に出来る。だけど、それじゃあ、面白くない。俺はその蹴りを顔で受け、相手の足が痛まない様に後ろに転がってみせた。自分の蹴りで儂が転んだと勘違いしたゴロツキは、追い討ちの蹴りを放ってきたが、これは躱して、脚を掴まえてやった。
蹴りをくらったことで、正当防衛は成立している。もっとも、ここはスラム。誰も正当防衛なんか気にしちゃいないが、まっ、様式美ってやつだ。
儂は立ち上がりながら、掴まえた脚を引き上げて、軸足に足払いを掛けてやる。すると、そのゴロツキは盛大にひっくり返って、頭から地面に突っ込んだ。
「野郎」
俺を取り囲んでいた奴らが一斉に殴りかかって来た。何人かは、素早く抜いたナイフで切り掛かって来ている。
さすが、スラムのゴロツキどもだ。予想外の反撃を受けても、怯んだり、驚いたりせず、間髪入れずに反撃してくる。
普通のステータスなら、とても躱せない拳とナイフの嵐だが、1万倍に強化された儂の目には、止まって見えるほどノロい攻撃だ。
一番近くにいる奴の拳を弾き上げながら、腰にタックルし、膝を両腕で抱え上げながら押し倒す。
脚を刈られて体が宙に浮いたゴロツキは、後頭部から後ろに倒れて、ゴロツキどもの包囲が破れる。儂はその方向から一気に包囲の外に飛び出し、反転してその左右の奴を殴り倒した。
ゴロツキどもは戦い慣れしていて、反応は十分に速いが、ステータスに差があり過ぎる。
その差は、1万倍とはいかなくても、それに近いものがあるのだろう。儂は相当に手加減して動いているのに、ゴロツキどもは、儂の動きに全く反応出来ずに、簡単に殴り倒されていった。
一呼吸の間に、儂を囲んだ8人のゴロツキどもが、地面に転がっていた。どいつも気を失っている。手加減はしているが、何人かは、骨が折れているだろう。
儂はそいつらを一人ひとり襟首を摘み上げながら少し離れた場所に放り出し、元の場所に座って、また、刃物を目の前に並べて、刃を研ぎ出した。
暫く誰も近寄ろうとしなかったが、漸く、かなり強そうな奴が、手下を2人連れて儂の前に立ちはだかった、
「おっさん。いくら腕っぷしに自信があっても、ここで売を広げるなら、挨拶ぐらい通しな」と脅してきた。
儂は、相手を見もせずに、
「誰に、挨拶すりゃいいんだ?」と聞き返した。
「ちっ、生意気な野郎だ。が、まあいい、お頭の命令だ。付いてきな」と言って、そいつは頭をクイッと動かした。
「仕方がないのう」と儂は答えて、並べた刃物をまとめて収納袋に入れると立ち上がって、そいつの後に付いて行った。
「それで、何が狙いだ?」
スラムのこの辺り一帯のボスであるガンドーのアジトに連れて行かれたドーソンは、そんな言葉を掛けられて首を傾げながら答えた。
「狙い?そんなものは無いな」
ガンドーは、顔を強張らせて、
「舐めてるのか?それとも、バックによっぽど自信があるのか?」
「バックだあ?」
ドーソンは首筋をボリボリ掻きながら、
「そんなものは当てにしてないな」と言い放った。
その答えを聞いた瞬間、ドーソンの背後を塞ぐように立っていたゴロツキの一人が、鉄の棒でドーソンの後頭部を思いっきり殴りつけた。
ガンッという金属同士がぶつかったような音がしたが、ドーソンは顔をゆがめることもしなかった。
頭で受け止めた鉄の棒を、頭上にまわした左手で掴むと、ゆっくり振り向いて、
「手癖が悪いと 長生きできないぜ、兄ちゃん」
と言いながら、左手で鉄棒を取り上げながら、右手をそのゴロツキの額の前に持っていきデコピンをした。
「アガッ」
デコピンをされた男は、変な悲鳴を上げながらその場で崩れ落ちた。
「「「な、何をしやがる」」」
周囲のゴロツキどもは気色ばんだが、ドーソンは気にせずに、ガンドーの方に振り向いて、
「用事は、これで終わりだな」
と念を押すように言った。
「わ、分かった。あんたには手を出さないようにする」
ガンドーが顔色を変えて答えたのは、自分が座っている椅子の股の間に、さっきドーソンが握っていた鉄棒が突き刺さっていたからだ。
ガンドーの返事を聞いたドーソンは、悠々とアジトから出て行った。
ドーソンの動きが全く見えていなかった手下のゴロツキたちは不満を口したが、ガンドーに「これを見やがれ」と言われて、椅子に突き刺さった鉄棒を見て、全員が絶句した。




