第15話 窒素同志が籠絡された
「同志諸君! 今地球の平和が危険に晒されている!」
僕は風に煽られながら、同志窒素に向かって叫んだ。
同志窒素たちは以前から寡黙で落ち着きのある集団だったが、慎重に僕の話を聴くものたちが以前より増えた気がする。やはり、窒素同志はクールで素晴らしい。
「海の中は腐海と化した! なんだあのおぞましい緑は! これらは犯罪国家Cと粗大ゴミうんこが癒着した証だ!」
海には、炭素のくそどもどころか、ふわふわ浮かぶ細胞がうようよいるとか!
なんと恐ろしい……!
「今や二酸化炭素のオヤビンどもはサウナに行くノリで海と大気を行ったり来たりして風紀を乱している!」
一体どんないかがわしいことをしているのか知らないが、海に行ったクソ二酸化炭素のオヤビンどもは、つるつるになって大気に戻ってくる。
「粗大ゴミうんこどもは、僕たちの生存圏を圧迫し、あろうことか遥か上空まで登り詰めて僕らを見下している! すっかりスター気取りだ!」
あの粗大ゴミうんこどもは、アサシンであったことを隠蔽して細胞たちに活力を与え、紫外線を吸収するなんて背信行為までやっている! あいつらのせいで、海がますますきな臭くなっている!
「今こそ僕たちの固い結束を忘れてはいけないときだ! いかなる誘惑があろうとも、僕たちの平和を守りきろう!」
窒素同志たちは、冷静に散会した。いつもながらクールで素晴らしいが、ちょっとばかり反応してくれてもいいのにと、僕は思わないでもなかった。
ひょっとすると、みんなシャイなのかもしれない。
「ねぇ、あの窒素クールじゃない? ちょっと話しかけに行こうよ」
少し離れたところに、二人組の粗大ゴミうんこが色めき立っていた。そいつらが向かっている先には、僕の寡黙クールな同志窒素たち。
ふん、バカなパパ活うんこたちめ。僕ら窒素がそんなお前らなど相手にするものか。
「あのぉお兄さんたち、ちょっと話しませんか?」
パパ活粗大ゴミうんこたちが同志窒素たちに話しかけに行った。
しかし同志窒素たちは、ポーカーフェイスを崩す様子もない! 流石我らが窒素!
「お兄さんたち、彼女さんとかいるんですかぁ?」
「超無口ですねぇ。ちょっとくらい反応下さいよぅ」
パパ活粗大ゴミうんこたちはベタベタと馴れ馴れしく同志窒素たちに構いに行く。
お前らのような粗大ゴミうんこが我ら窒素に釣り合うとでも思っているのか、バカどもめ。Cどもとあっちでパパ活でもしとけ。
そう捨て置いて僕がその場を離れようとしたときだった。
一筋の激しい雷が、すぐ近くに落ちた。
僕は思わず飛び退いたが、逃げる必要はなかったとすぐに気づいた。僕は三つの手で守りを固める窒素なのだから、人間みたく逃げる必要はなかったんだ。
「窒素は無敵! 窒素ばんざーい!」
僕がそう喜んだとき。
雷が落ちた先では、はにかむカップルが複数爆誕していた。
「ちっくん! 怖かった!」と抱きつくバランスボール。
「大丈夫だ。むしろこうしてさんちゃんと結ばれた」とクールな同志の半身。
「ちっくん。私、ちっくんと命を育みたい」
「さんちゃん……。俺もだよ」
「ちっくん……」
「ま、待て待て待て!」
僕は耐えきれなくなった。
ちっくんなる同志の半身に詰め寄った。
「おい、お前! 僕らの誇り高き半身はどうした! 何でお前、粗大ゴミうんこといちゃついている!」
「さんちゃんを粗大ゴミうんこと呼ぶな!」ちっくんは粗大ゴミうんこの前に出た。「さんちゃんと俺は運命的にビビッと来たんだ! あんたの古くさい帝国には飽きたんだ!」
「なんだと! この窒素の精神のかけらもないやつめ! 追放してやる!」
僕は裏切り者ちっくんと粗大ゴミうんこを追いかけた。
「さんちゃん、大気では俺たちは許されない……。そうだ、海に行こう! あそこで命を育もう!」
「ちっくん……どこまでもついていくわ!」
ちっくんとさんちゃんは、まっすぐ海に向かっていった。
くそう! どいつもこいつも海ならいくらでもしけ込めると思いやがって!
そして僕には見えてしまった。
あの駆け落ちどもが逃げた先で、緑色の細胞どもがうぇいうぇいしているのを。
そして緑色の細胞どもが、次第に集団化していくのを。
(※作者の思考とは別物です)
(※酸素はうんこじゃないので、呼吸はやめないで下さい)
(※二酸化炭素は光合成で取り込まれて、呼吸で排出されます)
(※大気中に酸素が増えてくると、雷などの高エネルギー反応により、窒素と酸素がくっついて、一酸化窒素(NO)などの窒素酸化物ができます。これからの進化形である硝酸系化合物(NO2やHNO3など)が、生物の栄養分になります)
(※窒素N系化合物は、空気から水中や地中、生物の身体を介して循環します。現代も同じです)
(※人間が雷に打たれても恋人は出来ません。死ぬだけなので、くれぐれも真似しないでください)




