第11話 — 失われた領地
王宮・評議会室。
カグラが扉から入ると、ジャンはすでに彼を待っていた。
何も言わずに椅子を一つ引き、テーブルにつく。数秒間、部屋を沈黙が包んだ。
やがて、カグラが口を開いた。
「それで、ジャン? どうして俺をここに呼んだ? 何かあったのか?」
ジャンは単刀直入に答えた。
「陛下、フェルナンド子爵の領地が襲撃を受けたようです。状況についてお話しするため、陛下への謁見を求めております」
カグラはテーブルに肘をついた。
*王ってのは一日も平穏に過ごせないのか……またかよ。*
「それで、フェルナンド子爵は? ここにいるのか?」
「はい、陛下。ご家族とともに隣室でお待ちいただいております」
カグラは椅子に座り直し、姿勢を整えた。
「入ってもらってくれ」
「はい、陛下」
ジャンは部屋を出ると、数秒後、三人を連れて戻ってきた。
最初の男が前へ出て、跪いた。
「陛下、ご挨拶をお許しください。フェルナンド・ハイエム子爵と申します。ハイエム家の当主であり、ヴァレドーン東部に位置する小さなハイエム子爵領を治めております」
カグラが答えるより先に、フェルナンドは続けた。
「隣におりますのは、愛する妻、ジゼリー・ハイエムです」
ジゼリーはドレスの両端をそっとつまみ、軽く会釈した。
カグラの視線が一瞬、彼女へ向いた。
*フェルナンド、いい趣味してるな……すげえ美人だ。*
彼は瞬きをした。
*いやいや。集中しろ、カグラ。集中だ。*
フェルナンドは、突然黙り込んだ王を理解できない様子で数秒見つめた。
カグラは咳払いした。
「ん、んん……続けてくれ、子爵」
「は、はい、陛下」
フェルナンドは同行していた青年を示した。
「そして最後に、こちらが息子のナタン・ハイエムです」
それから再びカグラへ向き直った。
「また、祝宴に出席できなかったことをお詫び申し上げます。ハイエム家一同、陛下のご即位を心よりお祝い申し上げます」
カグラは笑顔を見せた。
「みんなに会えてよかった。それと、祝宴のことは気にしなくていい。祝いの言葉、ありがとう」
片手を胸に当てた。
「じゃあ、俺も改めて正式に名乗っておこう。俺はカグラ。新たに即位したヴァレドーン国王だ」
カグラはテーブルの上で指を組んだ。
「よし。堅苦しい挨拶はここまでにして……何があったのか、最初から詳しく話してくれ」
フェルナンドは妻へ目を向け、部屋を出るよう小さく合図した。
それから椅子を引き、腰を下ろした。
その表情が重くなる。
「昨夜のことです……」
***
前夜……
フェルナンドが自邸にいると、近衛の兵士が慌てた様子で扉をくぐってきた。
子爵はすぐに立ち上がった。
「何があった?」
兵士は息を整えようとしていた。
「閣下……蛮族です! 奴らが攻めてきました!」
深く息を吸う。
「しかも、大勢です!」
フェルナンドの表情が一変した。
「迎え撃つぞ」
その後まもなく、戦闘が始まった。
ハイエムの兵士たちは侵入者と戦ったが、状況は瞬く間に制御不能になった。
「蛮族を倒せば倒すほど、次から次へと現れました」とフェルナンドは説明した。「こちらの被害も大きくなり始め、妻と息子の安全を考え、私は一時的に領地を放棄する決断をしました」
***
王宮・評議会室。
フェルナンドは頭を下げた。
「……以上が、起きたことのすべてです」
カグラは彼を見つめたままだった。
「蛮族がお前の子爵領を襲ったのは、これが初めてか?」
フェルナンドは顔を上げた。
「いいえ、陛下。以前にも何度か襲撃はありましたが、そのたびに対処できていました。しかし今回は違いました。まるで別物でした」
カグラは顎に手を当てた。
「奴らの目的は? お前の子爵領に、連中が欲しがる何かがあるはずだ。そこがヴァレドーンの領土だと分かってる以上、理由もなく永住目的で占領しようとするほど馬鹿じゃないだろ」
ジャンが前へ出た。
「陛下、おそらく目的は塩かと」
カグラは困惑した表情を浮かべた。
「塩?」
「はい。ハイエム子爵領はヴァレドーン最大の塩の生産地であり、供給地でもあります。我が国に供給するだけでなく、商人たちもそこで塩を買い付け、他国へ転売しております」
カグラは姿勢を正した。
「つまり……この子爵領はヴァレドーンにとって、かなり重要な場所ってことか」
「その通りでございます、陛下」
ジャンはフェルナンドへ目を向けた。
「それで、兵士たちはどうなりましたか、子爵?」
フェルナンドは数秒間黙ってから答えた。
「千五百人いた兵のうち……今も戦える状態にあるのは、わずか三百人です」
カグラの表情が険しくなった。
「マイク公爵領が私の子爵領に近いため、生き残った兵士たちにはそちらへ移動するよう命じました。私が連れてきたのは、兵士たちの指揮官であり近衛隊長でもあるノアだけです」
ジャンは黙っていた。
カグラは顎に手を当て、今聞いたすべてを頭の中で整理した。
「わかった、フェルナンド」
そして立ち上がった。
その表情が変わる。
「よし」
両手をテーブルについた。
「ここから、この領地を奪還するための作戦を立てるぞ」




