表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある異世界転生者のアンダースロー  作者: 村山良朝
アンダースローと『飛空艇の鍵』
28/30

第二十七話

「ミーシャ様!」


 突然、声がして、振り向くと栗毛の縦巻きロールを揺らしながら、テディさんが走ってきていた。


「姫様をみませ……あなた、カズヤ! 後ろのリボンが傾いているじゃない!?」


 俺の後ろへと周り、マーガレットを結ぶリボンを解き、直すテディさん。

 リボンを結びなおすと、俺の周りを回って、「よし」と満足げにうなずいた。


「あ、大変なんですよ! 姫様を見ませんでしたか!?」


 それから、何事もなかったかのようにミーシャさんに尋ねた。


「いや――何かあったのか?」

「姫様が、竜の涙を強奪したって」

「……まさか」


 ミーシャさんの目が見開く。


「それが本当なら、大変なことになる」


「ええ……今、皆で探しているんです」


「竜の涙ってなんです?」


 俺が尋ねる。


「それは――」



 びゅうううううううううう!


 突風が、唸りをあげて襲って来た。


「カズヤ殿!」


 倒れそうになるのを、ミーシャさんが手を伸ばし、掴む。


「あわわわわ!」

「口を閉じろ! 舌をかむぞ!」


 剣を大地に突き立て、彼女は身体強化の魔法を使って俺を抱きとめてくれた。

 テディさんは……?


「わわわわわ……!」


 テディさんも、ミーシャさんにしがみついている。


 これは一体……!?


 突如として、ハイペリオン上空は分厚い漆黒の雲に覆われていた。稲光がストロボカメラみたいに何度も瞬き、猫の撫で声みたいな音が、それに合わせて鳴っていた。


 強烈な台風が来たみたいに、レンガ造りの家が、屋根が吹き飛び、レンガがばらばらと上空へと上がっていく。植えられている樹木が一斉に、右へ、左へ、お辞儀をする。吹きすさぶ大嵐が、なにもかもをなぎ倒し、打ち崩し、破壊していく。


「!?」


 その黒雲の中から、巨大な頭が現れる……二つの角があり、うろこでびっしりおおわれている。竜。ドラゴン。そう、あれは、ドラゴンだ。


 竜の口が、開いた。

 

 オオオオオオオオオオオ!


 咆哮。

 がたがたと足が震え、腰に力が入らなくなる。あれ……? 意識が、何だか、眠く……


「カズヤ殿!」


 ぱぁん! と頬を張られて、俺はまた目覚めた。


「な……え、あ、れ」

 声にならない。声に力が入らない。ミーシャさんにすがりついているだけしかできない。


「北の嵐の海に住まう、大竜ニーズヘッグだ。見るな!」


 俺の目を覆う。


「魔力抵抗のない君では、死んでしまうぞ!」






 おお! スィエラとハイペリオンの名を持つ者よ! よくぞ、我を呼んでくれた!


 過去、ハイペリオンの先祖は、このニーズヘッグが宿敵フレスベルグを打ち倒すときに協力したことがあった。

 その恩に報いるため、ハイペリオンが窮地に陥った時に一度だけ助けると約束していたのだ。


 魔法は、言うなれば、理不尽を通す力。


 そして、ニーズヘッグともなれば、ほぼどのようなことも出来る。



 さあ、何を望むのだ、スィエラよ! 


 ニーズヘッグが問いかける。


 魔法は、無いものは生み出せない。


 尽きかけた鉱脈を復活させたり、お金を生み出すことは出来ないし、死んだ者は、生き返ることは出来ない。

 

 スィエラ・ハイペリオン・クロイツは王都ハイペリオンの、端の方にある下町の屋根の上にいた。


 手に持っているのは、国宝である竜の涙。青色に輝く、こぶし大の魔石。ロッドの先端に、燦然と輝いている。


 ニーズヘッグを呼び出すには、この竜の涙と、ハイペリオンの王族の中で、一番魔力が高い者――すなわち、スィエラの名を継ぐ者が必要だった。


「いたぞー!」


 今頃になって、ハイペリオンの城兵がスィエラを見つける。ああ、ハゲの大臣も、一緒にいる。


「スィエラ王女ー! お早まりなさるなー!」


 今更遅い。

 何もかもが遅い。

 それが、スィエラには我慢が出来ない。

 早く、速く、迅く。全ては迅速に動くべきだ。

 何が、野球では無理だ。

 何が、時期尚早だ。

 政治を分かっていないのは、民のことを分かっていないのは、お前たちだ。

 一秒の判断が、人の生死を狂わすことがある。

 だからこそ、スィエラは決断したのだ。


 頬っぺたをぶっ叩いて、全員同じ方向を向けさせてやる!

 

 彼女はニーズヘッグに高らかに、歌うように、述べた。


「野球球場を建てて頂戴! ドーム開閉型の、冷暖房完備! 収容人数は三万人! 見取り図は、こうよ! 場所は、王都の外! 材料は、適当にボルケヌ山から適当に取って頂戴!」


 高らかに、見取り図を掲げる。


「姫様ーーーーーーーー!」


 大臣の絶叫が響いた。



 果たしてニーズヘッグは、スィエラなど一飲みしてしまいそうな口を、楽しそうにゆがませた。


 さすがはスィエラよ! あくまでも自らの意志で歩むというのか!

 ああ……我が寿命が尽きる前に、約定はこれにて完結した。

 礼を言うぞ……スィエラ・ハイペリオン!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