表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある異世界転生者のアンダースロー  作者: 村山良朝
アンダースローと『飛空艇の鍵』
27/30

第二十六話

そんなこんなで、一か月が過ぎようとしている。


「カズヤ殿は、新年は帰らなくていいのか?」


 早朝、ハイペリオンの街並みを歩きながら、ミーシャさんが聞いてきた。

 もう少しで、年が明ける。この世界では新年を大事な行事としていて、家族で祝うことが多い。


「帰るつもりはありませんね」


 またあの船旅をする勇気は、俺にはない。手紙を書いて寄越すくらいはしようとは思ってるけど。

 まだまだ、やるべきことはたくさんある。変化球の精度や、コントロールの仕方、フォームを固める、スタミナをつける……

 でも、やはり、目標に向かって進んでいるこの感覚が楽しくもある。


 なんだかんだで、俺は体育系の人間だった。


 ――服飾店のガラスに映る、マーガレット結びの自分を見てしまい、俺は微妙な気持ちになる。


「というか、メンバー、集まるんですか?」


 俺が思っていた疑問を尋ねると、ミーシャさんは苦笑する。

 新生ハイペリオンは、さまざまな問題を抱えていた。


 思ったようにチームメンバーが集まらないのもその一つだ。


 現在、チームメンバーは七人。全部、スィエラ王女の息のかかった人たちだ。


 他の派閥グループの人間は、全員そっぽを向いているらしい。まあ、あそこまで反目していたのだから、そりゃ、そうなんだろうけど。


 というか、何故だか、女の子ばっかだし。


 この世界の野球は魔法を使うので、女性選手は珍しいものではない。魔法を使うということに関しては、女性の方が有利だ。


 だけれども、男性選手が俺以外一人もいないというのは、かなり問題なのではないか。


 スィエラ王女は、『これから続々と大物が入ってくるわ!』と胸を張って答えていたけれども。……そろそろ俺は、彼女が平然と見切り発車をする性格だということに、気が付いていた。しかも、積荷も乗客も載っていないにも拘わらずだ。


『後悔することになるわ』


 アルバ王女様の声が浮かんでくる。


 ふわり……とまた光の玉が視界の端にうつる。

 今度は、かなりの数。また俺に見られると、ピクシーたちはどこかへと飛び去って行った。


「何なんですかね、あれ……」


「ピクシーは、ああやって、この街のゴシップを集めているのだ」


「ゴシップを?」


「彼らは噂好きの貴族の奥様方や庶民たちに、集めたゴシップを話し、その代わりに甘い蜜や、甘味を貰っているのだ」


「はあ……でも、何だって、俺の周りに」


 あ、もしかして、と俺は気が付いた。


 ――俺が、男だということを探っているんじゃあないのか。


「いや、正確には、私たちの周りに、だな」


 ミーシャさんが訂正した。


「今、我々はハイペリオン中の噂だよ。あの『暴君の我儘王女が作り上げた、税金の無駄遣い集団』だとな」


 なんて酷い言われ方だ。


「税金だなんて、酷い誤解だ。姫様のポケットマネーから出ている」


「え!? そうなんです?」


 野球道具を一式揃えるだけでも、かなりの金貨が必要になる。


「でなければ、ハイペリオンの中で新しいチームを作ることなど出来ぬ……何だ、聞いていないのか?」


 意外そうな顔をするミーシャさん。……いや、何で意外そうな顔をするんだ。


「俺が聞いた方が良い話なんですか?」


「知らなくていいことだ」


 微妙な違和感を覚えたまま、俺達はハイペリオンの球場へとたどり着いた。


 ロッカールームへと移動しようと関係者入り口へと向かったのだが、そこで、鎧を着込んだ男が二人がその前で左右を固めている。


「……何だ、貴様らは」


 ミーシャさんが尋ねると、彼らは立ち塞がるように前に出てきて、言った。


「こちらの球場は、アマティスタ様のものとなった」


「誰も、ここを通すなと伝えられている」


「――アマティスタ様が?」


 眉を潜めるミーシャさん。

 アマティスタ様とは、スィエラ王女の異母姉であり、第一王女である。

 そしてアマティスタ王女は、スィエラ王女と仲が悪い。あの、ラフレッチェの試合で、平然と試合をボイコットした人である。


「どういうことなんです?」


「……やられた。まさか、ここまでやってくるとはな」


 くるりと背中を向けて、来た道を戻り始めるミーシャさん。慌ててついていく。


「王宮内にも、急進的なスィエラ王女のお考えを理解できぬ者がいる。その者らが、アマティスタ様を焚きつけて、このようなことをしたのだろう」


「えっと、つまり、あの、球場を使えないってことですか?」


 その態度を見て、俺は分かり切った質問をしてみた。


「……そうなる」


 沈痛な表情で、ミーシャさんが頷いた。

 それならば、練習はおろか、試合すらできない。


 いや、いや、いや、おかしいだろ。 


「スィエラ王女が、球団トップではないんですか?」


「ない。というか、そもそも、スィエラ王女はこの国の野球に関して何の権限も持っていない」


 えぇ……


「だ、だって、あの、デスモントで歓待してもらったときには、まるで自分が球団トップのように言ってましたが」


 そう。ハイペリオンを一つにして、プレアリーグに参戦するとこの耳で確かに聞いた。


「元々、今年でハイペリオンのリーグ戦は、止めることに決まっていたのだ。どこも、あまりに赤字を垂れ流していたからな。プレアリーグに参戦云々は、姫様の独断で決めたことだ」


「自分が何の権限も持っていないのに!?」


「持っていないのにだ」


「うわあ……それは……」



『後悔することになるわ』


 頭の中で、再びアルバ様の声がリフレイン。

 彼女の言っていることは、こういうことだったのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