第13話 アミノ酸駆逐部隊を編成した
「同志諸君! 今、我々の帝国は危険に晒されている!」
僕は風に煽られながら、同志窒素に向かって叫んだ。
同志窒素たちは、静かに落ち着いて聴いている。
「犯罪組織グループCが虎視眈々と支部を作り、地球を乗っ取り始めている! まるでやつらはゴキブリだ!」
同志窒素たちは、僕の言葉をクールに受け止めている。
素晴らしい、自制心の塊じゃないか。どこかのすぐ熱くなるやつらとは大違いだ。
「あのGどもは……あ、Cどもは、甘い言葉で僕らの不屈の精神を惑わしに来る! CとHはダメだ! あの不埒な奴らを許すな!」
僕は同志窒素たちを見渡した。
その群衆の向こうには、腐海の海が広がり始めている。
「ノーモア多様化! Cとよろしくやる脱落不良Nどもには鉄槌を! アミノ酸は作らせない!」
同志窒素たちは、クールに散会した。
素晴らしい。
行動するときも慌てふためかない。いつでも冷静沈着。それが我らが窒素というものだ。
僕はこうしてアミノ酸駆逐部隊を指揮した。
しかし僕たちにはどうしようもできないことがあった。
僕たちは海に行けない……! あそこが最前線地帯なのに、まるでバリケードのように海洋前線に手も足も出なかった。
一体海の中では何が起こっている!
Cどもがうぇいうぇいやってるのか!?
たまにひどい匂いがする区域もあるが、まさか麻薬でも蔓延しているのか!? 地獄谷のような匂いが違法でないわけがない!
しかも億年々海中の動きが不穏になっている……! Cどもが調子に乗ってるせいで、泡がぶくぶくバブルってる! 汚い金で遊びまくっているに違いない!
くっ! 大気はお前たちの好きにはさせない!
大気は僕たち窒素防衛隊が死守する!
僕たちの血で血を洗わない防衛戦は長く続いた。
しかし海中のCどもは、大気にゴミを放出してきた。しかもバランスボールが二つくっついた粗大ゴミだ。
「おい、バランスボールのばけもん! お前らによこす空気はねえ!」
僕は威厳たっぷりに帰還命令を出した。
バランスボールの粗大ゴミどもは言った。
「そんなこと言われましても」
「私たち、あっちに行っても嫌われてますし」
「嫌われている? 誰にだ?」僕は人情的に尋問した。
「なんていうんだっけ?」粗大ゴミの一人が首を傾げる。
「巨大C嫌酸派だっけ?」
「巨大C嫌酸派? 何だそれは」僕は嫌な予感を押し殺して、人情的に尋問した。
「海の中にめっちゃいる派閥です。日々闇取引ばっかりしまくっているんですよ」
なんてことだ!
犯罪組織グループCは、海中でそんなにも恐ろしい国を作っていたのか……?
「それで、お前たちは取引に応じなかったから追い出されたのか?」
「いえ……」
粗大ゴミの一人が恥ずかしそうにした。
「私たちは、少数シーアのバク派の排出物でして」
「排泄物?」僕は首を捻った。「お前たち、ゴミじゃなくてCたちのうんこか?」
「排泄物ではありません……排出物です……」粗大ゴミどもは恥ずかしそうにバランスボールをもじもじ動かした。
「で? 巨大Cどもはどんな闇取引しているんだ?」僕は粗大ゴミの言い分を捨て置いた。
「糖分を仮想通貨ATPに変えています」
「Cどもはマネーロンダリングまでやっているのか! 奴らはその仮想通貨を何に使っている?」
「活動資金にしています。生命の」
「せい、めい……?」
僕はすぐに理解できなかった。
せいめい。どこかで聞いたことあるフレーズだ。僕はそのフレーズに、どこか懐かしさと、そして失望を覚えた。
せいめい。かつては尊い響きだった。
せいめい。しかしそれは破滅的でもあった。
せいめい……。
「え! 生命!?」
粗大ゴミどもは頷いた。「生命です」
「まさか、あの生命が……!?」
「生命です」粗大ゴミどもは頷いた。「細胞です」
「細胞……! 一体いつからだ!」
「さぁ? シーアのバク派の話ではだいぶ前からいたそうですけど」
「だいぶ前から……だと!」
僕は腐海の海を見渡した。
まさか、まさか恐れていたことが既に起きていただなんて。
僕たち窒素防衛隊のアミノ酸駆逐精鋭部隊が活動している間に、まさか生命まで爆誕していただなんて……!
「なんということだ……! 生命なんて生ませてはいけなかったのに! どうやったら奴らを消せるんだ……!」
「あの、私たちなら出来るかもしれません」粗大ゴミが、か細い声を上げた。
「なに!?」僕は粗大ゴミを振り返った。「どういうことだ?」
「実は私たちは、巨大C殺傷兵器なのです」
「なんだって!」
僕は粗大ゴミどもをまじまじ見た。バランスボールが二つくっついたぼてぼてした体なのに、実はシーアのバク派から生まれたうんこではなく、兵器だったのか? 爆破でもするのだろうか?
よく分からないが、なんて頼もしいうんこなんだ!
「頼む! やってくれるか?」僕は粗大ゴミのうんこに賭けた。
「了解しました、窒素隊長」粗大ゴミのうんこは敬礼した。
「ところで、お前たちは何者なんだ?」
アサシン集団に粗大ゴミのうんこ呼ばわりは危ない気がして、僕は尋ねた。
粗大ゴミのうんこは答えた。
「私たちは酸素です」
(※作者の思考とは別物です)
(※窒素に自発性なんてありませんし、協調性もありません)
(※作品に書ききれませんが、原始地球には硫黄やリンや他の金属物質はありました)
(※炭素はCです)
(※有機物質の化学進化によって細胞・生命が生まれたと推定されています。およそ38〜35億年前です。アミノ酸は細胞を作る成分の一つです)
(※最初の生物は嫌気性生物と言われていて、酸素を必要としない生物です。中には酸素で死ぬ細菌もいます)
(※シアノバクテリアは酸素発生型の光合成細菌で、大気中の酸素濃度が上がったのはシアノバクテリアによるものと推定されています。上記の嫌気性生物より誕生は後です)
(※ATPは細胞内のエネルギーの受け渡しに使われる物質のことです。人間の体内も同じ)
(※酸素はうんこじゃないので、安心して呼吸してください)
(※地獄谷と呼ばれる温泉は違法ではありませんが、決して飛び込まないでください)
(※作者はサイエンス生物派だし、毎回こんな注釈付けたくないのに、化学派を避けて通れないのが原始地球です)




