惑星コイル2
下の階に降りて食堂に着くと遅れてオリヴィアがやってきた。
「テュールはどうした?」
「いませんわ、、、どこに行ってしまったのでしょうか」
「一人で行動しているんスかね。また勝手に変なことしてないといいっスけど」
皆は雑談気分で話しているがジンの顔だけはいつになく険しい。
「まあ、テュールもだいぶ楽しみにしてたみたいですし、初めての旅行ですから色々してるんでしょう」
「飯!コース!うまい!」
マッドは大はしゃぎで料理を待っている。
多少を文句をいう客もいるかと思ったが、皆マッドの風体を見てすぐに目をそらして関わらないようにする。見かねたジンが声を掛ける。
「おいマッド、あんまり大きい声出すな。周りの迷惑になるだろ。それと、そのスーツ良く入ったな」
改めてマッドを見ると筋肉できつきつになったスーツを着ていることに気づく。
マッドは注意された瞬間しょぼんとしたが、スーツを褒められてうれしそうにしている。
「一張羅!」
そんな話をしていると食堂の一角でもめ事が起きている。
ガラの悪そうな三人の男がテーブルに絡みに行っている。
ジンが耳を澄ませると会話が聞こえる。
「お前らさっきうちの仲間を殴ってくれたそうだな」
「今すぐ土下座しろや!そっちは女、こっちは男だぞ?」
「人数もこっちのが上だしな」
テーブルに座っている女性たちは皆フードを被っている
ジンは頭を抱えてため息をつく。
(今時あんな奴らいるのかよ。めんどくせーなあ)
彼らの怒鳴り声に食堂の雰囲気は沈んでいる。
マーガレットが立ちあがろうとするのを制止する。
「ジン、、、」
「面倒ごとは控えろ」
「前までのあなたなら」
「前と立場が違う、オリヴィアもテュールもいるんだ」
「あの子たちは弱くありません」
「兄様、マーガレット、、、」
オリヴィアが声を掛けるが二人とも聞こえていない。
「弱い弱くないじゃない、まだ子供なんだ。そろそろ普通の生活を、、、」
「情けない人、、、」
「なに?」
「ねえ、二人とも!」
オリヴィアの強めの投げかけに二人はオリヴィアを見る。
彼女の指がさしている方に視線をさらに移す。
視線の先には先ほどのガラの悪い連中に向かって注意する褐色の金髪ロングの小柄な子が立っている。
どう見てもテュールだ。
「君たち空気悪くしてるし、彼女たちも嫌がってるからやめなよ」
「なんだあこのガキ」
「ちいせえのにヒーロー気取りだぜ」
ジンは急いで席を立つ、テュールの場所まで行きテュールを自分より後ろに立たせる。
「ジン、遅かったね」
「遅刻したのはお前の方だろ」
「手、貸そうか?」
「いやお前はテーブルに行け」
ジンは仲間のいる場所を指さしテュールに向かわせる。
そしてガラの悪い連中に向き直り、話しはじめる。
「いやあ、悪い悪い。俺の方でしっかり言っとくからよ。ここは穏便に、な?」
話している最中に彼らはメリケンサックをはめる。宝石が付いている成金みたいな見た目だ。
ジンは深く息を吐き呟く、
「まあ、そうなるよなあ」
ジンは周りをちらっと見ると全員もめごとに関わりたくないのか目を逸らしている。
それが逆に好都合だ。ジンはレッドアームの力を発動する。
(あいにく、銃とブレイドは船に置いてきた。俺も近接用の小さいグローブかナイフ買うべきかな)
そんなことを思いながらジンは即座に三人の顎を殴り抜く、ほぼ同時に三人が倒れこむ。
ジンはウェイターに声を掛け、飲みすぎで倒れたと伝え部屋に運ぶように話した。
そのまま何食わぬ顔で戻ろうとするとジンの服の袖を掴まれる。
ジンがギョッとして振り返ると絡まれていたテーブルの席のひと際小柄な少女の手だった。
「礼はいらないぜ、お嬢さん」
「違う、、、血で、汚れた」
少女のフードを見ると確かにさっき殴った男の血がフードに二滴ほどかかっている。
「弁償するからちょっと待ってもらえるか」
「いらない、代わりに、一緒にご飯たべる、、、それで許す」
その言葉にフードを着ている残りの三人のうち二人は肩を震わせて笑っているようだ。
「いやあ、仲間待たしてるからさ。それはちょっと無理だなあ」
ジンの言葉に少女がムスっとしたのが分かる。
「、、、、これでも?」
フードを外して聞いてくる。中からは白髪ロング前髪パッツンの髪型はテュールと似ている少女が顔を出す。残りの三人は少し慌てたような様子を見せるがジンは呆気に取られながら話す。
「ん?あー、顔を見してもらったから一緒に食べるとか別にないぞ悪いけど、人を顔で選んだりはしてないからよ」
