第21話 — 休日の一日
評議会室。
カグラはテーブルに肘をついた。
「そうだな、兄弟。俺もそろそろ休みが必要みたいだ」
俺はあくびをした。
「この前の任務じゃ俺はほとんど何もしてないけど、俺も休みが欲しいな」
カグラは笑顔で拳を握った。
「よし! 決めた。今日は残りの時間、何もしないぞ!」
俺は眉をひそめた。
「なら、さっそく行こうぜ」
俺たちは評議会室を出て、王宮の廊下を歩き始めた。
俺はカグラを横目で見た。
「で、何するんだ?」
カグラは肩をすくめた。
「さあな。アステリアの中心街で何か食って、のんびり話でもしようぜ」
「俺は大賛成だ」
少し先から、険しい表情で書類の山を抱えたジャンがこちらへ歩いてきた。俺たちに気づくと、手を上げて呼び止めようとした。
カグラはすぐに俺を見た。
「ジュリアス、逃げるぞ。ジャンに仕事を押しつけられる!」
返事をする必要すらなかった。
俺たちは二人揃って反対方向へ駆け出し、最初に見つけた部屋へ飛び込んで扉を閉めた。
カグラはしばらく耳を澄ませた。
「まいたかな、兄弟?」
「たぶんな」
そこでようやく周囲を見回した。
部屋のあちこちに鎧や剣、アーティファクトが並んでいた。
「ところで……ここ、何の部屋だ?」
カグラは顎に手を当てた。
「たぶん王家の武器庫だな。見ろよ、この遺物の数! 今まで来なかったのがもったいないくらいだ」
それから扉へ目をやった。
「じっくり見るのは後だ。今は大臣に見つからずに王宮を出ないと」
俺は出口へ向かった。
「行こうぜ」
だが、ドアノブに触れる前に立ち止まった。
「待てよ。カグラ、その格好で街へ行くつもりか? もう国民はお前が王だって知ってるんだぞ。歩くだけで目立つだろ」
カグラは腕を組んだ。
「うーん……確かにな」
その目が近くの棚をなぞる。棚の上には黒い仮面が置いてあった。
カグラはそれを手に取り、顔につけた。
「これで解決だ」
俺は笑った。
「まったく、お前らしいな、カグラ。さっさとここから抜け出そうぜ」
***
俺たちは無事に王宮を抜け出し、アステリアの中心街へ向かった。
太陽は沈み始めていた。それでも通りは行き交う人々で賑わい、商人たちは威勢よく商品を売り込んでいた。
俺の腹が鳴った。
「おっと……腹が減ってきたな」
カグラは串焼き肉の屋台を指さした。
「あそこだ、兄弟! 何か食おうぜ」
店主は笑顔で迎えてくれた。
「おう、兄ちゃんたち! 今日は何にする?」
「肉の串焼きを二人前」とカグラが注文した。
「はいよ、すぐに用意するぜ!」
食事を終えると、俺たちは中央広場へ歩いていった。空がゆっくり暗くなっていくのを眺めながら、しばらくそこで過ごした。
カグラが俺のほうを向いた。
「こういう時間が必要だったんだ、兄弟。提案してくれてありがとな」
俺は拳を差し出した。
「いつだって一緒だろ、兄弟」
カグラは自分の拳を俺の拳に合わせた。
「いつだってな」
その時、二人の商人が話しながら近くを通り過ぎた。
「聞いたか?」
「何を?」
「ヴァレドーンの新しい王様の話だよ! なかなか変わった人らしい。男爵を財務大臣に任命したんだ。最初は期待してなかったけど、その男爵が結構うまくやってるらしい。それに新しい王様はハイエム子爵領とも協定を結んだんだと」
「協定?」
「ああ! 俺たちみたいな商人にも得がある協定さ。ハイエムが一年間、王国に塩を無償で供給するんだ。王冠には一銭も請求しないらしい。これで王国の支出が減って、うまくいけば市場の塩も安くなるかもしれないって話だ」
「へえ! 知らなかったな。じゃあ新しい王様、やるじゃないか!」
それを聞いたカグラは、照れくさそうに後頭部をかいた。
俺は笑いながら奴を見た。
「どうだ、カグラ? 国民は新しい統治者に満足してるみたいだぞ」
