第16話 — 限界突破
東門。
ジェラルドはちょうど正門を破壊したところだった。
腕を組み、子爵領へ進入していく部隊を見つめる。
「よし。すべて作戦通りだ」
その時、前方に大勢の蛮族が現れた。
ジェラルドは手を上げ、拳を握った。兵士たちは即座に前進を止めた。
一言も発さず、ジェラルドは一人で敵へ向かって歩き始めた。白いオーラが身体から立ち上る。
蛮族の一人が彼を指さした。
「奴らをぶっ潰せ! 突撃ぃぃぃぃ!」
およそ五百人の蛮族が一斉に押し寄せた。ジェラルドの背後では、ヴァレドーンの兵士たちが動かず、彼の命令を待っていた。
ジェラルドはわずかに笑った。左足をゆっくりと上げ、全力で地面へ踏み下ろす。
「魔法技――破滅の踏みつけ!」
ドォン!
巨大な衝撃波が戦場を駆け抜け、正面から蛮族たちを襲った。何十人もが後方へ吹き飛ばされ、突撃の勢いは完全に崩れた。
ジェラルドは剣を抜き、刃を前へ向けた。
「進め!」
兵士たちは雄叫びを上げ、敵へ襲いかかった。
だがジェラルドは、一軒の家の屋根へ視線を向けた。
「いつまでそこに隠れているつもりだ?」
屋根の端に座っていた男が笑った。
「おっと。見つかっちゃったか」
興味深そうにジェラルドを見る。
「それにしても、今の攻撃は見事だったな。魔力を全部足に集中させて、それから……ドン! すごい。実にすごいよ」
男は屋根から飛び降り、通りへ着地した。その目がジェラルドを上から下まで眺める。
「その立ち振る舞いを見るに、あんたがこの部隊の指揮官かな」
ジェラルドは剣を構えた。
「そうだ」
見知らぬ男は笑った。
「俺はルイグ。『三本柱』の一人だ」
ジェラルドは首をほぐした。
「お前が誰だろうと知ったことじゃない」
ルイグは両手を背中へ回し、二本の剣を抜いた。
「そういう感じか?」
ジェラルドが踏み込む。剣が強烈な縦斬りとなって振り下ろされた。
ルイグは二本の刃をX字に交差させた。
ガキン!
衝撃で数歩後ろへ滑る。
ルイグは額の汗を拭った。
「ふぅ……危なかった」
そして二本の剣を地面へ突き刺した。
「風魔法――死の暴風!」
大きな魔法陣が彼の前に現れた。猛烈な風がジェラルドへ向けて炸裂する。
ジェラルドは顔の前で腕を交差させ、両足を地面へ踏ん張った。
「く、くそっ!」
風が皮膚を切り裂き、腕に小さな傷をいくつも作る。
反応する間もなく、ルイグは次の呪文を唱え始めた。
「風魔法――咆哮する風の君主!」
ルイグの左右に一つずつ、二つの魔法陣が現れた。その中から、風でできた巨大な二体の獣が形を成す。
ジェラルドは目を見開いた。
「あれは……」
剣の柄を強く握りながら、後退し始める。
「上級魔法か」
ルイグは、二体の獣が突進するのをただ眺めていた。
一体目がジェラルドへ噛みつこうとする。彼は左へかわした。
だが反撃するより先に、二体目の獣が風の球を放った。
ジェラルドは跳んだ。
風の球がその下を通り抜ける。
一瞬、避けきったように見えた。
ルイグが笑う。
「俺がお前なら、後ろを見るけどな」
ジェラルドは舌打ちし、横目で後ろを見た。
風の球が軌道を変えていた。
「くそっ!」
今度は避ける時間がなかった。
ドォン!
風の球が背中で炸裂し、彼を激しく前方へ吹き飛ばした。
ジェラルドは地面を何度も転がり、うつ伏せになって止まった。
ルイグは口元へ手を当てた。
「おやおや……戦いの間ずっと偉そうにしてたよな、指揮官さん?」
嘲るような笑みを浮かべる。
「それが今はこの有様だ。どっちが上か分かったか? もう喋らないのか? 猫に舌でも取られた?」
ルイグは笑った。
「ああ、そうか。喋れないんだな?」
指を鳴らす。二体の獣が消えた。
ルイグは地面へ突き刺していた剣の一本を引き抜いた。
「さて……この戦いを終わらせるか」
ジェラルドの指がゆっくりと閉じ始めた。
***
ジェラルドの記憶。
名もなき村。
あの日、俺は母さんが魔物に喰われるのを見た。
父さんは母さんを助けようとして……
同じ末路を辿った。
「母さん……父さん……嫌だ……」
そして俺は?
