第19話 — 裏切り者
ハイエム邸。
ハイエム子爵領を完全に奪還したあと、ヴァレドーンへ戻る前に小さな会議を開いた。
会議室。
部屋にはカグラ、ノア、フェルナンド子爵、そして俺がいた。
カグラは顎に手を当て、周囲を見回した。
「ジェラルドは? ここにいないみたいだけど」
フェルナンドが前に出た。
「陛下、ジェラルドは休んでおります。戦いでかなり無理をしたようです」
カグラは息を呑んだ。
「無事だといいけどな」
俺は手を上げた。
カグラが俺を見る。
「どうぞ、兄弟」
俺は一枚の地図を掲げた。
「忘れるところだった。フロレンティーノが倒れたあと、あいつからこれを見つけたんだ」
地図をテーブルの上に置いた。
「どうやら子爵領に関係するものみたいだ」
フェルナンドが近づいた。印を目にした瞬間、その目が大きく見開かれる。
「まさか……」
さらに顔を地図へ近づけた。
「ここは、輸出される前の塩を保管しておく倉庫です」
俺はフェルナンドを横目で見た。
「精鋭を何人か向かわせて、この六か所を確認させる。全部この子爵領内にあるなら、すぐ済むだろ」
フェルナンドは頷いた。
カグラは腕を組んだ。
「いい考えだ、兄弟」
***
三十分が経った。
全員が黙ったままでいると、扉を二度叩く音が響いた。
コン、コン。
カグラは指を組んだ。
「入れ」
一人の精鋭戦士が入ってくると、すぐに跪いた。
「陛下、六か所の調査結果をご報告いたします」
全員の視線が彼へ向く。
「六つの倉庫のうち、四つが空でした」
部屋が静まり返った。
カグラは頷いた。
「ご苦労。報告ありがとう。下がっていいぞ」
「はい、陛下」
戦士は立ち上がり、部屋を出ていった。
フェルナンドは頭に手を当てた。
「私は……裏切られたのか?」
表情が一変する。
「これらの倉庫は厳重に秘匿されています。場所を知っているのは、信頼できる者だけです」
俺は姿勢を楽にした。
「となると、今の問題は誰が蛮族にこの情報を流したかだな」
他のみんなへ目を向ける。
「捕まえたあの蛮族なら、何か知ってるはずだ」
扉が開いた。
「それなら任せろ……ゴホッ、ゴホッ……」
ジェラルドがゆっくりと歩いて入ってきた。
「その蛮族を尋問するのに、うってつけの人物を知っている」
カグラは目を見開いた。
「ジェラルド? 休んでるんじゃなかったのか!」
俺はすぐに立ち上がった。ノアも同じだった。
二人でジェラルドを椅子まで支えた。
ジェラルドは深く息を吸った。
「その通りです、陛下。しかし、皆がまだ立っているのに、私だけが休む理由はありません」
姿勢を整える。
「陛下の近衛隊長として、模範を示さねばなりません」
カグラは彼の背中を叩いた。
「でも休むべき時には休まないとな、チャンピオン」
ジェラルドは再び姿勢を整えた。
「承知しております、陛下。お気遣いありがとうございます」
カグラは真剣な表情に戻った。
「じゃあ真面目な話……蛮族が何人残ったか、誰か分かるか?」
ノアは数秒、上を見た。
「陛下、私が確認した限りでは、戦える状態の者が約百八十人、負傷者がさらに五十人。生存者は合計二百三十人です」
カグラは頷いた。
「分かった」
そしてフェルナンドへ顔を向けた。
「こうしよう、子爵。生き残った百八十人には、街の被害を修復するのを手伝わせてくれ」
フェルナンドは耳を傾けた。
「生き残った蛮族が妙な真似をしないよう、騎兵隊はここに残しておく」
カグラは続けた。
「残りの負傷者五十人は、このままここで拘束しておいてくれ」
その目がさらに真剣になる。
「俺が連れていくのはカノだけだ。ヴァレドーンで徹底的に尋問する」
フェルナンドは薄く笑った。
「ありがとうございます、陛下」
片手を胸に当てる。
「陛下のご慈悲、決して忘れません。このフェルナンド・ハイエムが保証いたします」
カグラは頷いた。
「よし、子爵」
そして立ち上がった。
「ひとまず、この会議はここまでだ。玉座に戻らないとな。もう遅くなってきた」
***
会議は終わった。
俺とカグラ、ジェラルドはヴァレドーンへ戻った。
フェルナンドは領地を再び整えるため、ハイエムに残った。
そして何より……
裏切り者の可能性がある人物の調査を始めるために。




