第18話 — 紅の負債
フロレンティーノは剣を抜いた。
「何としても直接戦うのは避けたかったんだが……どうやらそうもいかないらしい。くそっ」
カノも剣を抜いた。
「そうですね、頭領。もう戦うしかありません」
カノは六人の精鋭戦士へ向かって突っ込んだ。
一方、フロレンティーノは俺へ向かって歩き始めた。
「いいね。これでようやく戦える」
俺は剣を抜き、奴を見据えて深く息を吸った。
次の瞬間、俺たちの姿が消えた。
ガキン!
正面から向き合う形で再び姿を現し、刃同士がぶつかり、その間に火花が飛んだ。
フロレンティーノは薄く笑った。
「悪くない」
その「褒め言葉」を無視し、奴だけに意識を集中させた。
フロレンティーノが正面から斬りかかってくる。
かわして、すぐに反撃した。
奴は頭を左へ動かしたが、それでも俺の刃が頬をかすめ、小さな傷を残した。
すると、妙なことが起きた。
奴の顔の傷が消えた。
そして同時に……
俺自身の頬が焼けるように痛んだ。
まったく同じ傷が、俺の頬に現れていた。
数歩後退した。
「何だ、今の?」
フロレンティーノは満足げに剣を掲げた。
「この剣は、ただの武器じゃない」
奴の目が俺を捉える。
「『紅の負債』と呼ばれる魔法のアーティファクトだ」
刃を指でなぞった。
「持ち主が負った傷は、すべて負債となる。持ち主の血が流れた瞬間、この剣は主の傷を塞ぎ、その傷を与えた者に、同じ大きさ、同じ深さの傷を刻む」
俺は目を見開いた。
*これはかなりマズい。*
*もし致命傷を与えてたら?*
*俺はもう死んでた。*
フロレンティーノが突っ込んできた。
次々と斬撃が飛んでくる。
俺はひたすら避けた。
考えなしに反撃するわけにはいかない。奴に重傷を負わせれば、そのまま俺に返ってくるかもしれない。
*あいつの手から剣を落としたら?*
*どうなる?*
構えを変えた。
反撃を始める。ただし、今度の狙いは一つだけ。
剣だ。
フロレンティーノが左へ回り込む。
刃が上がり、振り下ろされた。
右へかわし、奴の武器を狙った。
ガキン!
剣が奴の手から弾き飛ばされた。
フロレンティーノの表情が一瞬で変わった。
恐怖。
奴は『紅の負債』へ向かって駆け出した。
「そうはさせるか、このクズ!」
俺は稲妻のように飛び出した。
先に辿り着いた。
自分の剣を鞘へ収め、地面から『紅の負債』を拾い上げた。
刃をフロレンティーノへ向ける。
「これがなければ……」
目を細めた。
「お前は何でもない」
その瞬間、カノが精鋭戦士の一人を打ち倒した。
男は地面を転がり、フロレンティーノの近くで止まった。
フロレンティーノはその隙を利用し、気を失った戦士から剣を奪った。
俺も自分の剣を再び抜いた。
今は二本の剣を持っている。
その一本を奴へ向けた。
「来いよ、クズ」
フロレンティーノは稲妻のように突っ込んできた。
「殺してやる、この野郎!」
正面から押し込んでくる。
攻撃を受け止め、奴の胸へ斬撃を返した。
フロレンティーノは俺の心臓へ剣を突き刺そうとする。
身体を低くした。
刃がぎりぎりで通り過ぎる。
「チッ!」
奴の右脚を蹴った。
フロレンティーノは数秒膝をついたが、すぐに立ち上がった。
二人とも距離を取った。
俺は『紅の負債』を鞘へ収めた。
「もう分かっただろ?」
フロレンティーノはため息をついた。
「俺に勝ち目がないってことか?」
剣を強く握る。
「それなら……ああ。分かってる。剣の腕には、俺たちの間に大きすぎる差がある」
俺は頭をかいた。
「じゃあ降参して、さっさとこの茶番を終わらせたらどうだ?」
フロレンティーノはさらに強く剣の柄を握った。
「何のために?」
目つきが真剣になる。
「降参したところで、一時的に牢へ放り込まれるだけだ。その後は、陰謀や俺が犯した他の罪で、どこかで首を吊られるんだろう」
俺は眉をひそめた。
「それは一理あるな」
*否定して説得することすらできない。*
*たぶん、本当にその通りになる。*
フロレンティーノは俺を見据えたままだった。
「なら、さっさと終わらせよう」
俺の表情が険しくなる。
両足を地面へ踏ん張った。
奴も同じように構えた。
一瞬……
静寂。
そして俺たちの姿が消えた。
シャアッ!
互いの背後に再び姿を現した。
俺の刃のほうが速かった。
フロレンティーノが血を吐く。
身体が膝から崩れ落ちた。
そして二度と動かなかった。
服の中から小さな紙が滑り落ち、地面を滑った。
眉をひそめた。
「ん?」
しゃがんで拾い上げる。
それは子爵領の地図で、いくつかの場所にX印がつけられていた。
その時は大して気にせず、そのままポケットへしまった。
*あとで何なのか確認しよう。*
それから六人の精鋭戦士へ目を向けた。
立っていたのは四人だけだった。
残る二人はカノに倒されていたが、残った四人が奴を捕らえることには成功していた。
俺は奴のところまで歩いた。
すでに両手は縛られていた。
何か言おうとするより先に、屋敷内へ複数の足音が響いた。
庭の入口へ目を向ける。
最初に現れたのはカグラとノア。
そのすぐ後ろからジェラルド。
そして最後に、フェルナンド子爵。
*うわ……ジェラルド、ボロボロじゃねえか。*
カグラが沈黙を破った。
「こっちはもう全部片付いたみたいだな?」
俺は奴を見た。
「そこに縛られてる奴が、蛮族の副頭領だ」
フロレンティーノを指さす。
「残念ながら、頭領は俺との戦いで死んだ。降伏を拒んだから、こうなった」
カグラは頷いた。
「問題ない、兄弟。よくやった」
周囲を見回す。
「予想より早く終わったな」
そしてカノを指さした。
「こっちの大物は、あの女と一緒にヴァレドーンへ連行して拘束する」
カグラはフェルナンドを見た。
「それでいいよな、フェルナンド子爵?」
フェルナンドは頷いた。
「私は構いません、陛下。ただ、一つ訂正がございます」
全員が彼を見た。
「あの女性は亡くなりました」
カグラは数秒黙った。
「……そうか」
そして再びカノへ目を向けた。
「少なくとも、こいつは残ってる。尋問じゃ、小鳥みたいにペラペラ喋ってくれるといいけどな」
俺はカグラを見た。
「そういえば、カグラ……」
腕を組んだ。
「王様が戦場で何してるんだ?」
カグラは小さく笑い、左手を右腕の力こぶへ当てた。
「ちょっと手を貸しに来たんだよ」
俺は大笑いした。
「で、ジャンは? 絶対気に入ってないだろ」
カグラは眉をひそめた。
「ジャン?」
笑みがさらに大きくなる。
「俺の分身を玉座に座らせてきた。たぶん、俺が消えたことにも気づいてないぞ」
俺は首を振った。
「まったく、お前って奴は……」




