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ゾンビ! ゾンバー! ゾンベスト!  作者: 桃野産毛
第二章 末期の水

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第10話 唐菖蒲

 ニシナは振り返る。

もう、戦闘員も作業員も、誰の姿も見えない。

彼らの無事を祈る暇もなく、

灰色の手は右から左から襲いかかってくる。


「床だ!」


 ミキはそう言って、着ぶくれゾンビを踏みつけて跳ぶ。

そして、露出した床に着地した。


「かったぁ!

ニシナ、これコンクリート?

それより固いよ?」

「前世紀のコンクリートだ!

今のコンクリートより固くて当然だ!」


 ミキの背中から降りたニシナは、

意味がなかろうがムースのホースを構えて周囲を見渡した。


「……あ?」

「ニシナ、ここ、来ないね」


 灰色の手は、二人を囲むように生えている。

しかし、二人のいる床には生えない。

そして、さっきまで攻撃的だったのに、

ピタリと攻撃が止んだ。

 二人は安心より不安が勝った。

目を一瞬あわせて、

ここからさらに離れることに決めた。


「爆弾を投げる。

投げて三秒で爆破する。

カウント四秒で、

爆発した方に向かって走るぞ」

「投げる方は左の方が良さそう」


 ニシナが爆弾に手を掛けようとした、

その時足もとが揺れる。


「地震か?!」

「ニシナ、違う!

床が動いてる!」


 二人の立っていた足元が迫り上がり、

動き出した。

二人は何とか動き出した床に掴まり、

すごい早さで持ち上げられる。


「コイツ!

さっきヘリを落とした、

でっかい手のヤツだ!

 ニシナ!

ここ、頭だ!

頭のてっぺん!」


 ミキの言う通り、

巨大なヒト型の何かが起き上がる。

床に転がっていた着ぶくれゾンビが、

巨体から落ちていく。


「くそっ!

でけぇ!」


 ニシナは遠ざかる床を見下ろした。

ざっと五十メートルはある。

しかし、持ち上がったのは巨体の上半身だけ。

巨体の下半身はなく、胸から上だけだ。


「胸像みてぇ!

いや、デカすぎて下半身は使い物にならないのか!

 ミキ!

飛び降りるのは無理だ!

スーツ着てても、ただじゃすまねぇ!」


 ニシナの言う通り、

灰色ののっぺりした身体は、

粘土細工の胸像のようだ。

体毛はなく、人っぽい形で。

作り掛けの胸像という感じだ。

 巨体は、首を振って周囲を見渡す。


「……コイツ、俺らを探してんのか?」


 巨体は少し離れた所に何かを見つけ、

手を伸ばす。

手はびろん、と倍くらいの長さに伸び、

地面に手のひらを叩きつけた。

轟音が響く。

 そして、巨体は手をもとの長さに戻し、

手のひらを顔にむけて確認する。


 その巨大な手のひらは、

鮮血でぐっしょり濡れていた。


 着ぶくれゾンビどもは、

血液も樹脂で固まっている。

だから、血はそんなに流れない。

なので、この血は。


「……っ!」


 一緒に降りてきた誰かだ。

巨大な手のひらを二度ほど握って開くと、

血が跡形もなく消えた。


「泥の内側に、

死体を取り込んだ?」


 ニシナは、直感でそれを食事のようだと感じた。

だが、次の瞬間、そうでないと理解した。


「……あぁ……ぁ!」


 巨体は口を開いて、声を出す。

そして。


「にぃ……しぃ……なぁぁぁぁ!」


 ニシナとミキは、顔面蒼白になった。


「みぃぃぃぃ……きぃ」


 どうやって、二人の名前を知った?

誰にたずねた?

決まっている。


 今潰した誰かの死体から情報を得たんだ。


「……ゾンビじゃない……!

これは、もう……ゾンビじゃない!」


 ミキはニシナの顔を見た。

ヘルメットで見えないが、

どう考えても怯えきった顔だ。


「に、ニシナぁ。

どうしよう……」

「……見つかるまではここで隠れる。

見つかったら、飛び降りるぞ。

 飛び降りるのは俺だ。

お前はスーツを切って、俺の身体に掴まれ」


 ニシナはムースのホースをタンクに付け直し、

懐から二本のナイフを取り出した。

戦闘に使える用なものじゃない。


 園芸用のホリホリナイフと呼ばれる物だ。


 つば付き、柄は滑り止めを巻いている。

刃渡り二十三センチ。

これは、決してゾンビを仕留めるための武器ではない。


 男の子が、

ゾンビだらけの人工島で生き延びるための万能ツールだった。


 巨体は、少し上を見上げた。

まるで、自身の頭の上を見ようとするように。


「見つかった!

飛ぶぞ!」


 巨大な手が二人に向かって降ってきた。

ニシナは飛び降りて、

巨大な肌に二本のナイフを突き立てる。

 案の定、巨大な身体は脆い。

ニシナにミキが抱きついた。

二人は落下していくが、

巨体に突き立てたナイフは二人を支えて減速して悲鳴を上げる。


「手が来る!」


 ミキがいうとおり、

巨大な手はもう一度二人を襲う。

ニシナはミキに叫んだ


「蹴ろ!」


 ミキはスーツを再稼働し、

巨体を全力で蹴ってニシナごと離れる。

その二人のすぐ横を、巨大な手は通りすぎた。


 ゾンビは、

生きた人を感知してそちらへ向かっていく。

だが、何故かゾンビは群れをつくる。

どこでどう合流しているのか、理屈は分からない。

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ただのゾンビじゃないなこれ……人間の勝ち目なさぎすぎる
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