第20話 — ハイエムの負債
翌日。
カグラは、マテウス男爵が新しい役職でうまくやれているか確認し、さらに一つの機会を与えるため、評議会で小さな会議を開くことにした。
評議会室。
カグラはテーブルの上で指を組んだ。
「それで、マテウス。どうだ? 新しい役職には慣れたか? 何か困ってることはある?」
マテウスは唾を飲み込んでから答えた。
「は、はい、陛下……就任したばかりですので、まだ計画を実行に移している途中です。ですが、ご安心ください。今のところ収支はプラスマイナスゼロです」
カグラは肩をすくめた。
「なら問題ない」
そして両腕をテーブルに置いた。
「そうだ。ここに呼んだのは、王宮内に執務室を用意しようと思ってな。どうだ? もちろん、嫌なら断ってもいい」
マテウスは驚いたように眉をひそめた。
すぐに立ち上がり、胸に手を当てる。
「ぜひお願いいたします、陛下。それなら仕事がずっとしやすくなります。近くにいれば状況を把握し、王国の財政についてより良い判断を下せます」
カグラは笑った。
「よし」
続いてジャンを見た。
「ジャン、時間がある時にマテウスに合う場所を探してくれ」
ジャンは頷いた。
「承知しました、陛下。すでに最適な場所に心当たりがございます」
俺もこの機会に話へ入った。
『紅の負債』を鞘から抜き、剣を掲げる。
「そういえば、カグラ……この剣はどうする? 蛮族の頭領が持ってたものなんだけど」
カグラは立ち上がり、俺のところまで歩いてきて武器を受け取った。
刃を掲げ、数秒眺める。
「この剣、アーティファクトなんだろ?」
俺は眉をひそめた。
「あ、ああ、カグラ」
カグラは剣を俺に返し、自分の席へ戻った。
「なら、兄弟が持ってろ」
俺が答えるより先に、カグラが目を見開いた。
「あっ! ジェラルドにも戦場での素晴らしい働きに対して褒美を出さないとな」
ジャンは両手を背中へ回した。
「ジェラルドには相応の褒賞が与えられるよう手配いたします」
コン、コン。
俺は扉まで行き、開けた。
フェルナンド子爵だった。
彼は中へ入り、椅子を一つ引いて座った。
「遅れていなければよいのですが」
カグラは姿勢を整えた。
「気にするな、子爵」
フェルナンドは咳払いした。
「ンンッ。では、単刀直入に申し上げます、陛下」
「続けてくれ」
「報告を直接お届けするため、そして私が王冠に負っている負債をどのように返済すべきか伺うために参りました」
カグラは指を組んだ。
「まず報告を聞きたい。そのあと、支払いとしてハイエム家がヴァレドーンに何をできるか考えよう」
「は、はい」
フェルナンドは話し始めた。
「ハイエムの被害地域では、すでに復旧作業を始めております。また、情報漏洩の容疑者と思われる人物も拘束しています」
カグラは目を細めた。
「誰だ?」
「倉庫の主任書記官です」
フェルナンドは深く息を吸った。
「まだ口を割ってはいませんが、必ず自白させます」
カグラは頷いた。
「よし、子爵。何か分かったら、遠慮なく知らせてくれ」
「もちろんです、陛下」
カグラは腕を組んだ。
「さて、負債の件だが……」
マテウスが沈黙を破った。
「よろしければ陛下、一つ提案がございます」
「言ってみろ」
マテウスは近づき、カグラの耳元で何かを囁いた。
数秒後、カグラは眉をひそめた。
そして頷く。
「いい案だ、マテウス」
フェルナンドは唾を飲み込んだ。
「それで、陛下?」
カグラは彼へ目を向けた。
「ハイエムには一年間、王国へ無償で塩を供給してもらう」
フェルナンドは深く息を吸った。
「それだけでよろしいのですか、陛下?」
「ああ」
カグラは両腕をテーブルに置いた。
「ヴァレドーンの財政は今、決して良い状態じゃない。一年間、この供給費用を負担せずに済むだけでも、かなりの期間、大きな支出削減になる」
フェルナンドは薄く笑った。
「承知しました、陛下。供給が滞ることのないよう手配いたします」
カグラは頷いた。
続いてジャンへ向き直る。
「ジャン、契約書のほうも頼む」
ジャンは同意するように軽く頷いただけだった。
しばらくして、マテウス男爵と共に部屋を出ていった。
フェルナンドも立ち上がり、退出しようとした。
だが、その足が止まる。
「陛下……」
カグラが彼を見る。
「カノは? 何か話しましたか?」
カグラはため息をついた。
「まだだ。牢に放り込んでから、ずっと黙ったままだ」
そして表情を引き締める。
「だが、奴はラヴェノール公爵領へ送る。ジェフには尋問に長けた者たちがいるからな」
フェルナンドは胸に手を当てた。
「承知しました、陛下。お許しいただけるなら、これで失礼いたします。家族が待っておりますので」
カグラは笑った。
「許可する」
フェルナンドは部屋を出ていった。
評議会室の扉が閉まると同時に、カグラは椅子へ身体を投げ出し、長いため息をついた。
俺は奴を見た。
「お前、もうクタクタじゃねえか、カグラ」
笑みを浮かべた。
「一日くらい休んだらどうだ?」




