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 プリズムは港で夜の日本の入江をじっと眺めつつ、ビットに座っていた。辺りは、ところどころが強い明かりで照らされる以外は漆黒の闇である。

 プリズムはある命を請け負っていた。探偵たちの手助けに続けての仕事だ。だが、仕事の質が違いすぎる。

 プリズムは『自分』というものを心の奥底に、厳重に鍵をかけて閉じ込める。彼は今そういう作業をしている。真っ暗な闇の中に光がチラつく。その度、その水面が揺れて一様でないのが分かった。その穏やかに揺れる波は、押さえつけられるのに抵抗して暴れる『自分』を鎮静化させる、麻酔薬のような役割をする。そうして油断して眠ってしまったところをさっさと、閉じ籠めてしまうのだ。

 こうすることで、プリズムは今まで『自分』を守ってきた……つもりだ。もしかして本当は、とっくに『自分』なんてものは、死んでしまっているのかもしれない。だが、この作業をしないと——したふりでもしないと、感情的になって暴れ出す『何か』は確かに存在しているのだ。

 ……静かな港に、カツーンカツーンと足音が響く。こんなところへの来客は奴らしかいない、そう思ってプリズムは、そろりと立ち上がった。その眼は既に、野生の狂気に満ちている。

 次の瞬間には、生身の人間ではありえないような跳躍力を見せ、その足音の主の前に降り立った。

 男が三人、スーツに身を包んでいる。そして、一人銃を向けられたボロボロの男が、三人のいいなりになっているようだった。

火灰かばい様、こいつは……」

「『デスティニー』のプリズム=プレイン……」

 火灰と呼ばれた黒いサングラスをかけた灰色髪の男がつぶやく。サングラスのせいでその表情はうかがい知れない。

 プリズムは「キャハハハハ」と笑った。

「ヤマトのみんなだよねぇ、何の用なのかなあ?」

 プリズムは狂ったようであった。

 火灰が合図して二人の男が跳んだ。二人はコンテナの上に乗って、三方からプリズムを囲む。そして銃を抜いて構えた。

「うーーん、いいでしょう!」

 プリズムは後ろに跳びのいたと思うと、次の瞬間には脇を囲んだ片方の男を目にも留まらぬ速さで締め上げた。

 男は「ぐっ……」と苦しそうな呻き声を上げて銃を離した。すると、プリズムはその男を軽々と持ち上げ、もう片方の敵めがけて投げつけた。発砲するわけにも行かず、それを受け止めた男は堪えきれず、コンテナの向こうへと落っこちてしまった。悲鳴が聞こえてドサと音がして、そのあとはシンとした。

 残るは火灰と、ボロボロの男である。

 火灰は襟を掴んでいたボロボロの男を投げ捨てた。男はコンテナに激しくぶつかり、そこにしゃがみ込んだまま荒い息をしている。

「なるほど、これが『デスティニー』のサイボーグ技術」

 火灰は感心したように頷くとゆっくりと銃を抜いた。

「何故貴様は銃を抜かん? 俺を舐めているのか」

 火灰は三発続けて発砲した。サイレンサー付きの鈍い音がしたが、プリズムはすばしこく動き回るのでなかなか命中しない。

 火灰は弾が尽きるとすぐに新たな銃を持ち替えた。しかし、ついにプリズムに詰め寄られ、羽交い締めにされてしまった。

「ちっ、化け物め」

 火灰は必死にプリズムを振りほどこうとするがビクともしない。プリズムは不気味な微笑を浮かべながら火灰の首を絞めあげ始めた。

 苦痛に火灰の顔が歪む。

 しかし、一瞬後には形勢逆転した。

 プリズムの腕の力が弱まり、膝からドサッと崩れ落ちた。虚ろな目で自分の腹を確認すると、そこから大量の赤い血が溢れ出していた。

 火灰は左手に持った小型ナイフの血をハンカチでふき取ると、自分の胸ポケットに閉まった。代わりに新たな銃を抜いてプリズムのこめかみに突きつける。

「俺の武装をあなどるなよ。しかし、サイボーグとはいえ、人間か。少し安心したぜ」

 火灰は鼻息荒く唇を引きつらせ、真っ白な歯をプリズムに見せつけた。

 しかし、プリズムは力を振り絞り、やはり常人にはあり得ない身体さばきで蹴りを食らわせ火灰の持った銃を弾き飛ばすと、その場から一目散に逃走した。

 火灰はよろめき、闇に消えていくそれを見送りながら「ちっ」と舌打ちすると、そこら中に散らばった銃を回収した。そのうち、コンテナの後ろに吹っ飛ばされていた仲間たちが姿を現した。

「すみません、火灰様」

「ちっ、やすやすとのびやがって、役立たずどもが」

 火灰は吐き捨てて、ふと気付いた。

「おい、奴はどこだ!?」

 仲間の二人が慌てて辺りを見回す。

「くそっ、探せ!」

 はじめに三人に連れられていた、ボロボロの男の姿がなくなっている。火灰の額に汗が浮かびあがる。

「このままじゃあ、大和会長にしめしがつかねぇぜ」とひとりごとをつぶやいて、周囲を見渡すと、一つ大きな三階建てほどの建物が目についた。火灰はそれをしばらくにらむと、吸い寄せられるようにその方へと歩みを進め始めた。ちょうど夜風が強く吹き始めた頃である。

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