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愛しい私のお人形  作者: 永眠


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27/30

23.否定は肯定へ、虚無は存在へ。



床板が軋んだ瞬間、私は反射的に顔を上げた。


廊下の奥。

暗がりの先で、何かがすっと動いた。


その動きとともに影も揺れる。


まるで――

私の存在に気づき、逃げたかのように。


「シェーゼ……!」


呼ぶと同時に、影がふわりと遠ざかる気配がした。

風では説明できない、確かな動き。


私は深く考えるより先に、スカートを攫んで走り出していた。


足音が廊下に響く。

その音の先で、もうひとつ、足音が聞こえた。

自分以外の足音など聞こえるはずがない屋敷で。


「待ってください、シェーゼ!」


追いかけるたび、影は角へ、奥へ、扉の向こうへとすり抜けていく。

まるで私をからかうような、あるいは――導くような。


(そんな……どうして逃げるのですか?)


角を曲がる。


その瞬間、視界の端を白い袖が掠めた。

シェーゼの服の袖。金糸の細かい刺繍。


私は思わず手を伸ばす。


指先が、ほんの一瞬

人形ならざる体温に触れた気がした。


「……っ!」


もっと触れていたくなった。けれど私の思いなど気にもとめず、彼?はまた私から逃げているかのように走っていた。

だけど触れた――ほんの刹那、確かに触れた。


(温かかった……人形なのに……)


胸が跳ね、息が荒くなる。

…追いつかない。


奥の扉が、音を立ててかすかに揺れた。

閉まりきる前に、誰かが駆け抜けたように。


私は駆け寄り、すぐさま扉を開けた。


その瞬間、

部屋の奥へ駆けていく小さな音がした。


逃げている。

間違いなく、逃げている。


走った。

長い髪が乱れて頬にかかる。

呼吸が追いつかないのに、足は止まらない。


「シェーゼ、逃げないでくださいよ……っ!」


逃げる理由なんて知らない。

ただ追わなければ、またいなくなってしまいそうで。


部屋を抜け、別の廊下へ。


扉がひとりでに半分開いている。…ひとりで?きっとそうだ。いや、そうでなくては。

その向こうで、また影が見えた。


今度は――

こちらを振り返ったように見えた。


呼吸が止まる。


「……シェーゼ?」


ただの人形のはずなのに。―――いや、人形は動かない。

その動きには確かに感情があった。―――いや、人形に感情はない。


驚きのような。

迷いのような。

呼び止められた彼?が、ほんの一瞬足を止めたような。


私の足はもう走っていた。

逃げないで、と願いながら。


けれど彼?は、少しだけ後ずさりして――

また、奥へと駆け出した。


まだ終わらない、終わらせない。


―――私も、知りたいから。






ブクマ、評価等よろしくお願いしますねえ。



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