二人が喰われている間……
逃げた。
臆病者のように。
あの日から、俺は自分自身に誓った。
二度と弱くならない。
強さを求め続けた。
ただの衛兵としてヴァレドーン軍へ入った。そして階級を上がっていった。
衛兵。
兵士。
騎士。
そしてついに、騎士団長になった。
人生のすべてを、強くなるために費やしてきた。
だから……
ここで、今、負けるわけにはいかない。
任務を果たす。
たとえ命を失うことになっても。
***
ジェラルドは剣の柄に手を置き、無理やり身体を起こした。
ルイグは足を地面へ踏ん張った。
「おやおや……また立ったか」
ジェラルドは地面へ血を吐いた。
「戦いは……」
目を上げる。
「まだ始まったばかりだ」
その顔に笑みが浮かんだ。
ルイグは露骨な侮蔑を返した。
「ずいぶんな自信だな?」
ジェラルドはそれ以上何も言わなかった。再び戦闘態勢を取り、目を閉じる。
白っぽいオーラが全身を覆い始めた。
「禁技――限界突破」
周囲のエネルギーが一気に濃密になる。
ルイグは目を見開いた。
「その技……本当に厄介だな」
だが、すぐにまた笑った。
「なら、こっちも相応のもので返してやる!」
ルイグが詠唱を始める。
「風魔法――ニクス・トルネード!」
巨大な竜巻が現れ、ジェラルドへ一直線に進んだ。
彼は剣の柄を強く握り、動かなかった。
竜巻が迫った瞬間、ジェラルドは左から右へ、ただ一度だけ剣を振った。
シャアッ!
竜巻は真っ二つに裂け、そのまま消滅した。
ルイグは口を開けたまま固まった。
「何っ!? 俺の上級魔法を、何でもないみたいに斬っただと!?」
ルイグは地面から二本目の剣を引き抜き、全力で突っ込んだ。
連続する斬撃がジェラルドへ襲いかかる。
だが、今は違った。
ジェラルドは一撃一撃を正確にかわしていく。
ルイグは数歩後退した。
「そ、そんな……ありえない! 限界突破が禁技だとしても……どうしてそこまで強くなった!?」
ジェラルドは彼の目を見据えた。
「まだ分からないのか? 俺の強さは限界突破だけから来ているんじゃない」
剣を構える。
「勝つという意志から来ている」
ルイグの鼓動が速くなった。
「勝つ意志だと? くだらないことを言うな! お前はここで死ぬ!」
ルイグは再び詠唱を始めた。
「風魔法――咆哮する風の君主!」
二体の獣が再び現れた。
今度はジェラルドが動いた。
一体目が爪を振るって襲いかかる。ジェラルドは一動作でかわし、その剣が獣の首を通り抜けた。
頭が切り落とされ、風の身体は即座に崩れ去った。
ジェラルドは二体目へ踏み込んだ。
正面からの一撃。
シャアッ!
その獣も消滅した。
その間に、ルイグはジグザグに走りながら接近していた。
ジェラルドの目は、ただその動きを追っていた。
ルイグが接近し、上から下へ斬りつけようとする。
ジェラルドは二歩下がった。
そして、その腹を蹴りつけた。
「ぐはっ!」
ルイグは後方へ吹き飛び、回転して地面へ叩きつけられた。
動かなくなった。
ジェラルドは彼へ向かって歩き始めた。
近くまで来ると、意識を失った相手を数秒見つめた。
*ここからが一番嫌なところだ。*
剣の柄を強く握る。
*俺は殺すのが嫌いだ。*
ジェラルドは刃を掲げた。
*だが、俺の道徳は単純だ。敵が俺の命を奪おうとするなら、俺もそいつの命を奪う覚悟がある。*
剣が振り下ろされた。
刃がルイグの心臓を貫いた。
ジェラルドはしばらく動かなかった。
そして剣を引き抜き、刃を拭って再び鞘へ収めた。
振り返ることなく、そのまま前へ進んだ。




