第11話 馬蹄蓮
ニシナに抱きついていたミキは、
そのまま空中でニシナを抱え直し、
着ぶくれゾンビたちの上に着地した。
着ぶくれゾンビたちは潰れて着地の衝撃を和らげてくれた。
「っ気持ち悪い!」
「我慢しろ!
走れ!」
ニシナに叱咤され、
ミキはニシナを背負って涙目で駆け出した。
灰色の巨人は巨体をねじり、手を伸ばし、
這うように追ってくる。
「小さい手がいなくなった!」
「多分、でかいのに集まったんだ!」
ミキの言う通り、
さっきまで追ってきていた無数の灰色の手がいない。
「……なんだ?」
ミキの背に揺られながら、
ニシナは振り返って巨体を観察した。
灰色の巨人は、少し上を向いて口許をモゴモゴさせている。
「まさか……!
ミキ!
右に避けろ!」
ミキはすぐさま大きく右に跳ねた。
灰色の巨人は口から何かを射出し、
床の上に積まれた着ぶくれゾンビたちを蹴散らす。
「なんか吐き出してる!?」
「ミキ!
次左に跳べ!」
ミキがニシナの指示通り、跳んだ。
さっきまで二人がいた場所がまた、爆ぜる。
「爆弾じゃねぇ!
なんかでっかいモノを高速で飛ばしてる!」
突然ニシナの時計が、
けたたましく鳴り出した。
ここに降りる前に設定していたアラームだ。
「五分たった! 五分だ!
ヘリか何か寄越せよ、モモセの野郎!」
「ヘリが来ても、撃ち落とされるよ!
ニシナぁ!
このでかいのなんとかしろ!」
ミキが涙ながらに叫ぶ。
ニシナも破れかぶれだ。
ニシナは懐から爆弾を取り出し、
灰色の巨人へ向かって投げつけた。
巨人は投げられたそれが何かを理解した様に、
身体をくねらせて器用に避けた。
爆弾が爆発するが、灰色の巨人は無傷だ。
しかし、灰色の巨人の頭付近が爆発した。
二人を上から照らす光が降りてくる。
ニシナが見上げると、
遠いが上にはヘリが数機見えた。
どうやら、
灰色の巨人を攻撃してくれたのはそのヘリらしい。
巨人はヘリを見上げて、上へ手を伸ばす。
ヘリは巨木のような腕を避けつつも、
巨人を攻撃し続ける。
「この内に……!?」
ミキは、思わず立ち止まる。
ニシナも開いた口が塞がらない。
さっき目の前で下腹部に穴を空けられた作業員が、
二人の目の前に立っていた。
「生きて……ない!」
パワーアシストスーツに空いた穴。
そこには、灰色の何かが隙間なく詰まっている。
さらに、作業員の動きがどう見てもおかしい。
まるで、人を知らない生き物が、
聞き齧った話だけで人の動きを模してるようだ。
不気味でかなり気持ち悪く、不快な動きだ。
「そうかよ!
殺して詰めるのか!
そして、身体を得るのか!?」
ニシナの質問に回答も答え合わせもない。
二人は周囲を見渡した。
二人の周りには、作業員や戦闘員たちが立っている。
「そうかよ! そうかよ!?
確かに、モモセは言ってなかった!
俺たちが奈落に降りる初めての調査員だとは!
一言も言ってない!」
二人と共に降りてきた人数より、
周囲にいる人数が多い。
灰色の巨人が叩き潰したのもいたはずだが、
二十人近くのガスマスク姿が立っている。
皆、一様に動きが悪く、不気味だ。
「パワーアシストスーツのあちこち穴空いてら!
そんで、
そこから見えるのは灰色の何かだ!
ミキ! 下ろしてくれ!
そうなったら、ムースがきくはずだ!」
ニシナがミキから降りて、
寄生された人たちへムースのホースを向けた。
「ミキは落ちてるゾンビを武器が代わりにしろ!
直接あいつらには触れるな!」
「わかった!」
ミキは両手に一体ずつ着ぶくれゾンビをもって構えた。
灰色の巨人はまだヘリと格闘している。
「生き延びるぞ!」
ゾンビの筋肉は、腐敗していく。
ゾンビの構成要件に筋肉は含まれているのに、
骨と異なり、
ゾンビでも筋肉部分は腐ったり燃えたら、
動かなくなる。
どんな形も動くのは、骨だけだ。




