第2A話 : 俺を泣かせた魔物
ざばり、と冷たい水を滴らせながら、ノルは滝壺から続く湖の岸辺へと這い上がった。
「試験での自分の出来が、あんなに酷かったなんて……信じられない」
濡れた前髪をかきむしり、地を睨みつける。もし昨夜の目的が「敵の全滅」ではなく単なる「生存」でなかったら、今頃自分は間違いなくあの化け物どもの胃袋の中だった。学院で培ったはずの自信は、ただの夜に木っ端微塵に打ち砕かれていた。
その場にへたり込み、これからの不安に押し潰されそうになった、その時だった。
「おはよう、坊や。やっと見つけたぞ」
背後から突然響いた声に、ノルは心臓が飛び跳ねるほど驚いて飛び起きた。
振り返ると、そこには腕を組んで図太く笑うファクロウが立っていた。
「何時間も探したんだからな。てっきりもう、冷たくなっているかと思ったよ」
「ファ、ファクロウ……!」
その顔を見た瞬間、ノルの目頭に一気に熱いものがこみ上げた。膝から崩れ落ちるようにして男にすがりつき、その分厚い袖を両手で掴む。
「来てくれたんだ……よかった……! もう二度と、会えないかと思った……!」
今にも大泣きしそうなノルの様子に、ファクロウは引き気味に肩をすくめた。
「落ち着けって。そんな大騒ぎするほどの極限状態でもねぇだろ。確かに大変な夜だったろうが、大げさに騒ぎ立てるほど深刻な状況でもない。さあ、立て。新しく伝えることがある」
くるりと背を向け、男は歩き出した。
ノルは慌てて涙を拭い、その背中を追う。
「新しく伝えることって……それってつまり、俺が試験に合格したってことか!?」
問いかけは無残にも無視された。
「おい、ちょっと待てよ! 頼むから質問に答えてくれ! こっちは何も分かってないんだ!」
縋り付くようなノルの声を置き去りに、ファクロウはただ淡々と森の坂道を登っていった。
二人は木々の合間を縫うようにして、緩やかな斜面を進む。
「ノル、よく聞け。話せる時間はあまりない」
ファクロウが歩きながら腕輪に軽く触れると、そこから淡い光を放つ長方形のホログラムが空間に展開された。ノルは言葉を飲み込み、静かにその背中を見つめる。
「今日からお前は『正式訓練生』だ。ハンター試験は、大きく分けて四つの段階に分類されている。第一段階が『生存』。第二段階が『生活維持』。第三段階が『訓練』。そして第四段階が『最終評価』だ」
光り輝く文字が、ノルの視界を遮るようにスライドしていく。
「ほとんどの受験者は初日の夜に死ぬ。だから、最初の段階では最低限の説明しかしない。死ぬかもしれない奴に資源や時間を割くほど、組織は暇じゃないんでね」
その淡々とした言葉に、ノルは胸の奥が冷たくなるのを感じた。
(そんな……あまりにも冷酷すぎる。受験者を見捨てているのと変わらないじゃないか……)
だが、それがこの世界の、狩人の「現実」なのだと思い知らされる。
坂道を登りきると、視界が開け、平坦な台地へと出た。
ファクロウはホログラムを消し、振り返った。
「お前は幸運にも第一段階を突破した。だから、ここから先を詳しく説明してやる。合格した訓練生は、この土地の環境に最低三ヶ月は順応しなければならない。その後で、この俺――極めてハンサムな指導官から次の指示を受けることになる」
胸に恭しく手を当て、これ以上ないほど誇らしげに微笑むファクロウ。
しかし、ノルの頭に入ってきたのは別の言葉だった。
「ま、待ってくれ……つまり、これから三ヶ月間、あのリンゴを食べて木の上で寝るような生活を続けろってこと……!?」
じわじわと顔から血の気が引いていく。
