第八話 入学
王城学院。
ゲーム本編での主人公の拠点であり、終盤に大氾濫が起こりマガツキが陥落するまで王城学院を中心として物語が展開していく。
物語が動かないというわけではなく、それはひとえにダンジョンという第二地下世界が近くにあり、訓練設備も強くなる機会も多くあるためであった。
強くなる環境としてもゲーム性を維持するという冒険要素としても、王城学院という場所はすべてが詰まっていた。
ゲームではなく現実の世界となっても、それは変わらない。
日本の中心都市であるマガツキの、中心。
学園都市でもっとも大きな戦力を保有している王城学院は、そんな立ち位置にいた。
『私たちは、強者を欲している。世界を変革するような圧倒的な強者——すなわち現代英雄を』
ゲームと同じ謳い文句で入学式は締められた。
入学式にダイナミック遅刻をかましながらも何食わぬ顔で着席し、話半分に聞いていたキリエは退屈だったとばかりに目を開ける。
席を立って伸びをしてから、教員の指示によって続々と席を立っていく同級生たちについていく。
少し視線を前の方に向ければ、ゲームの主人公シラハとその最初のヒロインである千薙ヒナがいた。
片や白銀の髪を持つ美少年、片や正統派美少女。
絵になる光景であり、それゆえに周囲の目を惹く。
女子はシラハを、男子はヒナを紅潮した目で見ている。
今日だけで一目ぼれをした人が何人いるだろうか、キリエは気になった。
千薙ヒナ。
彼女の父親は現代英雄の一人であり、シラハの親代わりとなっている栗栖イナと親交が深い。
シラハとはその縁で親しくなり、次第に心を通わせ今では恋慕の感情を彼に抱いている。
ぶっちゃけ幼馴染ということで負けヒロインのような立ち位置だが、この世界は基本的に一夫多妻制。悲しい結末にはならないのだ。
学院側から推薦状を貰った一人であり、キリエのような実質的な裏口ではなく、正当な手段でもって勝ち取った才溢れる少女だ。
ゲームでも心強い性能をしており、役割としてはスピードを生かしたアタッカーといったところだろうか。
「あ、キリエ!」
「……おう」
俺の向けてくる視線に気づいたのだろうか、ふとシラハが後ろを振り向き俺を捕捉した。少女と言っても差し支えない綺麗な顔立ちが笑顔の形になった。
まだ出会って一瞬だぞ、とキリエは一瞬反応に困ってから、軽く手を上げて返した。
キリエは目立つことが得意ではないというのに、挨拶を返すとそれだけで周囲の視線が彼に集まって来た。
落ち着かなくて、腰に差した剣を触る……と思ったが入学式が終わるまでヨルに没収されていたため手は空を切った。
「なんだ、男の子か」
シラハの隣で一瞬身体を硬直させていたヒナであったが、キリエが男であると分かると安堵の息を吐いた。
確かに、名前だけならば女と感じられるかもしれない。
キリエは肩を竦めてから、そのまま人の流れに逆らわず進む。
シラハはキリエと話したがっていた様子だったが、いきなり先頭付近を進む自分が後ろに行くと迷惑が掛かると考えたのか、ちらちらとこちらを見るだけで動けないようだった。
溜息を吐きつつ、そのまま列をなして行進を続け、入学式の式場である体育館を抜ける。
ある程度開けた空間に出ると、抜けられる、と思ったシラハがヒナを伴って後ろへと下がって来た。めちゃくちゃ目立つ容姿の中に、モブであるキリエ。キリエは胃が重くなるのを感じた。
列を先導する教職員は、その行動について特に何か咎めることはしなかった。
多分、付いて来てくれればそれでいいのだろう。
「さっきぶりだね、キリエ」
「ああ、そうだな。これで二度目だ」
「二度目……?」
ヒナがキリエ達の会話に首を傾げる。
それをいち早く悟った幼馴染のシラハが説明する。
「ヒナ、寝坊して遅刻してたじゃん?」
「うん……あの時行ってくれて良かったのに。そのせいで、シラハまで遅刻する羽目になっちゃった」
「いや、良いんだよ。僕が遅刻するくらい、ヒナが泣いちゃうことに比べればどうってことないさ」
「なんで私が無く前提なの?泣かないけど……ただ気まずくなるだけで」
いちゃいちゃとする二人に、キリエは注目とは別の意味で胃が重くなっていく。
キリエに会いに来たのだろうに、どうして目の前でイチャイチャするのだろうか。するのならば普通に前に行って欲しい。
「……そこで、待ってた時に出会ったんだよ」
「そうなんだ」
ようやく脱線しかけていた話がもとに戻った。
半ば動く彫像と化していたキリエは、予想よりも長かったいちゃいちゃに辟易しながらも安堵する。
「いやー驚いたね、いきなり名前を聞かれたものだから。あの時は咄嗟に答えたけれど、そういえばどうして名前を聞いたんだい?」
「知り合いに似ていたんだ」
「そうなの?シラハは結構珍しい見た目だけど……似てる人がいたのかしら?あ、私は千薙ヒナ。よろしくね!」
ああよろしく、と答えるキリエ。
どうやら誤魔化すことができたようだ。包み隠さずに主人公がどうとか言ったら、頭のおかしい人だと思われてしまう。もしそうなったら、ヨルの思うつぼだった。
「えー、注目」
話が弾んでいきそうだったその時、拡声器を通した声が響き渡った。
音量をミスったせいでキィン、というは甲高い音。全員が声の主を見る。
先導をしていた教職員が足場に乗って、新入生を見下ろすように立っていた。
「これから、クラス分けの表を張り出します。四か所に同じものを張っておくので、分散してみるように。あ、一応言っておくけど、クラスは成績が均等になるように振り分けたので、序列とかは無いです。くれぐれもマウントを取らないように、恥ずかしいよ」
職員が丸めた紙を持って、四方三メートル程度の掲示板に張り付けていく。
張り出す紙が大きいので苦戦するかと思ったが慣れた手さばきで、素早く張り付けていた。
「五分後、クラスの担任がプラカードを持って到着しますので、各自自分のクラスに集まってください」
そして、と教職員は言った。
「各々クラスに移動後——魔剣を配布します」
その言葉を新入生たちが認識すると、沸き立つような歓声があげられた。
ほとんどの人が喜びに声を上げている。横をみればシラハがとても興奮している様子で顔を上気させ、身体は無意識にかぴょんぴょんと跳ねていた。
唯一上げていないのは、キリエやヒナ……要はすでに魔剣を持っている面々だった。




