第8話 千日紅
ヘリのライトが奈落の底を照らす。
案の定、
奈落の底にはボンレスハムの様に重ね着で着ぶくれて動けなくなったゾンビが山積みだ。
「圧着の服の空気穴を止める鉄の輪が、
どうにもハムとかソーセージのあれに見えるんだよな」
ニシナはそれを見てぼやいた。
「歯で噛んで、回して開ける?」
「ミキ、止めとけ」
ミキは笑う。
ニシナもぎこちなく笑う
二人とも、
ちょっとでも冗談を言わないと辛くてたまらない。
ニシナはため息をついて。
「ポイントまで降下したら、
縄ばしごを下ろす。
先に俺たちから降りるから、
お前らはその後。
荷物は投げておとして」
「ラジャー!」
ニシナの指示に素直に従う面々。
これから向かうのは、
まごうことなき死地。
「ヘリはもう少しあがって旋回。
具体的にはニキロは上がれ」
「何故です?」
「ゾンビに探知されづらくなる」
運転手が固唾を飲んでうなづいた。
ニシナは全員へ言う。
「五分だ。
五分だから、じゃない。
逃げ場なしの五分の地獄だ。
何が起きてもおかしくない五分間。
とにかく、
生き延びることを優先しろ。
俺の命令より、
仲間の命より、
何より自分の命を優先しろ」
ニシナの言葉は重い。
ここと変わらない場所に閉じ込められ、
三ヶ月間生き延びた男の子の台詞は。
この場で何より重たい。
「ヘリも突然落ちる可能すらある。
鬼が出ても蛇が出ても、
おかしくない。
もう少しで底だ。
今から戦闘態勢にはいれ。
ミキは、いつも通り行こう」
「ニシナが後ろ、アタシが前」
ニシナもムースのホースを手にした。
後、数百メートルで、着地の予定だ。
少しして。
「ポイントに到達!
上へ信号を発信!
縄ばしごを下ろします!」
運転手はそう叫びながら作業する。
ヘリの後部が開いて、縄ばしごが自動で底に落ちた。
下は重ね着で着ぶくれているゾンビがいっぱい見える。
そして、全部蠢いている。
ニシナはかがんで、縄ばしごを持った。
「降りるぞ」
「アタシは跳ぶね」
ニシナは縄ばしごをつたって降りる。
ニシナが降りてヘリに手を振る。
ミキはヘリから飛び降りた。
ミキの着地で、
着ぶくれて底に山積みになってるゾンビが何体か潰れる。
「……気持ち悪いぃ」
「……ドンマイ」
ヘルメット越しでも涙目になってるのが分かるくらい、
ミキは悲壮な声を上げた。
ニシナは苦笑いして、ヘリに向かって手を振る。
縄ばしごをつたって、
戦闘員たちが降りてきた。
ニシナとミキは身につけたライトで周囲を照らし、
警戒する。
二人は背中合わせでたち、周りを見回す。
「……ゾンビしかいないから、
なんかずっとぞわぞわする」
「ミキはここにいるだけで辛いか……」
ヘリから荷物が投げ落とされた。
戦闘員たちがそれを拾って、
中からメガホンくらいの大きさのライトを取り出し、
それを点灯してニシナたちと周囲の警戒をする。
それを見た技術者たちも、ヘリから降りた。
ヘリはそれを確認し、
縄ばしごはそのままにして浮上していった。
ここから、五分だ。
全員が、息苦しさを感じた。
ニシナはとにかく指示を出す。
「……警戒を維持。
地面が見えねぇが、
調査の装置は設置できるか?」
「いいえ。
平坦な地面か、壁が必要です。
ここなら、ゾンビをどかすしか……!?」
作業員の声を掻き消す轟音。
爆音。
跳ねるように見上げた頭上に、赤い花が咲いている。
何かが爆発した。
何が爆発したか。
そんなもの、一つしかない。
「ヘリがやられた!
荷物捨てろ!
こっからは、調査なんて言えねぇ!
死ぬな!
生き延びろ!」
ニシナが叫んだ。
「ニシナぁ!
周り!」
ミキの声で全員が周囲を見た。
着ぶくれているゾンビの隙間から、
何かが生えて伸びている。
一本、二本じゃない。
無数に生えている。
先ほどまで確実になかった。
にょろにょろと穴の出口を目指して伸びている。
よく見ると、それは見覚えのあるものだった。
それは、手。
地面に転がるゾンビたちの隙間から、
モヤシやかいわれ大根のように、
灰色の腕が生えている。
よく見ると、大木のような手が遠くに見えた。
それだけ、爆発したヘリの辺りへ向かって伸びていた。
「あれに追撃されのか……?」
ニシナは、ホースを構える。
正体不明の何かに囲まれた。
絶体絶命な状態だが。
ニシナの顔は、笑っていた。
ゾンビは、生きた人を襲い殺す。
しかし、ゾンビはゾンビを襲わない。




