第2話 — 戴冠
コン、コン、コン。
俺は驚いて飛び起き、ドアノブを掴んだ。
左を見る。誰もいない。続いて右を向いた。
二人の騎士がカグラの部屋の前に立ち、ドアを叩いていた。
俺は彼らの鎧に刻まれた紋章を見て目を細めた。
*この紋章……待て。ヴァレドーンのものじゃないか。*
俺がじっと見ていることに気づいた騎士の一人が、小さく鼻を鳴らした。
「おい。何じろじろ見てる?」
俺は少し気まずそうに視線を逸らした。
「いや、違うんだ。そこに泊まってるのは俺の兄弟なんだ。よければ呼ぶけど」
俺が近づいたちょうどその時、部屋のドアが開いた。
カグラが寝癖のついた髪のまま現れ、目をこすりながら大きなあくびをした。
「誰だ、あんたたち……?」
騎士の一人が彼を上から下まで見た。
「カグラ殿でいらっしゃいますか?」
カグラは片眉を上げた。
「誰が聞いてるかによるな」
俺は廊下の壁にもたれ、腕を組んだ。
「おい、兄弟。普通に答えろよ。王国の騎士なんだから、たぶん重要な用だろ」
カグラは首を振り、二人へ視線を戻した。
「ああ。俺がカグラだ」
「我々と一緒に来ていただきたい」
カグラはまだ完全には目が覚めていない様子で、身体を伸ばした。
「兄弟も一緒に来ていいなら行く」
最初の騎士が答える前に、もう一人が彼の肩に手を置き、耳元へ顔を寄せた。
「おい……言葉には気をつけろ。こいつが重要人物なのは覚えてるだろ。ただ、どれほど重要なのか分かってないだけだ」
最初の騎士はごくりと唾を飲んだ。
「そ、それでしたら問題ありません。お二人とも、我々に同行してください」
俺はカグラと顔を見合わせた。
*一体どうなってるんだ?*
***
宿を出た。
外では、一台の馬車が俺たちを待っていた。
俺は数秒間それを眺めた。
*カグラを迎えに馬車まで用意したのか? なら、悪い話じゃない……と思う。*
俺たちは乗り込んだ。
十分ほどすると、俺とカグラの前方に王宮がそびえ立つのが見えてきた。
*何しにここへ来たのか全然分からないけど……まあ、いいか。*
馬車を降りると、俺たちは宮殿の廊下を通り、会議室まで案内された。
カグラと一緒に入ろうとすると、衛兵の一人が俺の前に腕を伸ばした。
「カグラ殿だけです」
俺は足を止めた。
「マジで?」
カグラが俺を見た。
俺は肩をすくめた。
「行ってこい、兄弟。俺はここで待ってる」
彼は頷き、中へ入った。
目の前で扉が閉じた。
***
会議室。
中へ入ると、カグラは長いテーブルを囲んで座る三人の人物を目にした。
中央には王妃エレナ。その左には大法官ドム。右には宰相ジャンが座っていた。
カグラは近づいて跪き、右手を胸の左側へ当てた。
エレナは彼を上から下まで注意深く観察した。
「立ちなさい。こちらの席へ。あなたをここへ連れてきた理由を説明します」
カグラの頬を一筋の汗が伝った。
「は、はい、陛下」
彼は立ち上がり、椅子の一つに腰を下ろした。
それから数分かけて、エレナ、ドム、ジャンはすべてを彼に話した。
母親のこと。
母親とジェームズ王の関係。
自分の身体に王家の血が流れていること。
そして最後に、国王と二人の王子の死について。
カグラはジェームズの息子だった。
そして今、王家の血筋に残された最後の男でもあった。
受け入れれば、ヴァレドーンの王として戴冠する。
拒めば、この王朝の継承はそこで途絶える。
カグラは顎に手を当て、目を伏せた。
「一度に受け止めるには多すぎる……何もかも急すぎる」
ジャンは彼を見つめたまま答えた。
「分かります、若きカグラ殿。ですが、簡単に言えば、あなたが我々に残された唯一の選択肢なのです」
カグラは数秒間考え込んだ後、何かを思い出した。
「あっ……忘れるところだった。母さんは? 何か分かってるのか?」
エレナが答えた。
「最近の調査で分かったことですが、あなたのお母様はおよそ二年前、病で亡くなっています」