カグラは控えめに笑った。
「そうみたいだな、兄弟」
少しして、カグラは立ち上がった。
「そろそろ帰るか? もう暗くなる。ジャンが王宮で必死に俺たちを捜してるだろうし」
俺も立ち上がり、腕を伸ばした。
「ああ、行こう」
***
帰り道、俺たちは路地を通って近道をした。
何人かの男が壁にもたれていた。そのうちの一人が俺たちを見て、仲間へさりげなく合図を送った。
俺たちは歩き続けた。
やがて背後から足音が聞こえた。
まず一人。そしてもう一人。
二人の男が後ろからついてきていた。
カグラの表情が険しくなる。
「ジュリアス」
俺は肩越しに横目で振り返った。
「分かってる、カグラ」
さらに二人の男が前方に現れ、出口を塞いだ。
リーダーらしい男が自信満々の笑みを浮かべて近づいてきた。
「持ってるものを全部渡せ。それだけでいい。そうすりゃ傷一つつけずに帰してやる」
手下の一人が笑った。
「おい、親分! 守れもしねえ約束なんかするなよ! あははは!」
カグラは首を鳴らした。
「やるか、兄弟。後ろの連中は俺がやる。前は任せた」
俺は頷いた。
カグラが手を上げた。
「魔法――ファイアボール!」
魔法陣が現れ、盗賊たちへ火球を放った。一人目は直撃を受けて後方へ吹き飛んだ。
二人目は右へ転がり、間一髪でかわした。
カグラはもう一発、火球を放った。
男は再びかわし、剣を握って突っ込んできた。
「しぶといな!」とカグラが言った。
盗賊は正面から斬りかかった。カグラは一歩下がり、次の瞬間には踏み込んでいた。
平然と相手の剣をつかみ、首の後ろに一撃を叩き込んだ。
男はうつ伏せに倒れ、意識を失った。
俺は素早くカグラを見た。
*よし。あっちはもう片付いたな。*
そして自分の前にいる二人へ意識を戻した。
「お前らには手加減してやる。剣は鞘に収めたまま戦ってやるよ」
リーダーは歯を食いしばった。
「この野郎! 殺してやる!」
俺は笑った。
「なら、やってみろよ」
男は剣を振り上げて飛びかかってきた。
俺は身体を右へひねった。
「おっとっと!」
男はそのまま通り過ぎ、斬撃を外して、危うく体勢を崩しかけた。
隙を見た手下が突っ込んできた。休みなく攻撃を繰り出してきたが、俺はすべてかわした。
相手に隙ができた瞬間、剣の柄で頭を殴った。
男は気絶した。
背後でリーダーが再び怒鳴った。
「この野郎ぉ!」
俺は素早く振り向き、奴の腹に蹴りを入れた。
男は後ろへ吹き飛び、地面を転がって意識を失った。
俺はカグラのところへ歩いていった。
「どうだ? お前にとっては楽勝だったみたいだな」
カグラは笑った。
「そうだな、兄弟。冒険者だった頃がちょっと懐かしくなったよ」
それから眉をひそめた。
「ところで……こいつら、どうする?」
俺たちが答えを出すより先に、路地の入口に何人かの衛兵が現れた。
俺が事情を説明すると、衛兵たちは盗賊を拘束して連れていった。カグラは自分の正体を明かさなかった。
***
ようやく王宮に戻ると、ジャンにこっぴどく叱られた。
ジャンは目に見えて疲れた様子で、頭に手を当てた。
「とにかく……このようなことは二度とないようお願いいたします、陛下」
カグラは答えなかった。
ジャンは持っていた書類を整えた。
「それから陛下、ラヴェン王国から書簡が届いております。交易路について交渉するため、使節が陛下との謁見を希望しています」
カグラは指を組んだ。
「交易路か? 面白いな。それで、謁見はいつだ?」
「書簡によれば、こちらの都合に合わせて日取りを決められるとのことです」
カグラは頷いた。
「なら、明日にしてくれ、ジャン」
その顔に笑みが浮かんだ。
「ラヴェン王国が何を持ってきたのか、見てみようじゃないか」
***
作者より




