第4話 — 決闘
宮殿での長い話し合いのあと、ジャンは訓練場で待っているよう俺に言った。隊長を連れて、すぐに戻るとのことだった。
***
王宮訓練場。
俺は草の上に座り、空を見上げた。
すでに夕方だった。暗い雲が地平線の大部分を覆い、太陽の光を少しずつ隠していた。
*雨が降りそうだな……*
数分が過ぎた頃、背後から聞き慣れた声が響いた。
「おい、兄弟!」
振り返る。
カグラがジャンと三人の人物を連れて、こちらへ歩いてきていた。そのうち二人は普通の騎士だった。
だが、三人目の男は……違った。
俺は立ち上がり、片手を剣の柄に添えながら、近づいてくる一行を見つめた。
カグラがその男を指さした。
「ほら、兄弟。ジュリアス、こいつがジェラルド隊長だ。俺の近衛隊長を務めてる」
俺は手を差し出した。
ジェラルドは一瞬黙ったまま俺を見たあと、その手を握った。
挨拶を交わしながら、俺は彼を上から下まで観察した。
身長は一九〇センチほどだろう。大柄で、太い腕を持ち、その存在感だけでも人目を引く男だった。頭の大部分は剃り上げているが、黒くまっすぐな髪を残し、後ろでポニーテールにまとめている。兜はかぶらず銀色の鎧を身につけ、年齢は二十五から二十九歳くらいに見えた。
「よろしく、ジェラルドさん。もう知ってると思うけど、俺はジュリアスだ」
「こちらこそ、若者よ」
ジェラルドは俺の手を離し、距離を取った。
それ以上何も言わず、剣を抜いて構えた。
*いきなり本題かよ?*
俺も剣を抜いて距離を取り、彼と向かい合った。
ジャンが俺たちの間まで歩いてきた。
「では、この小さな勝負の審判は私が務めます。ルールは単純です。剣を失った者が敗者となります」
ジェラルドが剣の柄を握り締めた。
俺も同じように握る。
ジャンが左腕を上げた。
数秒間、誰も動かなかった。
そして、その腕を下ろした。
「始め!」
俺たちは同時に踏み込んだ。
その場から姿が消えたかと思うほどの勢いで駆け、次の瞬間には正面からぶつかり合っていた。
ガキン!
刃が激突し、俺たちの間に小さな火花が散った。
俺は身体を前へ押し込み、力で後退させようとした。
ジェラルドも同じように押し返してくる。
両足を地面に踏ん張り、あの巨体の全重量を俺へぶつけてきた。
「チッ!」
自分の間違いに気づくまで、そう時間はかからなかった。
力比べはジェラルドが制し、俺は後ろへ押し戻された。
俺は数歩後方へ滑りながらも、彼から目を離さなかった。
*俺は馬鹿か。あんなデカい奴を相手に力比べしようとしてどうする。*
剣を強く握る。
*まあ、いい。*
ジェラルドへ跳び込み、上から斬りかかった。
だが、彼はその動きを読んでいたようだった。
素早く刃を水平に構える。
ガキン!
俺の一撃は防がれた。
その瞬間、ジェラルドは両足を地面に踏み込み、全力で剣を左から右へ振り抜き、俺を後方へ吹き飛ばした。
俺の身体が宙を舞った。
体勢を立て直す間もなく、ジェラルドが全速力で迫ってきた。
*くそっ! 剣が地面に触れたら負けだ!*
まず、空中で剣の柄をしっかり握り直した。足が地面についた瞬間、身体を止めるために刃先を草地へ突き立てた。
数メートル滑った。
そして、ようやく止まった。
顔を上げる。
ジェラルドはすでに目の前、わずか数センチのところまで来ていた。
剣を頭上に構え、今にも振り下ろそうとしている。
*速すぎる!*
刃が縦に振り下ろされた。
俺は身体を傾け、ぎりぎりで右へかわした。
ヒュン!
剣が俺のすぐ横を通り過ぎる。
その隙を突き、俺は足払いを放った。
ジェラルドは一瞬バランスを崩してよろめいたが、倒れなかった。
相手がどう返してくるのか確かめる気はなかった。
俺は再び後退し、距離を広げた。
腕で額の汗を拭う。
「ふぅ……危なかった」
ジェラルドは攻めてこなかった。
代わりに剣を地面へ突き立て、俺を観察していた。
俺は目を細めた。
*今度は何だ?*
口元にかすかな笑みが浮かんだ。
「お前の戦い方には無駄がない」
俺は少し首を傾げた。
ジェラルドは続けた。
「必要もないのに攻撃して、動きを無駄にすることがない。攻撃の回数は少ないが、一撃一撃が正確で効果的だ」
彼は俺から目を離さなかった。
「間違いなく素質がある。見事だ」
褒められて、少し気恥ずかしくなった。
「あ、ああ……ありがとう、隊長」
俺は再び剣の柄を強く握った。
*そういうことか。ジェラルドは戦いながら俺を観察してたんだ。*
もう一度、攻撃の構えを取る。
「さっさと終わらせようぜ!」
ジェラルドは頷き、草地から剣を引き抜いた。
「来い」
俺は身体を前へ傾けた。
ジェラルドも同じように構える。
踏み込んだ。
彼も動いた。
俺たちの間の距離が一気に消えていく。
だが、最後の瞬間……
「そこまでだ」
ジャンが俺たちの間に現れた。
俺は急停止し、歯を食いしばった。
「あああ、なんだよ?! これから面白くなるところだったのに!」
ジャンはまったく動じることなく俺を見た。
「もう十分です。あなたが陛下の近衛に加われるよう、書類の手続きを早めましょう」
俺は少し目を見開いた。
ジャンはジェラルドへ向き直った。
「見事でした、隊長。いつも通りです」
最後に俺たち二人を見た。
「この決闘は引き分けとしましょう」
ジェラルドは剣を下ろした。
カグラが笑顔を浮かべながら、すでにこちらへ歩いてきていた。
「二人とも、いい戦いだったぞ!」
彼はまず俺を見て、それからジェラルドを見た。まるで、まだ俺たちが戦いを再開するのを期待しているようだった。
「正直、最後までやったらどうなるのか気になったけどな」
俺は小さく笑い、空を見上げた。
訓練場に最初の雨粒が落ち始めていた。
「中に入ったほうがいいぞ、カグラ」
剣を鞘に収めた。
結局、ジェラルドを倒す必要はなかった。
俺はただ、王のそばに立つにふさわしいことを証明すればよかったんだ。
こうして俺は、剣士としての実力をジャンにまざまざと見せつけてやった。




