第七話 邂逅
キリエとヨルは、マガツキから脱し本島に戻っていた。
受験が終わった今入学まであそこにいる意味はない。
……ないのだが。
「あー、マガツキのテーマパークは有名なんですよ?行きたかったなー!行き!たかった!なー!」
「いや、ごめん」
キリエは現在、いつもの修行場でヨルに責められていた。
ずっと続くかと思われる不満をただただ謝っている。
彼女が何に怒っているのか、それが自身に起因するものだと知っているためである。
というのもキリエは面接が終わった次の日、朝一で島を出た。
観光に興味が無かったわけではなかったが、二か月後はここで暮らすことになるのだからすぐに帰っても大丈夫だろうと判断した。
それに学院生徒や許可を貰った魔剣士しか、第二地下世界ダンジョンには入れないのだから、理想の一刀を目指すキリエにとっていてもあまり意味は無かった。
しかしヨルは違ったのだ。
彼女はマガツキのテーマパークである、ダンパークにキリエと共に行こうとしていた。
ヨルがキリエの泊まるホテルを手配したのは、キリエの寝坊を防ぐ以外にも居場所を知っておくことで誘いやすいようにするためでもあった。
喜び勇んで可愛い弟子と遊ぼうとホテルに突撃したら……そこはもぬけの殻だった、というわけだ。
「キリエがいなかったせいで、私ホテルのフロントに笑われたんですよ?つけ耳みたいなカチューシャと、いっぱいグラスが付いたサングラスを付けてたら『何こいつ』みたいな目で見られたんですよ?」
「それは……俺のせいじゃないけど」
「言い訳厳禁!キリエがいたら、『ああ今からダンパークに行くんだろうな』とか納得されると思うんです。でも帰ったって言われて、なんか気合の入った変な子だったなーで終わってしまったんですよ!?帰路に着く道中も、『なんで今仮装してるの?可愛いけど』って思われてそうな視線を浴び続けた、屈辱ですよこれは!」
「そこまで来たら外しなよ」
ヨルは憤慨した様子で、抗議の気持ちで着けてきたカチューシャとサングラスを取った。
「……それで、ダンパークには行ったの?」
「行きました。私はソロでも楽しめるタイプの人間なので」
じゃあいいじゃん、とは言わなかった。
それを言ってしまえばさらに不満の嵐は激しくなるだろうから。
「あ、これお土産です」
「どうも」
キリエ一人分の入場料金分だろうか、想像よりもちょっと多い。
礼を言いながらその中の一つを取ろうとすると、ヨルの手がキリエの腕を掴んで止める。
「でも、やはり二人で行きたいじゃないですか。弟子を取ったらやりたいことランキング六位は一緒に遊園地に行くことでしたし。別に一人でも楽しめますが行きたいものは行きたいじゃないですか」
「はあ」
「と、いうことで。今から遊園地に行きますよ?」
「は、はぁ……は?」
師匠の命令は聞かなくてはならない。
あと拒めば最後、ヨルは凄い怒って手が付けられなくなる。
キリエはいかなくてはならなかった。
◆◇◆
「いやーそれにしてもやはりキリエはまっすぐですねぇ……ここに行くまえに日課を終えておきたいとは」
「良いだろ別にそれくらいは」
ヨルとキリエは昼頃遊園地に到着した。
有名なネズミの国ではなく、地方にある中規模の遊園地である。過密ではなく、かといって閑散としているわけでもない快適な場所だ。
ジェットコースターを乗った後、メリーゴーランドでお馬さんに乗りながら駄弁っている。
ほぼ動きが無いが中々楽しい、とキリエは思う。
「友達、できるでしょうか。キリエはボッチ感強いですし」
「いきなりぶっこんで来たな、大丈夫だよ多分」
本当ですか?と言わんばかりの懐疑的な視線から逃れるように、キリエは自身の乗る馬を見る。
そろそろメリーゴーランドが回っている時間も終わりそうであった。
「いやでも心配ですね。かなり。虐めとかは無いでしょうが、頭のおかしい奴として認識されて遠巻きに見られるということは十二分にあり得る」
「それほど俺は頭おかしくはない」
「口を開けば剣の事を話す人間が頭おかしくないと?」
キリエは反論できなかった。
「世間で流行りの曲とか知ってます?服とか欲しいとか思ったことあります?」
更に追い打ちをかけるヨル。
そこに慈悲はありはしなかった。
「it’a true wolrd.褒めてませんよ、心配ですよ私は。話題についてこれなきゃ振り落とされるのが今の時代ですからね。今から憂鬱になってきましたよ」
「俺はいま憂鬱になったんだが……」
メリーゴーランドが止まり、ヨルとキリエは同時に馬から降りる。
溜息を吐きつつ、もう憂鬱は消え去って喜色に富んだ声を出しているヨルと共に、アトラクションマップを見て次はどこに乗ろうかと話し合っていた。
その時だった。
白銀が流れた。
アトラクションマップから目を離し、無意識のまま振り返る。
だが夢のようにどこにもいない。キリエが振り返った先に、振り向かせた主はいなかった。
「……今のは」
「キリエ?どうしたんです?」
「いや」
キリエは思い出す。
あの場所には、主人公たちが――世界でもトップクラスの才能に溢れた奴らがひしめいていることを。
「……ああ、気になる人がいたよ」
「…………………………………え?」
キリエは笑みを浮かべる。
「それって、好きな人ってことですか……!?私の記憶では、想い人なんていないはずでしたし……まさか、一目ぼれですか……!?ああ、どうしましょう私、心が熱くなってきました!」
「いや、そういうことじゃ」
「今日は私の奢りです、何でも食べてくださいね!これでも私大都市三個くらいなら丸ごと買えるくらいのお金は持っていますから!」
ヨルに勘違いされたまま、一日が終わる。
◆◇◆
そして、二か月が経って。
桜が舞い散る季節。
喜びに満ちた喧騒から、少し離れた位置。
キリエはそこに立って誰かを待っている人物に声をかけた。
「よお」
白銀が振り向く。
待ち人でないことに彼は怪訝な表情をしていた。だが、キリエにとってそんなことは関係ない。
「あんたの名前を聞いても良いかい?」
「シラハ」
今ここにこの瞬間、主人公とモブが邂逅を果たした。




