第3話 — 実力の証明
謁見の間。
戴冠式のあと、カグラは俺に何があったのかをすべて説明してくれた。
そして、話を全部聞いたあとでさえ、俺はまだ驚いていた。
正面へ視線を戻す。そこには、ヴァレドーンの玉座に座るカグラがいた。
*昨日までこいつ、冒険で稼いだ金を俺と分けてたんだぞ……それが今日は一国を治めてる。*
カグラは俺が見つめていることに気づくと立ち上がり、こちらへ歩いてきた。そして、俺の背中を軽く叩いた。
「もっと力抜けよ、兄弟。緊張しすぎだって」
俺は横目でカグラを見て、小さく笑った。
「ああ……そうだな」
カグラは玉座へ戻り、腰を下ろした。
少しすると、広間の大きな扉が開いた。
俺たちは同時に、入ってきた人物へ視線を向けた。
書類の束を腕に抱えたジャンだった。
「ああ、ジャンか」
宰相は書類を軽く持ち上げた。
「はい、陛下。ご依頼のものをお持ちしました」
カグラは近くのテーブルを指さした。
「よし。そこに置いてくれ」
ジャンはテーブルまで歩き、書類をその上に置いた。
するとカグラは俺へ視線を戻した。
「そうだ、兄弟……お前には俺のそばにいてほしい。俺の近衛に入れるつもりだ」
俺は首の後ろへ手をやり、視線を逸らした。
「どうかな、カグラ。俺は役に立つより、むしろ邪魔になる気がするけどな」
*難しいな。俺はもう、依頼をこなして自分で金を稼ぐ冒険者の生活に慣れてる。*
俺はもう一度カグラを見た。
*でも、頼んでるのは俺の兄弟だ。カグラは王家最後の後継者になった以上、自動的に背中へ標的を背負うことになる。もし誰かがこいつに何かしようとしたら……それだけは許せない。*
カグラが答えるより先に、ジャンが咳払いをした。
「ゴホン、ゴホン」
俺たちは二人とも彼を見た。
「現時点では、それは難しいかと存じます、陛下」
カグラは目を見開いた。
「ジャン? どうしてだ? ただの採用だろ?」
*今ので俺まで気になってきた。*
ジャンは両手を背中に回したまま、カグラのほうへ歩き始めた。
「ご説明いたします、陛下。ジュリアスは冒険者であり、ヴァレドーンの軍組織に属する者ではありません。何の評価もせず、いきなり近衛へ加えるのは無責任でしょう」
それを聞いて、俺は目を閉じ、小さく笑った。
「なるほどな」
俺はジャンへ視線を向けた。
「つまり、俺が実力を証明すればいいんだな?」
ジャンは横目で俺を見た。
「証明できる実力があれば、ですが」
俺の笑みが消えた。
歯を食いしばり、手が反射的に剣の柄へ伸びた。
「てめえ……」
カグラが素早く間に入った。
「兄弟、落ち着け。お前が十分強いことは、俺もお前も分かってるだろ」
俺はあと数秒、ジャンを睨みつけた。
そして剣の柄から手を離した。
*カグラが黙ってたら、この大臣の首はもう飛んでたな。*
カグラはジャンへ目を向け、低く唸った。
「ふむ……」
そして玉座に腕を預けた。
「それで、宰相。どうすればいい? こいつに実力を証明させて、そのあと採用を進めたい」
ジャンは落ち着いた姿勢を崩さなかった。
「陛下、私が申し上げているのはあくまで助言です。当然、陛下がお望みなら、直接彼を採用することもできます。しかし、陛下は即位されたばかりです。何の評価もせず、親しい友人をいきなり近衛へ加えれば、宮殿内で悪い印象を与えかねません」
俺は数秒黙った。
それからジャンを見つめた。
「今ので、実力を証明したくなった」
ジャンは再び両手を背中へ回した。
「では、そうしましょう」
続いてカグラへ向き直った。
「陛下、近衛隊長との決闘を提案いたします」
カグラは顎に手を当て、考え込むように視線を逸らした。
「決闘か……」
その顔に笑みが浮かんだ。
「いいな」
そして、何かを思い出したようだった。
「そういえば、ジャン。俺の近衛とか軍とか……王国そのものについても、まだちゃんと説明してもらってないぞ」
ジャンはテーブルに置いた書類の束を指さした。
「陛下、それらの情報はすべて、ご依頼になった書類の中にございます」
カグラは書類を見た。しばらく黙り込む。
そして頭をかいた。
「あっ……そうだった。まだ読んですらなかった」
ジャンは目を閉じ、ため息をついた。
俺は危うく笑いそうになった。
カグラは玉座から立ち上がった。
「とにかく!」
笑顔を浮かべ、片方の手をもう片方の手に打ちつけた。
「さっさと決闘の準備をしよう!」