「順応していく頃には、自分で家を建てて、狩りにも慣れているはずだ。まあ、それができるかどうかはお前の問題であって、俺のじゃないからな」
絶望するノルを置いて、ファクロウの説明は続く。
「日が経つにつれて、モンスターはどんどん強くなる。だが、火を使えば奴らを寄せ付けずに済む。昨日通った村へ行けば、松明やオイルランプが手に入るはずだ。木材や食料、あるいは価値のある物を持っていけば、物々交換をしてくれる」
ファクロウは懐からリンゴを取り出し、小気味よい音を立ててかじった。
「もっとも――お前がその村を見つけられれば、の話だがな」
ノルが唾を呑み込む。
「それから……ああ、そうだ。道具が壊れたら、中央の村で補充ができる。持ち物はどんなゴミでも全部取っておけよ。商人は再利用が大好きだからな。うっかり捨てたりすると、次に買う時にとんでもなく高くつくぞ」
その言葉を聞いた瞬間、ノルの身体が完全に凍りついた。
脳裏に、昨夜の光景がフラッシュバックする。一滴も残っていないからと放り投げた水筒。そして、見事に真っ二つに叩き折ってしまった、支給品のあの剣。
「……おい、どうした? 顔色が悪いぞ」
怪訝そうにファクロウがノルの肩に手を置く。
「だ、大丈夫……です。何でも、ありません……」
引きつった笑みを浮かべ、ノルは全身を緊張させた。
「よし。伝えることは以上だ。ああ、危うく忘れるところだったな。もし途中で諦めたくなったら、『試験を降りる』と大声で叫べばいい。……その後、お前がどうなるかは分かっているだろうがな」
その言葉の裏にある不穏な響きに、ノルは表情を引き締めた。
「心配いらない。絶対に諦めたりしない!」
確かな光を宿した瞳で宣言するノルに、ファクロウはほんの僅か、口元を綻ばせた。
「いい覚悟だ。期待しているぞ。じゃあな、幸運を祈る」
言い終えた瞬間、ファクロウの姿が掻き消えるようにその場から消失した。
「ま、待って! ファクロウ――ッ!」
ノルが反射的に大声を上げると、一瞬の後、再び風が巻いてファクロウが目の前に現れた。その顔には明らかな苛立ちが浮かんでいる。
「なんだ!? なんでそんな大声を出すんだよ……?」
「あ、いや……その……。剣のことで、ちょっとお話ししたいことがありまして……」
ノルは頬を引きつらせながら、両手の親指を近づけて「折る」ジェスチャーをして見せた。
地面に無残に転がる、二つに折れた支給品の鉄剣。
「信じられん……。たった一日で剣をぶっ壊す奴なんて、これまでの歴史で一人もいなかったぞ」
ファクロウは心底呆れたように額を押さえてため息をついた。
「えっ、俺が初めて!? じゃあやっぱり、俺って何か特別な才能が――」
照れ隠しに笑いながら頭をかくノルに、ファクロウの鋭いデコピンが飛んだ。
「そんなことで胸を張るなバカ。まあいい、代わりの剣は俺が探してきてやる。お前みたいなのが丸腰で死なれたら後味が悪いからな。……じゃあ今度こそ行くぞ。日暮れ前には戻る」
今度こそ、風の音と共に指導官の姿は消え去った。
ファクロウは言った通り、日が沈む前に新しい剣を持って戻ってきた。
彼が再び去った後、俺は昼間のうちに幹に切れ目を入れておいた大木へと向かった。慣れた手つきで足をかけ、枝を伝って頂上近くまでよじ登る。
こうして、俺の新しい「生活維持」の生活が始まった。
朝はシェルターの建設に全ての体力を注ぎ、昼は食料となるリンゴと水を探し歩いた。そして、空が朱色に染まる頃には必ず木の上へと戻り、ロープで身体を枝に固定して身を守った。
水浴びは近くの滝で行い、ただの川水だけでなく、すり潰した野花の汁を身体に塗りつけることで、モンスターに人間の匂いを悟られないよう徹底した。
