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第3話 僕は哺乳類の残酷さに絶望した

 人類の根元を刈ったのに、まさか哺乳類そのものが争う宿命だったなんて。

 あまりに絶望しきって気力を失った僕は、とりあえず21世紀に戻ることにした。ライオンと戦っても食われるだけだし。


 そしてぼんやりテレビをつけてみた。


『私は貝になりたい』


 ……貝になれば、世界は平和になるのだろうか。


 やがてテレビ番組は動物ドキュメンタリーに変わった。シャチの特集をしていた。

 シャチは、ウミガメを空高く跳ね上げていた。何度も何度も。

 どうやらそれは、シャチにしばしば見られる捕食行動らしい。彼らは餌をおもちゃにしてから食べることがあるとかなんとか。こんなの、普通の家庭では絶対に怒られるやつだ。


 場面は氷上のアザラシに切り替わった。北極海か南極海だろうか、小さな氷の上に横たわる小さなアザラシ。

 すると氷が揺れ始める。波が荒れ始めたのだ――いや、氷を取り囲むシャチたちが波を起こしていた。

 何頭ものシャチが、水面から白と黒の頭を出したり潜ったりして波を起こしている。氷上のアザラシが懸命に氷にしがみつくのをあざ笑うかのように、シャチたちは水面から顔を出す。

 悲しいかな、氷の上でアザラシは滑りやすい。あっけなく海に転がり落ちていった。


 捕食するためならひと思いに食べてしまえばいいものを、シャチとはなんと残酷なのだろうか。ウミガメのは弱い者いじめにしか見えなかったし、アザラシのはまるで集団リンチではないか。これは……意地の汚い人間にそっくりだ……!


 僕はぞっとしたまま、テレビ画面から顔を逸らせなかった。

 すると今度はどこかの浜辺にカメラが切り替わった。大量のアシカが横たわっていた。うわ、きもっ!

 もぞもぞ首だけ動く集団の中に、一際大きい二頭のアシカが、激しくぶつかり合っていた。首と首をぶつけ合って、なんか……ライオンの争いより間抜けに見えた。

 しかしナレーションによると、これも縄張りとハレムを巡る争いらしい。なんてことだ、領地だけではなく、女を取り合うところまで人間染みている!


 しかもアシカは意外なところまで人間と似ていた。端っこの方でハレムと二頭の争いを物欲しそうに眺めているオス……彼らはあぶれオスというらしい。

 やめろやめろやめろ! アシカまで非モテコミュニティを形成してしまうのか! 陰キャ陽キャは人間だけの概念ではなかったのか!


 あまりに哀れすぎたため、僕はあぶれオスから目を逸らした。

 二頭の争いは、エスカレートしていた。

 あんなにもっさりしているのに、どこからあんな激しさがあるのか。あんまり激しすぎて、メスたちが休んでいた場所から逃げる始末だ。


 そのとき、僕は見てしまった。

 争う二頭の片方が、仔アシカを踏ん付けてしまう瞬間を。

 二頭のアシカは、構わずぶつかり合いながら場所を移動していく。

 しかし仔アシカは——息絶えていた。誰も、メスたちも振り返りはしなかった。

 まるで、大戦争に巻き込まれた罪のない子供を見ているかのようだった。


 番組は、悲しい音楽を流してサバンナに切り替わる。

 母ライオンが、子ライオンを探していた。どうやら獲物を探すのに四頭の子ライオンを茂みに隠していたらしい。子供だけで留守番は違反とかいう法律なかったっけ? あ、あれは反対されたんだったか?

 結局母親は取り分なく帰ってきた。なんだよ、使えねぇ親だな。しかも三頭しか子ライオンを見つけられていない。どうせスマホでもしてたんだろ、ぇえ?

 ナレーションによると、母ライオンが不在の間をハイエナがうろついていたらしい。いくらサバンナが厳しいとしても、目を離しちゃいかんだろう。


 やがて母ライオンは、残りの一頭を見つけた。子ライオンは、茂みの中で瀕死の状態になっていた。

 果たして母ライオンがどう動くのか、僕はテレビに齧り付いて見守った。

 母ライオンはしばらく子ライオンを舐めるが——突然子ライオンを前足で抱え込み、歯を立てて我が子に食らいついた。


「え……」


 俺は何を見ているんだ?

 ナレーションは、語った。それが他の三頭の子供を守るための選択なのだと。

 こんなことを、哺乳類は選択してしまうのか? これはまるで育児放棄——いや違う、食い扶持減らしの生贄みたいな……。


 はっ。

 食い扶持減らしの生贄とは、すなわちライオンの共食いのようなものではないのか?

 たまになんかのホラー映画にあるような、サメや吸血鬼に捧げるみたいなやつ。宗教だのシンドロームだの都合よく名前を付けているが、実はもっと原始的な哺乳類としての習性ではないのか?


 弱いものいじめに集団リンチ。

 やめられない領土争いと女の取り合い。その末に犠牲になる弱者。

 食い扶持減らしの共食い……。


 危険だ。

 アウストラロピテクスどころの話では全くなかった。

 哺乳類そのものが、争いを生む生き物だった。

(※作者の思考とは別物です)

(※シャチの捕食行動はこちら→ https://youtu.be/Zmerz194pD8?si=BhrubP8Pgs0BeoP9

https://youtu.be/NURfU7u0G7o?si=fTKqqybuy09rCTgP)

(※アシカは首を動かすだけでなく、上体を持ち上げて動きます)

(※ライオンの共食いは生存選択です。選択に意思決定は伴いません)

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