第16話 爆発が起きて僕は人質になった
億年々、細胞どもが調子に乗っているのが大気中から見て取れる。昼も夜も列車ごっこしてパーティしている。たまに光るやつもいる! 海は今やクラブだ!
しかも大気中の粗大ゴミうんこが億年々更に増えている! 僕たち窒素同志のすみかを奪うばかりか、同志窒素たちをスタンガンで騙して飛び込み駆け落ちを促している!
「同志諸君! 粗大ゴミうんこのスタンガンには催眠効果がある! くれぐれも警戒を怠らないように!」
我が同志窒素たちは、寡黙に散会した。
クールなのはいいが、無反応すぎる……! 誰か反応してくれよ! 危機感があるのかどうかすら分かりゃあしない!
僕は海を見下ろした。
犯罪帝国Cどもは細胞どもに吸収され、細胞どもにおもちゃにされている。粗大ゴミうんこと堕落ちっくんがそのパーティに混ざり込むと、海は更に酒池肉林と化した。
……楽しそうだなぁ。
「はっ! 僕は何を考えた!」
危ない危ない。
粗大ゴミうんこの催眠スタンガンに僕もやられかけたのかもしれない。ちくしょう、粗大ゴミうんこめ!
「ちっくん。あの窒素のおじさん、いつもキモい」
「さんちゃん、あれは変化を嫌うヤバい人なんだ。意味もなく海の開発にクレーム付けてるんだよ」
「えぇ、超暇人だねぇ」
「ほっとこう。ところでさんちゃん、今日はどの生命育みに行く?」
「そうだなぁ、最近店舗拡大したディッキンソ・モールの生命カフェ行かない?」
「いいね。新しいアクティビティも増えたみたいだし」
粗大ゴミうんこと裏切り者ちっくんは、和気藹々と海に行く。
どうやら近頃はエディアカラ財閥が金に糸目を付けずに海の至るところで都市開発をしているらしい。みんなエディアカラ財閥が展開する商業施設に釘付けだ。
どう考えても怪しすぎるだろ。絶対不当な地上げと証券取引をしているに違いない!
僕のその懸念は間違っていなかったらしい。
売上を上げて調子に乗っていたエディアカラ財閥の株価は、あるとき急下落した。
かの有名な暗黒の何曜日だ。
ディッキンソ・モールもネミアナ・スパも、見る見る閉店に追いやられたらしい。
ほら見ろ。怪しい商売だったんだよ。
だが、ようやくこれで海も静かになり、浮かれる粗大ゴミうんこと裏切り者ちっくんを見ることもなくなるだろう。
しかし闇金融は、裏で恐ろしいマフィアを育てていた。億年も経たないうちに、マフィアが表社会を遊泳するようになった。
しかもマフィアは爆発的に増えた。
「ちっくん。今日はアノマロ組の転売イベントだよ。早く行かなきゃ」
「そうだった。でもピカイア組のイベントも気になるなぁ」
「この前の三葉虫組はちょっといまいちだったよね」
「やっぱり時代はアノマロ組かなぁ」
粗大ゴミうんこと裏切者ちっくんは、今日も浅はかに海に行く。
僕は身震いした。
氷河期は少し前に過ぎて最近は暖かくなってきているはずなのに、この状況にはうすら寒さしかない。
もはや海はただの戦闘危険区域になった。
カンブリアファミリーとバージェスファミリーが血で血を洗う戦いを繰り広げているという。そんな激戦区だというのに、粗大ゴミうんこと裏切者ちっくんたちは、命知らずにも前線へ出かけていく。まるで津波警報が出ているのに海岸沿いへ行く若者のようだ。
僕は海を見下ろした。
猟奇的な角を生やしたエビみたいなのが、牙を剥いている……。殺戮のために生まれたような生き物だ。
あんなものを生み出すなんて、一体いつから世界は平和でなくなったんだろう。粗大ゴミうんこのパパ活のせいか? 犯罪帝国Cの無節操な分社化のせいか?
この世界平和を脅かす忌々しい生物たちを、どうしたら絶滅させられるんだ?
思い出せ。
40億年前の人間だった頃の記憶を思い出せ。
……くっ。昆虫以下は生物だと思ってなかったから、ノーマークだった! しかも絶滅イベントなんて隕石くらいしか知らないぞ。
くぅ……憎い。世界平和を脅かす生命が憎い。同志窒素を騙す粗大ゴミうんこが憎い。ナイトクラブ通いの炭素のくそどもが憎い。僕は世界平和のために煩悩を捨て去っていたというのに!
僕の心の怒りに呼応するかのように、上空で積乱雲が発達し始める。
いいぞ。怒り怒れ。
お前の怒りで、粗大ゴミうんこも炭素のくそも、海を荒らす生命どもも、すべて焼き払ってしまえ!
激しい閃光が嘶いた!
雷はまっすぐ落下し――僕を刺激した。
「わあああああああああ!」
な、なんて衝撃だ!
しかし恐れるに足らず! 何故なら僕は今は無敵窒素なのだから!
むしろサンダー窒素になったら、もっと無敵になれる気がする!
素晴らしい! 電気が腰にいい刺激を与えている!
新しい自分になれそうだ!!
次第に電気が薄れ、僕は新しい自分を確認した。
……あれ?
身体が軽くなった気がする。
しかもまっすぐ立てないし、まっすぐ歩けないぞ。
僕、どうしちゃったのかな? 電気刺激によるダウンタイムか?
「ようやく結ばれたね、ちっくん」
「ふぁ!?」
何か、弾力の塊に僕は掴まった。
振り向くと、超至近距離に粗大ゴミうんこの片割れがいた。
「いけずなちっくんをずっと待ってたよ」
「え、え、え」
「もう、照れ屋さんなんだから! 早く生命育みに行こ!」
「え、え、え」
えええええええ!
粗大ゴミうんこにがっしり掴まれたまま、僕は海に引きずり込まれてしまった。
あ、でもなんか、弾力が気持ちいいかもしれない……。
(※作者の思考とは別物です)
(※酸素はうんこじゃないので、呼吸はやめないで下さい)
(※酸素にスタンガン作用はありませんし、うんこにスタンガン作用もありません)
(※最古の生物多様性イベントで知られているのは、エディアカラ生物群です。ディッキンソニアとネミアナが有名です。およそ6億年前~5.5億年前と言われています)
(※エディアカラ生物群の絶滅理由は諸説あります)
(※その後、5.38億年頃から三葉虫や節足動物などを含めた生物多様性が進行します。これがいわゆるカンブリア爆発です)
(※カンブリア紀とは、この時代の化石を初めて発見された地ウェールズのラテン語=「カンブリア」を由来にしていますが、カンブリア爆発として有名なのはカナダのバージェス動物群です)
(※生物絶滅イベントには、隕石落下以外にも、外敵からの捕食圧、地球気候の変化などがあります)
(※雷に打たれても新しい自分になれないので、雷に打たれたような気分で頑張って下さい)




