第5話 桔梗
「改めまして、
私の名前はモモセ。
ゾンビによる発電機を研究しているものです」
マッドサイエンティスト、
改めモモセは二人を連れて廊下を進む。
つなぎ姿の人たちは、
いつのまにかいなくなっている。
「……なんで、
俺たちを名指しで指名した?」
ニシナはモモセに直球でたずねた。
モモセは笑って答える。
「そうですね。
まず、ミキさん。
貴女は貴重な人材だ。
そのパワーアシストスーツ。
SHI-NI-0044と言う型番です。
それは、
『あまりに強力すぎて使える人がほとんどいなかった』。
ピーキー過ぎるほど出力を上げた、
モンスターマシンです」
ミキはそれを知っている。
少女は誰よりも自分の非力を自覚していた。
だから、
『一番安くて一番強いスーツ』を買った。
それが彼女が今着ている、
パワーアシストスーツ。
「今最新のスーツは、
そのスーツを元にしつつ、
誰でも使えるように出力をかなり弱めたものです。
なので、
実質最強の出力を出せるのは、
ミキさんのスーツ。
そして、この近辺でそれを着こなしているのは、
たった一人。
ミキさんだけです」
ミキはヘルメットの中で渋面を深くした。
こんな気持ちの悪い人のために、
このスーツを使うために訓練したのではない。
そう言いたいが、我慢するミキ。
「そして、ニシナさんは言わずもがな。
『混沌のるつぼ』から生還された、
この業界で知らない人はいないほどの有名人じゃないですか」
「それは、嬉しくないどころから、
腹が立つから言うな」
怒髪天を衝くニシナ。
モモセはさすがに慌てて、謝罪する。
『混沌のるつぼ』。
それは、死者がゾンビになった日、
オリンピックの開会式だった。
国は張りきりった。
巨額の建設費を費やして、
つくってしまった。
オリンピックのための島を。
全ての競技場をその島に造り。
大きなホテルを造り。
本島とは約五キロの橋がかけられていた。
橋は車とモノレールが往き来していた。
開会式に、数体のゾンビが現れた。
何かで急死した人がいたのか。
病死だったか。
事故死だったか。
もう誰にもわからない。
しかし、現れてしまった。
約四十万人の人々が集まっていたそこに、
ゾンビが現れてしまった。
パニックだ。
逃げ惑う人々。
夏季オリンピックだったので、
死人は数時間でゾンビになり動き出した。
そして、橋に人が殺到したせいか、
橋の工事に問題があったのか不明だが。
唯一の退路である、橋が落ちた。
地獄だった。
それ以外に表現することができないほどの、
大惨事だった。
死者に襲われ、人が死に。
生者同士も、殺し合い、奪い合う。
後に、それは『混沌のるつぼ』と呼ばれた。
その中で、三ヶ月も生き延びた生存者。
それが、ニシナだった。
「運だ。
俺は運が良かった。
ただのガキが、
生き延びる理由はそれ以外にねぇ!
ただひたすらに、それだけ!
それを、奇跡の人だ?
サバイバー?
ふざけるな!
二十年以上経っても、
あの日あの時のことは、
はっきり思い出せる。
思い出したくもない!
それを、面白おかしく掘り返すな!」
ニシナに怒鳴られ、
モモセはひたすらに謝罪した。
ニシナをなだめながら、
三人は広い部屋についた。
会議室のようなところで、
机の上に金属の箱が置いてある。
約二十五センチ四方。
骨壺をいれる骨箱くらいの大きさだ。
「……『安楽箱』か?」
ニシナは、机の上の箱を指差してそう言う。
「お墓から持ってきたの?
怒られるよ?
保険屋さんに」
『安楽保険』。
それは、死後ゾンビになっても、発電所にいかず。
かつ、『安楽箱』と言う、
特殊な箱に遺骨を安置されて、
お墓の中で眠る処置を委託したサービスだ。
本来の保険とは違い、死後の安置まで管理する。
保険料はとんでもなく高額だ。
ニシナとミキも捕獲したゾンビは必ずチェックをする。
保険加入者は身体のどこかの骨にRFIDを埋め込んでいる。
専用の探知機をかざして、
RFIDが見つかると音が鳴る仕組みだ。
そして、保険加入者は保険屋が、
少し高い引き取り料を払ってくれる。
「いいえ、違います。
おっしゃる通り、
『安楽箱』から構想をいただいたので、
見た目は似ています」
モモセは箱を持ち上げた。
そこそこ重そうだ。
「どうぞ、持ってみてください」
ミキはおずおずと箱をモモセから受け取った。
「結構重いけど……。
これ、何が入っ……てぇ?!」
突然ミキは奇声を上げて、
箱を取り落とした。
モモセは笑いながら箱を拾い上げる。
「これは、『稼働箱』。
ゾンビを骨粉にして、
特殊な樹脂で丸い玉の形に固めたもの。
それを金属の箱に格納して密閉しました。
これなら、
樹脂で固まった球体が動き続けることができます。
この箱のさらに周りを、
バネなど負荷を着けたもので囲めば、
発電機にできます。
加工のコストは上がりますが。
これなら、爆発などでバラバラのゾンビでも。
発電所にいて、
重ね着の果てに動けなくなったゾンビでも。
発電機の動力にできます」
モモセは満面の笑みだ。
「ゾンビ一体だと、出力が不十分なのですが。
三十体まとめて固めれば、
触ってもらった通りかなりの力で動きます」
「なんで三十体?」
ニシナは苦笑いしてモモセにたずねる。
「この玉は、
ずっとまっすぐ人のいる所へ向かって進みます。
おそらく、三十体が全部同じ方角へ同じ力で進んでいる、
ということです。
しかし、これを三十一体以上にすると、
樹脂の中で進行方向がわかれることが発覚しました。
不和の後、二つに割れます。
破損するまで数ヶ月、
となるとランニングコストが高すぎるんですよ」
モモセは良い笑顔だ。
しかし、ニシナとミキは苦笑いを変えした。
ゾンビは、
水中でも樹脂で固められても歩き続ける。




