第9話 同志が見つからなくて絶望した
しかし、僕の周りにはバランスボールのように鬱陶しい水蒸気がひしめき合っているばかり。まるで地球は俺らのものだと言わんばかりに水蒸気どもがわらわらいる。
たまに大きい塊にぶつかることもあった。まるで力士にぶつかったような感覚。しかしその力士は、小脇にクッションのようなものを二つも抱えていやがった。
すれ違いざま、僕は真ん中のやつに敵意を覚えた。
この生理的嫌悪から分かる。
真ん中のやつは、炭素だ!
くそ炭素のやつめ……! 女を二人も侍らせやがって!
平和を脅かすやつは、そもそもハーレムが好きらしい。勝手に熱くなってろ、クソ野郎が。
しかも僕は、さっきの瞬間に、あの女みたいなビーズクッションに危険を感じた。正体は分からない。くそ鬱陶しい水蒸気に似た危険だ。
とにかく落ち着こう。
四面楚歌だとしても、僕には揺るぎない三つの手がある。いくら水蒸気や炭素や他のやつらがぶつかってきても、この窒素を崩すことは出来ない!
そして僕たち窒素が束になれば、水蒸気の暴走も炭素の愚行も抑えられる!
そう!
窒素が束になれば!
「窒素! 大集結!」
……しかし、やってくるのはバランスボールの大量の水蒸気と、ハーレム状態で図に載った炭素ばかり。
何故だ!
僕はこんなにも強い三つの手で何にも負けない安定感があるのに、何故この広い大気の中で同志がいない!?
おい、バランスボールども、邪魔だ邪魔だ!
炭素はあっちで熱くなってろ!
同志、同志はどこだ!?
ジェットコースター級の風に乗って、僕は必死に探した。
何度も呼びかけた。
何度もシンパシーを探した。
しかし、そこにあるのは水蒸気ばかり。それからたまにぶつかってくる女連れの炭素。
一体どれくらいそうしただろう?
同志は、遂に見つからなかった。
僕はあるとき気が付いてしまった。
同志窒素は、この忌々しいバランスボールの水蒸気と女連れの炭素に、隔離されているのだ。
(※作者の思考とは別物です)
(※誕生時の地球の大気は、水蒸気がかなりの割合を占めていて、二酸化炭素と窒素は両方合わせて20%に満たず、酸素は存在していなかったと推定されています)
(※分子には質量があります。水分子H2O=18、窒素分子N2=28、二酸化炭素CO2=44です)
(※二酸化炭素CO2の化学構造は、O=C=Oです。これがハーレム構造です(嘘))
(※原子に性別はありません)
(※窒素N2(N≡N)自体は非常に安定した分子で、N同志の化学結合が強いです)
(※主人公が目指している守備としては以下のイメージなんですが、気体である以上無謀でした)
水蒸気、炭素のくそども
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N≡N N≡N N≡N
N≡N N≡N N≡N N≡N
N≡N N≡N N≡N




