第十四話 プレゼント
魔剣の授与は、クラス毎ではなく一学年全体で行われた。
クラス別に列を成して受け取っていくが、すぐにそんなものは関係なくなる。
「おおおお、これが!俺の魔剣だああああああ!」
聖剣を引き抜いた勇者のように、アモウが天に向かってロングソード型の自身の魔剣を突き上げている。
雄たけびを上げるその姿は、勇者というよりも蛮族のようだったが。
とはいえ、目立っているのはアモウだけではない。
魔剣を自身の内に収めることができた同級生たちは、興奮の声を上げている。
ネットで見るような分かりやすい力を得たことによる熱気が皆を包んでいる。
唯一、魔剣を持っているキリエやヒナ達、そして魔剣と接続することすら不可能だったシラハが熱気の外にいた。
「はは、は……はぁ」
キリエが横を見ると、シラハが落ち込んだように肩を落としていた。
この場を包む熱に、入りたくても入れないと言った様子だった。
キリエが声をかける前に、いつの間にかにやって来たシラハの幼馴染であるヒナが声をかけた。
彼女も事情は知っている。シラハは心配させないように、毎日のように交わしているメールでも何もいわなかったが、残念ながら人の口には戸は立てられない。
「……シラハ」
「ヒナ……?」
「魔剣、反応しなかったんだって?」
どうして知っている、という顔。しかしすぐにシラハは納得する。
その程度のことにも気づけないとは、どうやら心の方は思っていたよりも弱っているようだ。
シラハは返事に迷って、俯き、また顔を上げてまた俯き……最後には頷きで返した。
「……そう。だ、大丈夫よ!だってシラハはすごく強いんだから!」
「ありがとう……でも、魔剣が無いなら、どれだけ強くても意味は……」
「ああ、それなんだが」
キリエはそこでようやく、話に割って入る。
あまり人付き合いをせず理想を追いかけ続けていたキリエは、話かけるタイミングを計ることが下手だった。
いつ言おうか、いや今は早すぎるし、目立つ。
そんなことを頭の中でうんうんと考えていたら、いつの間にかにかなりの時間が経ってしまっていたのだ。
「俺は…………………ううん、どこから話せば良いものか」
もしここにヨルがいたら、ケツをひっぱたいていることだろう。
内容を考えてから話しなさいと。
キリエはこういった際、無駄に組み立ててから言おうとする癖があった。
今さらに発見した癖だが。
「キリエ?」
「……俺は、お前の親代わりの栗栖イナと少し知り合いでな」
「ええ!?」
嘘である。
面接の際に少しだけ話して、斬ろうとしただけである。あれから会ってすらいない。
……思えば、あの時挑戦したかったとキリエは回想する。
斬れる、とは思った。確信もした。だがしかし、魔剣士の頂点である彼女はそれだけで終わらないかもしれない。生き残って、キリエに刃を振るうことができるかもしれない。
だから試したかったのだが……ヨルに止められてしまったことで不完全燃焼となってしまった。
思わず、不敵な笑みが零れる。
「「!?……何!?」」
「……っこれはなんだ!?」
キリエの近くにいたシラハとヒナ、そしてこの空間の中で最も実力の高い担任のキョウカが、身震いする。
殺気とも似つかぬ怖気は一瞬で表情を強張らせ、警戒したように周囲を見渡す。
キリエはまずい、と思って咄嗟に口元を隠した。
それと同時に、彼らを包む怖気は霧散する。
「なんだったの、今の……?」
「分からない」
「あー、うん、それでだな」
キリエは、普通に気づかぬふりをした。
熱狂している同級生は気づいていないようだったので、それに合わせた。犯人は自分であるのに。
「それで、シラハにプレゼントがあるって言ってたんだ」
「……プレゼント?」
未だ警戒を解けていないシラハは、少しだけ姿勢を低く保ちながら首を傾げた。
キリエは勝手にイナの名前を使って悪いと思いながら、まあゲームと同じような性格なら知っていても笑って許すだろうと思って、前々から準備していた物を差し出す。