彼女はわずかに頭を下げた。
「お悔やみ申し上げます」
カグラは腕を組んだ。
「そうか……教えてくれてありがとう」
彼は再びテーブルへ目を落とした。
*ジュリアスが、俺には個人的な目標が必要だって言ってたよな? まさか運命のほうから差し出してくるとはな。*
*あとは掴むだけ……それとも、この機会を逃して、いつか後悔するか。*
笑みが消えた。
*でも、いきなり王になるって? 責任が重すぎるだろ。*
エレナはしばらく黙り込んでいる彼を見つめた。
「ねえ、何か言いなさい。ずいぶん長いこと固まっているけれど、どうしたの?」
カグラは首の後ろへ手をやった。
「ああ、悪い。ちょっと考え込んでた。国の王になるって、とんでもなく大きな責任が必要だろ。受け入れたとして、みんなの期待に応えられるか分からないんだ」
ジャンは軽く笑った。
「ハハハ! そんなことでしたか? ご安心ください、若きカグラ殿。慣れるまで私が補佐いたします。何度か間違えたとしても問題ありません。何しろ、我々は人間なのですから」
カグラは一瞬黙った。
そして頷いた。
「ありがとう、ジャン大臣。その言葉、忘れないよ」
彼は立ち上がり、拳を握って三人を見た。
「よし。決めた」
***
首都アステリア。
中央広場。
カグラがあの部屋へ入った後、宮殿の騎士たちはほとんど俺を追い出すように外へ出した。
カグラがここに現れるとだけ言われた。
*でも、一体何が起きてるんだ?*
俺は周囲を見回した。
広場は普段よりはるかに混雑していた。空いている場所がほとんどないほど人で埋め尽くされ、正面には大きな舞台まで設置されている。
*有名な英雄でも来るのか?*
俺は人混みに近づいた。
すると、近くで二人の男がひそひそ話しているのが聞こえた。
「なあ、知ってるか? もうすぐ新しい王の戴冠式が始まるらしいぞ」
「本当か? 知らなかった。それより……ジェームズ王は死んだのか?」
俺は腕を組んだ。
*え? ジェームズ王が死んだ? いつからだ?*
ここ数日、首都ではいくつか噂が流れていたが、街があまりにも平穏だったため、ほとんど誰も信じていなかった。
突然、群衆が歓声を上げ始めた。
「見ろ!」
「来たぞ!」
俺は大きな舞台へ目を向けた。
王妃エレナが民衆の前に姿を現した。
そして、その隣には……
俺は目を見開いた。
「カグラ?」
顎に手を当てる。
*あいつ、あそこで何してるんだ?*
そして、これから何が起きようとしているのかに気づいた。
「待て……いや。まさか、俺が思ってる通りじゃないよな……」
エレナが数歩前へ出た。
広場が静まり始める。
彼女はヴァレドーンの民を見渡し、話し始めた。
「ヴァレドーンの民よ……この数日、我らの首都では多くの噂が広まっていました」
その表情は毅然としていた。
「本日、残念ながら、それが事実であることをお伝えしなければなりません」
広場が静寂に包まれた。
「陛下、ジェームズ王と、そのご子息であるグレイ王子、ベト王子は命を落とされました」
歓声が消えた。
エレナはしばらく黙った後、続けた。
「しかし、ヴァレドーンが統治者を失ったままになることはありません」
彼女はカグラへ向き直った。
「この王冠の法に従い、私はカグラを王家の正統な後継者として認めます」
エレナは王冠を受け取り、群衆の前で掲げた。
「彼が我らの王政の象徴だけでなく、この王国の責任と未来をも背負うことを願います」
カグラは頭を下げた。
エレナは彼の頭に王冠を載せた。
「この瞬間より、皆に紹介します。ヴァレドーン国王、カグラです」
俺は群衆の中で完全に固まっていた。
視線は舞台の上にいる親友から離れない。
昨日まで、カグラは女に声をかけては五分も経たずに振られている、ただのAランク冒険者だった。
今日……
あいつはヴァレドーンの王になった。
「冗談だろ……」




