第4話 鶏頭
ゾンビは、生きた人を見つけて追い回す。
腐敗の状態にもよるものの、
最低半径一キロ圏内にいる生きた人を見つけ出せる。
臭いをたどっているのか、
音を聴いているのかは不明。
人が密閉された核シェルターの中にいても、
逆に核シェルターの中にゾンビがいても。
必ず生きた人間のいる方へ歩き続ける。
壁があっても、何があっても。
延々と歩き続ける。
「お仕事だよー。
二人とも、すぐに駆けつけて」
無線機から、間の抜けた声が車内に響く。
ニシナは舌打ちして無線機をひっつかみ。
「なんっすか?
イチノセさん、
テンション高くないっすか?」
「高くもなるさ。
発電所からお仕事だよ。
しかも、君たち二人をご指名でね」
ニシナには嫌な予感しか感じられない。
苦虫を噛み潰してせんぶり茶を飲んだような顔になる。
「なんで、わざわざ俺らを?」
「そこまでは聞いてないね。
うちとしては、
報酬さえもらえるならどこへでも派遣するから」
さらに嫌な予感が強まる。
「……どこへでも?」
「そう。
AAの040404にある、
547141114番発電所に行って。
詳しくはそこで話を聞いてね」
「依頼の詳細すら聞いてねぇんっすか?!
つーか、遠すぎだわ!」
「君らにも報酬は出すさ!
契約通り渡すから!
ね?」
ニシナは大きなため息を無線機へむけて吐き出す。
「金額、言おうか?」
「……おいくら万円?」
「二人で現地に行ったら、十万。
働きによっては、
ボーナスも用意してるって。
しかも、日帰りで済む予定らしい」
「ミキ! 起きろ!
仕事だ!
いや、寝てろ!
このまま車飛ばすぞ!」
ニシナはイチノセから担当者の名前を聞いたら、
すぐさま無線機を切って車を飛ばした。
ニシナの眼は『¥』になっている。
二人の稼ぎは、
月平均十二万円。
この仕事ひとつで一ヶ月分近くの稼ぎになる。
今は夏で、仕事も多い。
だが、秋、冬と涼しくなってくると仕事は減る。
寒いと死体の腐敗が遅いので、
ゾンビになるまで時間がかかるからだ。
その間に病院などに到着して、
病院の『ゾンビ処置室』で処置されてしまう。
「今のうちに貯めときゃ、
年越しに餅が食える!」
「喉に詰まらせて死ね」
後部座席から恨めしそうにミキがそう言った。
ニシナは聞き流して車を飛ばす。
AA地区はかなり遠いしかし、
高速で車を飛ばしたニシナは、
あっという間に発電所に到着した。
「お待ちしておりました!
ずいぶん早いお着きて、
こちらとしても嬉しい限りです!」
出迎えてくれた人たち。
皆青いつなぎを着ているが、
挨拶してくれた人は白衣だった。
マッドサイエンティスト然とした、
ヨレヨレでくたくたの白衣。
その袖と裾は、
いろんな薬剤がついて固まってを繰り返したためか、
板のように固まってる。
彼の頭は禿げ上がっているが、
所々数本だけ残っている毛は彼の肩くらいまで延び散らかっていて、
清潔感がまったくない。
目の下は深い深いクマが掘り込まれ、
不精髭が胸元まで延びて縮れて、
本当に汚ならしい。
「さぁ、さぁ!
ニシナさん、ミキさん!
奥へ!」
彼はうきうき嬉しそうに浮かれている。
ニシナは装備を着けているが、
流行り嫌な予感が拭えない。
ミキに至っては、
車を出たときからヘルメットを着けて、
マントをスーツに繋いでいる。
ヘルメットの中には、渋面が張り付いている。
「……仕事だ。
行くぞ、ミキ」
「……お肉おごって。
合成肉じゃなくて、生の。
鳥が良い」
「……合成肉の焼肉行こう」
「デザートと冷麺付けてね」
ミキはそう言い残して、
マッドサイエンティストノアとを着いていく。
ニシナはため息をついて、ミキの後を着いていく。
「ここで少しお待ちください!
すぐお呼びしますね?」
繋ぎの人たちとマッドサイエンティストはそう言い残し、
ニシナたちは待合室で待機することになった。
発電所の見学者も使う待合室らしい。
飾られた発電所にまつわる資料と、
モニタ。
モニタには、
発電所に使われるゾンビについて説明がされていた。
「ミキ、また見てんのか?」
「うん。
この動画、
好きな声優さんがナレーションやってんの」
動画から流れるのは、女性の声だ。
『運ばれたゾンビは、
ムースと呼ばれる薬品で固められています。
そのため、始めに剥離剤のプールへ入れます』
動画の中で、
ムースで固められたゾンビたちが、
鍋に芋を放り込むように機械でプールへ沈められていく。
『ムースが剥がれると、
ゾンビたちは自らの足で動き出し、
プールの端へ向かいます』
画面が切り替わる。
『ゾンビたちは、
自らの足でスロープを伝い、
次のプールへ入っていきます。
次は、防腐剤のプールです』
黄緑色の液体の中にゾンビたちは突っ込んでいく。
『防腐剤のプールの中で、
三日浸けられます。
三日経ったゾンビは、また次のプールへ運ばれます』
今度は大きな機械の腕と網でゾンビたちが捕えられ、
次の液体へ放り込まれる映像だ。
『次は、特殊樹脂のプールです。
ここでまた、三日浸けられます。
三日経ったら、
紫外線照射装置で紫外線を浴び、
身体に染み込んだ樹脂を固めます。
固まった樹脂はゴムのようになるので、
ゾンビの動きは鈍くなります』
ぎこちない動きで歩くゾンビたちが写し出される。
その身体はてらてらと光を反射している。
『そして、ゾンビは特殊な服を着せられます』
壁のように張られたゴムのようなラテックスのようなもの。
それにゾンビを機械が押し付ける。
そして、ゾンビをその生地で包み込み、
頭頂部辺りにホースのようなものがついた。
『特殊繊維でできたこの服は、
真空圧着でゾンビを包み込みます』
生地の中の空気を機械が吸い上げ、
生地が縮みゾンビの身体にピッチリ張り付いた。
そして、頭頂部の機械が抜けて、
金属の輪がかかりガチンと止まる。
まるで、魚肉ソーセージのようだ。
生地はゾンビの顔を覆い噛みつくことはできなくし。
手をミトンの様に包み、
掴むことも引っ掻くこともできなくしている。
さらに生地は固いらしく、
その両腕は下ろしたまま、上げられないようだ。
全身拘束されてるようで、
歩く様もかなりぎこちない。
『そして、発電機のコンベアに運ばれ、
歩いてコンベアを動かして発電します』
たくさんのゾンビが長いレーンごとに分けられて歩いている。
その様は、まさに地獄。
『服がほつれたり、
破れてきたらまた同じ手順で服を重ね着させます。
何度も重ね着すると動けなくなり、
完全に歩けなくなったゾンビは奈落へ投棄されます』
床に転がされ、
太いソーセージのような様のゾンビ。
ほぼ動けないが、
身体を少し揺らして足掻いているのが見える。
そして、そのソーセージ状態のゾンビを、
トラックにぎゅうぎゅうに積めて運び出される絵で説明が終わった。
そして、動画は始めのところに戻ってループする。
「お待たせいたしました!
参りましょう!」
ニシナとミキはため息をついて、
椅子から立ち上がった。
ゾンビは、死んだ人の身体の腐敗が始まり、
死斑がでるころに動き出して、人を襲い殺す。