純白の布でくるまれている物体。
ズシリとしていて一定の重量があることがわかる。
シラハはキリエからそれを受けとり、床に置く。
布を開くようにキリエに指示されると、その通りに開いた。
「これは……剣?……いや、魔剣……!?」
勢いよく顔を上げ、シラハはキリエを見る。
「元々、お前は魔剣を持ってたらしい。ずっとずっと、それこそ物心がつく前から。だから知らなかった……いいや、忘れてたんだ」
「じゃあどうして、おばあちゃんは?」
「……さあ、分からない」
だって嘘だから、とは言わなかった。
キリエはそこまで考えていなかった。
「とにかく、俺は届けたからな」
「いきなりすぎて、あまり良く呑み込めてないけど……ありがとう、キリエ!」
「やったね、シラハ!……でも私も知らなかったし、父さんも」
ヒナが喜びながら首を傾げている。
襤褸が出るまえにキリエは逃げることにした。
「じゃあ俺は魔剣を取りに行ってくる」
キリエはすぐに人混みに紛れ、シラハ達からの視線を切る。
隣の部屋に自分の魔剣を置いてある。気配を消したキリエは誰にもバレずに魔剣を回収して、すぐにシラハ達の元へと戻る。
「ははは、シラハぁ!これ見ろ俺の魔剣だあ!」
「うん、すごいね!」
「ん、なんだ?随分と、ってぇ!なんだ、魔剣あるじゃんか!」
「そうなんだよ!……でも、はぁ、僕の憂鬱が馬鹿みたいだったよ」
「それよりも隣の別嬪さんはどちらさんだ?」
キリエが外から見て初めて思ったが、随分と華がある場所だ。
沈痛気な表情から最初の出会った時のような笑顔を取り戻したシラハに、美少女のヒナはもちろんのこと、なんだかんだアモウも調和している。
先程まであんな一団にいたことを自覚したキリエは、もう一度そんな目立つ場所に行きたくないと足を引いた。
行きたくなかったが、シラハとアモウが手を振って呼んできたために行かなくてはならなかった。
「全員、クラス毎に列を組め。これから魔力測定室に行くぞ」
そう言われたときには熱気はある程度落ち着き、目立つことになった。
◆◇◆
魔力測定室。
魔剣を使う際のエネルギー、その総量を測る場所だ。
「——キリエ、測定台に上がれ」
「……ふぁい」
シラハを憂鬱から救ったことで、キリエが一人憂鬱の主となった。
なんで一番初めが自分なんだと恨み言を吐きながら、測定台に上がる。
「なんで俺が一番初めなんだ?という顔をしているな」
キリエが憂鬱な顔で俯いていると、キョウカが耳元でささやいてきた。
「突然現れた無名の推薦者が気になるからだ」
「……落胆しますよ」
「それを決めるのは私だ」
キョウカはキリエの両腕にパッチを付けていく。
付ける度にキリエは溜息を吐く。
「お前が元から魔剣を持っていることを黙っていてやった私の恩に答えてくれ。目立ちたくなかったんだろう?」
「目立ちますよ。駄目な方で。それが分かってるなら別で受けさせて欲しいです」
「不可能だ」
キョウカはキリエから距離を取る。
ガチャガチャと訳の分からん機材を弄っている。
調整が終わったのか、目立つ位置にあるレバーに手を掛けた。
恐らくアレが起動装置だ。
「その水晶に触れろ」
「ふぁい」
やる気のない返事と共に、目の前にある巨大な水晶に触れる。
機械に目を向けなければなんともファンタジーチックな光景だろうか、そうキリエは現実逃避をして。
キョウカがレバーを下ろした。
数秒のち、水晶が薄く光を放ちキリエの手のひらを包む。
パッチから弱めに皮膚を吸われる感覚。
すぐに発光は終わり、水晶の起動は停止した。
「………………」
キョウカが何度も見てくる。算出された魔力量と想定していた魔力量の差異に目を見開いていた。
十度見くらいしていたと思う。
そして事実を確認して、まだ動揺を隠せていない声で言った。
「キリエ、魔力量……1」
キリエは、魔力量がカスである。
それはもうあり得んほどに。




