第22話 — レイヴンの提案
翌日。
王宮庭園。
カグラ、ジャン、そして俺は、レイヴン王国の使節が到着するのを待っていた。ジャンの説明によれば、ジェラルドが彼を迎えに行き、ここまで連れてくることになっていた。
ジャンはまた、庭園は外交の話し合いをする場所としてふさわしくないとも警告していた。場合によっては無礼と受け取られ、戦争にまで発展しかねない。
だが、カグラはただ肩をすくめただけだった。
全員が入口へ目を向けた。ジェラルドが、背の高い金髪の男を連れてこちらへ歩いてきた。男は豪華な衣装を身にまとっている。その外見から、王族の中でもかなり高い地位にいる人物のようだった。
男が沈黙を破り、胸に手を当てた。
「陛下、お会いできて光栄です。私はエイドリアン、レイヴン王国の第二王子です。父であるエドゥアルド王の命を受け、参りました」
カグラは立ち上がり、彼と握手した。
「こちらこそ、エイドリアン」
そして椅子を指し示した。
「どうぞ座ってくれ。君たちが利用したいと考えているルートについて話し合おう」
エイドリアンは腰を下ろした。
ジャンがテーブルに近づき、レイヴン側の提案書をカグラの前に置いた。
「こちらです、陛下」
カグラは頷き、読み始めた。
**レイヴン王国からの提案**
レイヴン王国は、レノの森を通る交易路の利用許可に加え、商品をドラエヴェン王国へ輸送する際の利便性と速度を高めることを目的として、同地域での拡張工事および補助道の開設を求める。
その見返りとして、レイヴン王国は主要道路の再建、橋の建設、利用するルートの維持管理にかかる費用を全額負担する。
**独占条項:** 協定の有効期間中、レイヴン王国は工事の実施、および交易路の拡張に直接必要となる区域の利用について独占権を有する。また、道路の安定性と安全性を確保するため、地面の掘削や地形への変更を行うことができる。
カグラは数秒間、書類を見つめた。
*待てよ……レノの森だと? 俺とジュリアスは、あの地域で何度も依頼をこなした。あそこでは魔物の襲撃が頻繁に起きている。どうして、わざわざあんな危険な場所を選ぶんだ?*
*それに、この独占条項も気に入らない。地域の開発によってヴァレドーンにも利益があるかもしれないが、この提案には何かおかしなところがある。*
カグラはペンをインクに浸し、署名しようとした。
だが、ペン先が紙に触れる直前、指が止まった。
*署名はしない。嫌な予感がする。*
彼はペンをテーブルに置き、姿勢を正した。
「エイドリアン王子、交易路は必ずレノの森を通らなければならないのか? 我が国にはいくつもの地域がある。もっと短い道を使える場所もあるはずだ」
エイドリアンは頭をかいた。
「申し訳ありません、陛下。しかし、父ははっきりと命じました。どうしてもあの森でなければならないのです。他のルートには興味がありません」
カグラは眉をひそめた。
「エイドリアン王子、提案を再検討する時間が欲しい。明日の夜までに返答しよう」
エイドリアンは肩をすくめた。
「もちろんです、陛下。我々は交渉するために来たのです。必要なだけ滞在いたします」
カグラは薄く笑った。
「素晴らしい、エイドリアン。君の交渉に臨む姿勢は気に入った」
その後、カグラはジャンに、王子が宮殿で一晩過ごせる適切な場所を用意するよう頼んだ。また、二人の騎士を同行させ、一時的に王子の護衛を務めさせるよう命じた。
***
謁見の間。
カグラは玉座にどさりと座った。
「ジュリアス、レノの森を覚えてるか?」
「もちろん覚えてるよ、カグラ。あそこで何度も魔物の群れを倒した。それに、あの地域では行方不明になった冒険者もいた」
カグラは玉座の肘掛けに肘を置き、頬を手に預けた。
「じゃあ、お前も変だと思うよな? 急にあの場所へあれほど興味を示すなんて」
俺は眉をひそめた。
「ああ、カグラ。俺もそう思う」
広間の扉が開き、ジャンが入ってきた。
「陛下、ご指示いただいた件は完了いたしました」
カグラは頷いた。
「よし、ジャン。ありがとう。ちょうどジュリアスと、レイヴン王からの提案について話していたところだ」
ジャンは一瞬、視線を落とした。
「その話でしたら、陛下、独占条項には特に注意を払うべきかと存じます」
彼は近づいた。
「そもそも、交易路の契約にこのような条項があること自体がおかしいのです。目的が単に一つの王国から別の王国へ商品を運ぶことなら、必要なのはそのルートを利用する許可だけです」
カグラは顔を上げた。
「その通りだ、ジャン!」
それから俺のほうを向いた。
「兄弟、レノの森を調査してくれ。あの地域をよく調べて、レイヴンがなぜあそこを欲しがっているのか突き止めてほしい」
俺の表情が真剣になった。
「分かった。任せてくれ」