細く割った木材を並べ、泥と編み込んだツツジのツタで隙間を埋めていく。地面に深く穴を掘り、太い柱を突き立てて固定する。最初はただの木屑の山だった場所が、少しずつ、風雨を凌げる簡易的な「家」の形へと変貌していった。
正直、最初の一週間は何度も「試験を降りる」という言葉が喉元まで出かかった。
だが、ここまで来て負け犬のように這いつくばって帰るなんて、死んでも嫌だった。俺は絶対に、諦めない。
一ヶ月が過ぎる頃には、家はほぼ完成していた。
残された唯一の問題は、夜間にモンスターを寄せ付けないための「灯り」だった。
火を起こす技術を身につけるだけで、丸一週間を要した。乾燥した木材を擦り合わせ、火花を散らし、ようやく自作の炉に小さな赤い爆ぜる光が灯ったとき、俺は言葉にならない喜びで飛び跳ねた。
この頃の俺は、まるで一人前の狩人になったような万能感に満ちていた。これほど過酷な森で、一ヶ月も一人で生き延びたのだから。
調子に乗り、次に何をすべきか考えていたその時――俺の脳裏に、ふとファクロウの残した言葉が蘇った。
『日が経つにつれて、モンスターはどんどん強くなる』
我に返り、背筋に冷たいものが走った。
そうだ。この一ヶ月、俺は自分の生活を整えることに必死で、モンスターという最大の脅威から目を背けていた。夜になれば木の上に逃げて目を閉じ、朝になれば日光で消え去るのを待つだけだった。
だが、それではいつまで経っても「生存」の域を出ない。
そろそろ、奴らと向き合う時だ。観察し、理解しなければ、この先には進めない。
それから俺は、昼に眠り、夜に起きる生活へと完全に切り替えた。
木の上の暗がりから、息を殺して夜の森を見下ろし、モンスターたちの行動パターンや変異の兆候を克明に記録していった。
腐敗した肉体を揺らすゾンビ、カタカタと骨の音を鳴らすスケルトン、そして、不気味に変異した獣たち。
奴らを観察するうちに、一つの法則が見えてきた。
群れの中でも強い個体ほど、異様なまでに縄張り意識が強い。そいつらは集団を嫌い、一匹で狩りをすることを好んだ。時には、自らの力を誇示するため、あるいは飢えを満たすためだけに、同族であるはずの他のモンスターを容赦なく噛み殺すことさえあった。
観察を終え、俺は少しずつ実戦を始めた。
孤立した小さな群れや、はぐれた個体だけを狙い、確実に仕留める。倒した後は即座に自作の「花の消臭液」を浴び、追跡を撒く。
そうして試行錯誤を繰り返すうちに、一対一の状況であれば、変異したモンスター相手でも対等に渡り合えるだけの戦い方が身についていった。
ファクロウと別れてから、すでに二ヶ月の月日が流れていた。
この深い孤独の中で、俺には新しい「友」ができていた。
彼の名は「モクサイ」。とても賢く、そしていつも俺の話を静かに聞いてくれる優しい友だった。
拠点のすぐ隣にある大木の幹に、ナイフで笑顔の目と口を彫り込んだだけの、ただの木。だが、今の俺にとっては、彼だけが正気を保つための唯一の拠り所だった。
「モクサイ、中央の村を探すべきだと思うか?」
風に揺れる葉の音が、俺の耳には「早く行け」という賢者からの助言のように聞こえた。
分かっていた。モクサイの言う通りだ。だが、もし村を探しに出て、この拠点に戻れなくなったらどうする。まだその時期じゃない。俺は言い訳を探していた。
それでもモクサイは、風が吹くたびに何度も俺の背中を押すように囁くのだ。
「行け」と。
確かに、俺の道具はもう限界だった。ファクロウに貰った剣も、木を切り倒し続けた斧も、刃こぼれだらけでいつ砕けてもおかしくない。
