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ゾンビ! ゾンバー! ゾンベスト!  作者: 桃野産毛
第二章 末期の水

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第12話 鬼灯

 ニシナがムースを、

ガスマスクたちの足元へ向けて放つ。

ガスマスクたちは、

虫のような獣のような動きでそれを避ける。


 そして、

ガスマスクたちが背負っていたムースのホースを構えた。


「……嘘だろ?」


 一斉に放たれるムース。

ミキはとっさに床の着ぶくれゾンビたちを次々と投げて、

ムースを遮る。

ムースが着ぶくれゾンビを包んで固まり、

壁のようになる。

 さらに、古いムースだったとおぼしき個体は、

現役を撃ち尽くしてしまう。

ガスマスクはタンクをおろした。

その動きもぎこちなく、気持ちが悪い。

 ニシナは固まった壁のような着ぶくれゾンビを盾にしつつ、

ガスマスクたちにムースを放つ。

しかし、ガスマスクたちは人間では絶対にできない動きでそれを回避する。


「当たってない!

ニシナ、下がれ!」

「頼む、ミキ!」


 下がるニシナを援護するため、

ミキは着ぶくれゾンビをどんどん投げつける。

しかし、それらもガスマスクたちに当たらない。

ミキはニシナに確認した。


「ヘリは?!」

「でっけぇのとやりあってる!

 あ! アイツ、口から何だしてたのか分かった!

ゾンビだ!

その辺の動けないゾンビを砲弾みたいにとばしてるんだ!」


 ヘリに突き刺さった着ぶくれゾンビを見て、

ニシナは気付く。


「ヘリに乗れても、撃墜されるの?!」

「本当にコイツらをなんとかしなきゃ」


 ニシナは考える。


「……あのでっかいの、

爆弾を避けたな」


 灰色の手は爆弾を受けていた。

しかし、灰色の巨人はニシナの投げた爆弾を避けた。


「爆弾を食らうとまずいのか。

じゃぁ、あの固まり、泥みたいな何かは、

爆破に弱い?」

「ねぇ!

ニシナ!

ヤバイ!

押さえ込めない!」


 苦戦しているミキを見たニシナは逃げようとしたが、

気づいた。


「死蝋か!

泥炭みたいになってんのか?

きっと燃えるんだ、コイツら。

 だから、

人間の身体の中に入る。

水を求めてるから」


 ニシナは爆弾を見た。

二つしかない。

この二つであの巨体は無理だ。


「ニシナぁ!

もう無理!

逃げるから!」


 ミキは逃げようとしたが、

ニシナ引き留める。


「ミキ、燃えるものもってるか?!

ライターとかでもいい!」

「ないよ!

そこにいる、戦闘員の人たちなら、

何かもってるかも」


 ニシナは、じりじり距離を詰めるガスマスクたちを見た。

確かに暗くてよく見えないが、

彼らの腰や胸の当たりに手榴弾のような円柱型の黒いものが見える。


「……やるか」

「へ?」


 ニシナが覚悟を決めた顔だが、

ミキには分からず困惑している。


「ミキ、スーツを最大稼働して、

アイツら全員投げられるか?」

「バラバラだと無理。

ムースが着いて、

一塊なら、そこそこ飛ばせると思う」


 ニシナはチェストハイウェーダーの懐から、

ロープを取り出した。


「ミキ、俺がコイツらを固める。

お前はコイツらをあのでかいのに向けて投げつけろ」

「ニシナ、できんのか?」

「見てろ。

カウボーイってのを、見せてやる」


 ニシナがロープの端を片手でもち、

逆の端付近をもって手首を軽く振る。

ロープも一緒に揺れただけに見えたが、

一瞬で結ばれて端に玉ができた。

 ニシナはガスマスクたちに歩み寄りながら、

もう数回手首を軽く振ってさっきの玉を大きくした。


「……かかってこいや」


 ニシナがそう言った瞬間、

ガスマスクたちの先頭にいた数体が飛びかかる。

ニシナが走ってそれを回避した。


 いつのまにか、

飛びかかった内の二体に縄が掛けられていた。


 ニシナがすれ違いざまに投げてかけた物だ。

ニシナはそのままロープを伸ばしながら、

残りのガスマスクたちに駆け寄る。

ガスマスクたちは警戒して飛びかからないが、

ニシナが上手だ。

自分を囮にし、手首と腕のわずかな動きだけでロープをガスマスクたちに掛けていく。

 ロープをかけられたガスマスクは逃げようとするが、

他に掴まった個体が動く度にロープを引かれて転ぶ。

転んだら、動いた他の個体も転んで、抜け出せない連鎖が起きる。

 あっという間に、

約二十体のガスマスクガスマスクたちが簀巻きにされた。

その手足をムースで固め、完全に動かないようにする。


「よし!」

「……ニシナ、普段もそれやってよ」

「あぶねぇだろ?!

したかねぇんだよ、こんなの!」


 そう叫びながら、

ニシナはガスマスクたちの身体に自分の爆弾を着けて、

その安全ピンと細い紐をむすぶ。

可能な限り、

ガスマスクたちの爆弾の安全ピンも紐を結ぶ。

 そして、紐を束ねて伸ばし、

ムースを追加でかけて爆弾がガスマスクたちの身体から離れないようにした。


「ミキ!

この紐の束持って、

コイツら投げろ!

 紐は掴んだままだぞ!

いいか?」

「もうちょっとでっかいのに近寄っていい?」

「おう。

行こう」


 ミキはでかい爆弾と化したムースの固まりを抱えて、

ニシナと灰色の巨人に向かっていく。

ヘリが何機か落とされ、もう飛んでいるのは二機のみ。


「行けぇ!」

「おうとも!」


 ニシナの合図で、

ミキがムースの固まりを全力で投げた。

パワーアシストスーツの最大稼働で投げた。

約二十人の身体は大砲のように飛び、

紐が安全ピンを抜いた。

 灰色の巨人は飛んでいるヘリに夢中で、

それに気付けなかった。

灰色の巨体に、ムースが轟音を立ててぶつかり。

大爆発した。


「ストライク!」

「でも、まだワンナウト!」


 ニシナとミキはハイタッチした。

ニシナの予想通り、灰色の巨人はよく燃える。

あわてて身体を切り離したり、

体内に火を取り込んで消そうとするが、

火の勢いは弱まらない。

 それに気づいたのか、

飛んでいたヘリが灰色の巨人に何か液体を撒いた。

それは火に触れて燃えた。

何かの燃料らしい。

稀少品のはずだが、大盤振る舞いだ。

 灰色の巨人は悶え苦しみ、

かろうじて分裂できたであろう灰色の手たちは、

一目散に逃げていった。


 ゾンビは動く死者であり、災害であり。

同時に、人間であったことの証明にもなりつつある。

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