その言葉に少女は目を丸くして驚く、すぐにウェイターを呼び大きめの個室に移動するよう伝えると立ち上がりジンの手を引き移動しようとする。他の三人は焦っているのか止めようとする。
「ポー、座りなさい」
「はよ、フード被りや」
「騒ぎになってあーしまで巻き込まれたらマジだるいから」
ポーと呼ばれた少女はフードを被り直すが座りはしない。
「みんなで食べる。この人の仲間も一緒に」
「は?いやいや俺はもう戻るから」
「、、、血で汚れた」
じっと見つめてくる少女の真っ直ぐな目に耐えられずに観念する。
「わかったよ、今晩だけでいいな」
「うん」
ジンはテーブルに戻り、仲間達に事情を説明する。
料理が食べられるならと特に疑問に思うこともなく全員で大部屋に移動する。
机を挟んで七対四で座りしばらく経つがフードを被った彼女達からは特に発言がない。
こちら側も特に話すこともなくマッドとテュールはコースの料理を二人で確認している。
「自己紹介するっスか?」
その場にいた全員がナタリアの方を見る。
こういう時にズバッと話でくれるのは助かるとジンは安心しながら乗っかる。
「ああ、そうだな。せっかくだ、お互いの基本的なことは知っておくとしよう」
すると、フードを被っている四人の真ん中右にいる少し背の高い女性が声を発する。
「そちらからどうぞ」
こちら側の全員がそれだけ?っと思ったがテュールがすぐさま答える。
「僕はテュール、好きなものはマンドラゴラの丸焼き、それと人助け」
マンドラゴラの丸焼きと言った時、相手が少し引いたような気がするがジンは気にせず次を促す。
「俺、マッド、エタル族」
先ほど言葉を発した背の高い女性だけが少し反応し、じっと見つめる。
「アタシはナタリアっス、一応チームの技術屋兼戦闘要員っス、まあ割となんでもやるっス」
いつものツナギを着ているナタリアの場違い感はすごいが相手は服装など特に気にする様子はないように思える。
「私はオリヴィアと申しますわ。趣味は自己研鑽、最近よくしていることはヨガですわ」
ジンは改めて自分のファミリーの一貫性のなさに気づく。
「私はマーガレット、チームの教育係をしています」
オリヴィアの訓練を見てあげたらしているから事実ではあるだろう。
「私はピース、これを見てもらうと分かると思うけどアンドロイドよお」
ピースは自身の手を三百六十度回転させる。
ナタリアは即座に付け足す。
「しっかり感情があるんスよ」
珍しいのか相手側の全員がピースを見る。
最後はジンだ。
「ジン・レッドアームだ。こいつらは家族同然で一緒に仕事をしてる。基本的に依頼はなんでも請け負ってはいるが今は観光地であるここで休暇中だ。さっきの汚しちまった件はすまなかった。こっちは自己紹介が終わったぞ、そっちも頼む」
相手側はその言葉を聞いて背の高い女性に目配せで確認する。女性が頷くと一斉にフードを外して前を向く、銀髪はあの少女だけではなく残りの三人もそうだったことが分かる。左端の褐色の少女だけニット帽を被っている。
「銀髪って珍しいのにそれが四人か、姉妹かなんかなのか?」
ジンが一人で聞き返していると驚いたように全員がジンの顔を見る。
「なんだよ」
「本当に知らないんスか?」
「僕でも知ってるよ、ここ一ヶ月でびっくりするくらい売れてる四人組、ユニット名は確か、、、」
テュールがそこで止まってしまう。オリヴィアが呆れたように答える。
「アストラルガールズですわ。テュールそれくらい、、、と言いましても何も知らない兄様がいましたわね」
ジンは有名人であることは把握できたがイマイチまだ理解できていない。
「どれくらいすごいんだ」
「そういうのは本人の前で聞かない方がいいですよジン」
有名人に会えてなのか興奮気味のマーガレットの忠告の横でピースは冷静に話す。
「そうねえ、一ヶ月でここまでの知名度売り上げ、一般的な人気アイドルやモデルからとった平均の二十倍程の人気はあるわねえ」
ジンは口笛を吹いて驚く、予想以上に有名だったことにシンプルに感心しているのだろう。
マーガレットとオリヴィアが話し始める。
「本当に知りませんの兄様、姉妹の末っ子ポーさんは歌声が美しいことで有名、三女のネルさんは特有のギャルっぽさと褐色肌を活かしたモデル業界で伸びがすごいですわ」
「次女のカスミさんはその肉体と持ち前の運動神経でアイドルをやりながら全宇宙ボクシング優勝者、長女のサナリアさんはその全てを足したような万能タレント」
二人ともファンなのかえらく饒舌になっている。
ネルと呼ばれたギャル娘以外の三人は少し恥ずかしそうに苦笑している。ネルは当然と言わんばかりのクールな態度だ。
「もしかして俺が助ける必要もなかったのか」