決意を固め、中央の村を探すための探索を始めて二週間が経った。俺は迷子にならないよう、進む先の木々の幹に「×」や「○」、「□」といった目印を刻みながら森の奥へと進んだ。
だが、探索範囲を広げるたびに、森の状況は目に見えて悪化していった。
現れる魔物たちは日に日にその強度を増し、より奇妙に、予測不能な姿へと変異を遂げていた。
特に、夜の空に現れるようになった奇妙な「鳥」のような存在は恐怖そのものだった。
それは巨大で、骨格を持たない軟体動物のように空中を不気味に漂っている。こちらの視界から消えた一瞬の隙を突いて、音もなく高空から急降下して襲いかかってくるのだ。ただ、こちらが素早く振り返って「視線を合わせる」と、奴らは怯えたように再び暗雲の彼方へと逃げ去っていった。
拠点の壁に刻まれた、日付を示す無数の傷。
ファクロウと再会する約束の日まで、あと十五日。
だが、俺の剣はすでに限界を迎えて折れてしまっていた。
「モクサイ、どうすればいい。剣が使えなきゃ、今夜の探索は無理だ」
大木の前にしゃがみ込む俺に、モクサイは「そこら辺の鋭い石を使って、新しい剣を作れ」と教えてくれた。
三日間の試行錯誤の末、割れた鋭利な石を木片とツタで固定した自作の石剣が完成した。見た目は最悪で、お世辞にも格好良いとは言えなかったが、切れ味だけは最低限確保できた。
その夜、俺は例の「空飛ぶ鳥」の正体を突き止めるべく、再度森の奥へと向かった。
奴らはやはり空中に浮かぶばかりで、一度も地上に降りてこようとはしない。こちらの視線から逃れようと執拗に位置を変えるが、俺が振り返って睨みつけると、決して襲いかかってこなかった。まるで、人間の「眼光」そのものを恐れているかのように。
その静寂を破ったのは、大地の震えだった。
突如として地面が激しく裂け、巨大な漆黒の「根」がのたうち回りながらせり上がってきた。
周囲の木々が激しく揺れ、木の葉が嵐のように舞い散る。目の前の大木の樹皮が、メリメリと音を立てて引き裂かれ、そこから裂けた「口」のような不気味な模様と、赤く怪しく光る「六つの目」が浮かび上がった。
森そのものが変異した、巨大な植物型モンスター。
二体を同時に相手にする羽目になった俺は、自作の石剣を振るったが、硬質な樹皮に刃が通らず、全く歯が立たなかった。
鋭い枝に身体を叩きつけられ、死を覚悟したその瞬間――信じられないことが起きた。
二体の巨大樹が、互いに根を絡み合わせ、激しい殺し合いを始めたのだ。
まるで、「どちらがこの獲物(俺)を喰うか」を争うように。
これまで出会ったどの魔物よりも、異常なほどに縄張り意識が強い。俺はその隙を突いて、懐から取り出した花の消臭液を全身に浴びせ、泥泥になりながら必死の思いでその場から逃げ出した。
ボロボロになり、息を切らせて家へと転がり込んだ俺は、床に倒れ込みながら叫んだ。
「モクサイ! 大変なことが起きたんだ! 森が……あの木たちが、俺を殺そうとした!」
ハァハァと荒い呼吸を繰り返す。
「落ち着けって? 他の魔物と同じだって? ……ああ、確かに似てはいたよ。でも、奴らは強すぎる。今の俺じゃ、到底太刀打ちできない!」
立ち上がり、ふらつく足取りで拠点の隣にあるモクサイへと近づく。
「モクサイ……お前はどう思う。俺に、あの化け物どもを倒せると思うか?」
静まり返る夜の空気の中、俺は少し声を落とし、モクサイの「声」を真似て自答した。かすれた、老人のような落ち着いた声で。
「『強くなる必要はない。お前の“知恵”こそが最大の武器だ。それを活かせ』……」
涙が、ぽろぽろと頬を伝って地面に落ちた。極限の孤独と、死の恐怖の中で、その木肌のぬくもりだけが救いだった。
