第7話 彼岸花
ヘリコプターに揺られるニシナとミキ。
ニシナの背負ったタンクは最新の物で、
ムースは既存のものの十倍膨れる。
さらに、噴出口が十字になっており、
既存のもより少量が広範囲に広がる。
なので、今までの十分の一の噴出量で
既存のものと同じ量が噴霧される。
超効率的ムースタンクだ。
ミキはパワーアシストスーツは変わらない。
しかし、その両肩にショルダーパッドが付いていた。
これは、SHI-NI-0044のメーカーが用意した拡張パーツ。
ただ、スーツを使える人が少なすぎて販売しなかった、
幻の拡張パーツだ。
バッテリーが拡張され、
さらに追加で人工筋肉が加算される。
両方とも今回の報酬として、二人に贈与された。
「死にたくない……」
ミキはそう呟く。
「俺も死にたくねぇ」
ニシナは言い返した。
二人は、依頼を受けることにした。
『中心街』。
ゾンビ発生による被害は、
科学文明を破壊して世界を再分断した。
技術も資源も情報も何もかも、
動かなくなった。
中心街は、
この国で唯一まともな施設や機器が残っている。
名前の通り中心にある街だ。
道路も歩道も綺麗に整備され。
瓦礫は全て撤去され。
復興した街。
ゾンビによる文明の崩壊前の生活を送れる。
さらに、最新技術の発信源で。
しかも、ゾンビ発生以前より高い科学技術により作られた物が安価に手に入る。
ただ、そこに住むためには、
一千万円という多額の移住費と、
現在中心街で生活する保証人が十三人必要だ。
その高いハードルを越えるのは、
一生をかけても難しい。
「でもよ、中心街に住めるんだ。
ミキも、契約したろ」
「外周に住むのは、辛いもん。
それに、私は中心街に住む移住費ために、
こうやって働いてるんだから」
二人の周りにはパワーアシストスーツを着て、
ムースのタンクを背負った屈強な男女が四名いる。
彼らはモモセの用意した戦闘員。
そして、調査機材を運んで設置するための技術者も四名。
このヘリを運転する運転手とアシスト二名。
合計十二名で、奈落の底に降りている。
「俺らが一緒に行く必要ある?」
「あります。
我々は普段、
発電所の警備とゾンビの逃亡時の捕縛が仕事です。
しかし、ゾンビが逃亡したことは、過去一度もなく。
ゾンビ戦の経験はほとんどありません。
お二人には、
陣頭指揮を取っていただきたく」
何故かニシナがこの部隊のリーダーだ。
しかも、誰もそれに反発せず。
むしろ、全員に非常に頼りにされて、
ニシナはタジタジになっている。
「降りたら、とにかく安全確保。
調査機材はすぐに出さない。
後、マスクは絶対付けること。
ゾンビの骨粉を大量に吸い込むのは、
たぶん不味い。
あの、電池箱みたいに。
樹脂の代わりに、
肺の中で暴れるぞ、たぶん」
それを聞いた一同は、青い顔でガスマスクを付けた。
ニシナもガスマスクを付ける。
ミキはヘルメットにガスマスクが付いてる。
彼女はヘリに載る前からヘルメットを被っていたので、
特に何か付けない。
「つまり、この奈落の底のゾンビどもも、
例の新発明の材料になり得るなら、
この国のエネルギーは向こう十年は安泰。
使えなかったとしても、
初の奈落の底の調査だ。
些細な情報すら、貴重だそうだ」
ニシナは読み終えて脇に置いた資料を指で叩いて続ける。
「大義名分は、良いんだ。
とにもかくにも、何を置いても、
一にも二にも、安全確保だ」
「ニシナ、
壁際の方が良いんじゃないの?」
ミキは予定表を見ながら指摘する。
「ゾンビに囲まれるのもリスクだけど、
壁際に追い詰められるのもリスクだ。
真ん中までは行かなくて良いけど、
壁際は避けよう」
「はい。
承知しました」
戦闘員たちは、そう応える。
ニシナはため息混じりに捕捉する。
「ミキのことは気にしなくて良い。
コイツの勘はヤバイくらい当たる。
特に、ゾンビの位置探知は、
勘って呼ぶ割に制度が高いくらいだ。
緊急時はむしろ、
ミキの後を着いていった方が安全かも」
いつかの森の中。
爆さん自殺未遂のゾンビを捕らえるときにも、
その勘は遺憾なく発揮されていた。
暗闇の中、
ライトが一つだけでも彼女は正確なゾンビの位置を関知していた。
ヘリの運転席から、無線通信が入る。
ヘリに乗った全員が無線に耳を傾ける。
「もうすぐ到着です」
五分間の地獄が開演する。
ゾンビは、
骨粉になると何もできない。
しかし、樹脂等で固めて仮初めでも『肉』を与えると、
動くことができる。