「本当に……本当にそう思ってくれてるのか……? ありがとう、モクサイ。お前みたいな最高の友に出会えて、俺は幸せだ。約束するよ。お前の言葉、絶対に守るから」
俺は子供のように、顔を彫り込んだ幹に両腕を回し、強く抱きしめて泣いた。
その時だった。
抱きしめていた幹から、ピキピキと、嫌な不協和音が響いた。
「……え?」
腕の中で、モクサイの樹皮が歪んでいく。笑顔だったはずの顔の切り込みが、ぐにゃりと歪み、悍ましい牙を剥いた「口」へと裂けていく。葉がパラパラと、まるで血の滴りのように虚しく地面へと落ちていった。
「な、何が起きてるんだ……!? モクサイ! お願いだ、冗談だろ、戻ってくれ!」
恐怖と悲しみが混ざり合った悲鳴を上げるノルの胸元に、変異したモクサイの太い枝が、容赦のない速度で叩きつけられた。
ドォン! と身体が吹き飛ばされ、泥の上に転がる。
「お願いだ、モクサイ! お前を傷つけたくないんだ!」
叫びながら、ノルは腰の石剣を引き抜いた。
しかし、異形と化したモクサイは容赦なく襲いかかる。鋭い枝を切り落としても、傷口から新たな芽が急速に吹き出し、一瞬で元の枝へと再生してしまう。果てしない再生能力。
激しい攻防の末、激しい金属音と共に自作の石剣が根元からへし折れた。
同時に放たれた太い幹の一撃がノルの脇腹を捉え、彼は家のすぐ近く、赤々と燃える焚き火の脇まで吹き飛ばされた。
全身の激痛に視界が歪む。迫り来るモクサイ。
他の変異した巨大樹とは違い、このモクサイには赤く光る「目」がなかった。俺が顔を彫った時のままだからだ。だが、それゆえに狂暴に枝を振り回し、音だけでこちらを圧殺しようとしてくる。
「う、あぁぁぁッ!」
ノルは涙を流しながら、焚き火の中から真っ赤に燃える太い薪を掴み取り、迫り来る枝に向けて力任せに振り抜いた。
ジュウッ! と不気味な音が響き、炎がモクサイの乾燥した枝へと燃え移る。
「ギャァァァッ!」
焼けるような、引き裂かれるような悲鳴が森に響き渡った。炎に包まれたモクサイは、狂ったようにのたうち回り、なおもノルに向けて枝を叩きつける。
だが、火を恐れる魔物の習性は絶対だった。激しい熱に包まれたモクサイの身体は、二度と再生することなく、炭化しながらその場に崩れ落ちていった。
「モクサイ……ごめん……こんなつもりじゃ……なかったんだ……。本当に、ごめん……ごめん……」
地面に這いつくばり、燃え殻となった友の残骸を前に、ノルは子供のように声を上げて泣きじゃくった。
その時、パチパチと爆ぜる炭の音の隙間から、掠れた「声」が、ノルの脳裏に直接響いたような気がした。
『……わかった……か……?』
『……おまえ……なら……強い……魔物にも……勝てる……』
ノルは涙に濡れた顔を上げ、震える声で呟いた。
「え……?」
『……知恵……こそ……お前の……力だ……。それを……無駄に……するな……』
最後の赤熱した炭が、静かに崩れて黒い灰へと還っていった。
その後のことは、あまり覚えていない。
俺はただ、完全に燃え尽きて冷たくなったモクサイの灰の傍らで、朝が来るまで膝を抱えて泣き続けた。
昇ってきた朝日が森を白く染め上げ、残された灰が朝風に溶けて消えていくのを、俺はただじっと見届けていた。
ぽっかりと空いた隣の空間を見つめ、それから、ゆっくりと顔を上げた。
モクサイが教えてくれた。
俺の最大の武器は、この頭、知恵なんだと。
俺は涙を袖で力強く拭い、立ち上がった。
次の夜が来る。そして、その次の夜も。
俺はモクサイの言葉を胸に、生き延びるため、より鋭く、より壊れにくい「知恵の剣」を作るために、新たな石を拾い集め始めた。




