第十話 嘘
ゲーム本編の始まりは、主人公——この世界の場合、シラハが不適者としての烙印を押されるところから始まる。
栄えある王城学院という魔剣士の学び舎に入学できたのにも関わらず、魔剣を扱う資格が無い者。
「なぜ……こんなことが……!?」
魔剣と接続できない者は何人もいる。
だがそれは接続時の際の痛みに耐えきれなくて、どうしても手を放してしまう人たちだ。
シラハの場合、話は違ってくる。彼は根本から魔剣との接続ができない。
彼が魔剣に触れたところで、原形は何も変化をすることはない。彼が触れたところで、神経を直接弄られる痛みは到来しない。
本人が耐える耐えない、成りたい成らないの話ではない。
魔剣との接続が不可能であるシラハは、根本から魔剣士には成れない。
「そんな……!どうして!?どうして何も起こらないんだ……!?」
「……シラハ、だったか……?もう一度聞くが、すでに魔剣を持っているわけではないのだな?」
「もち、ろんです……」
キリエだけは知っている。
彼が不適者ではないことを、この世界に二人だけの特別であることを。
だが、ここで言っても意味はない。
慰めにもならない。
だから言わない。
それに、キリエだけは知っている。
「あいつ、魔剣士になれないんじゃね?」
「ぷ、王城学院まで来たのに?無駄な努力じゃん」
シラハは、決して諦めない事を。
逆境に抗い不条理に逆らい続け、そして才を開花させることを。
学院底辺の不適者から、この世界有数の実力者へと上り詰めていくことを、キリエだけは知っている。
「ッ…………!クソぉ!」
「…………………………………………」
……だが、知っているからどうしたと言うのだ。
彼が才を開花させるまで、ずっとほくそ笑んで待つつもりか?違うだろう。
彼に何も言うことはできないが、何かすることはできるだろう。
キリエは静かに席を立つ。
誰にもバレないように、極限まで気配を殺して教室を出る。
長年鍛えられたその歩法は、空気のわずかな揺らぎすら感じ取れない絶技へと発展を遂げた。
マガツキに到着して早々、カエデを狙った研究者を尾行することができたのは、この技術のお蔭でもあった。
この教室にいた誰にも、担任でありかなりの実力を持つ魔剣士であるキョウカにも一切として気取られない。元々シラハの騒ぎがあるのもあり、すべてが終わった後も気づかれないだろう。
幸か不幸か、キリエが元々魔剣を持っていることにも気づかれない。
キリエはそのまま廊下を突き進んでいく。
ゲーム知識に頼らなくとも、教室までの道を引き返していくだけで良い。
入学式を見に来た彼女は、まだあそこにいるはずだ。
体育館。
入学式が終了し、関係者全員が撤収した式場の中に彼女はいた。
まるで誰かを待っているかのように、一つだけ取り出したパイプ椅子に腰かけて目を瞑っていた。
キリエの足音が聞こえると、彼女は目を開ける。
「……聞きたいことがある」
「——聞きましょう?」
その少女は、首をこてりと傾げて愉快気な笑みを浮かべていた。
キリエは、まだ学院にいる自らの師匠に向かって言った。
「すでに形が確立されていて、持ち主のいない魔剣、その在処を教えて欲しい」
天墜のヨル。
常人ならざる彼女の眼をもってすれば、探すことは容易い。
それに。
彼女は魔剣のシステム、その基盤を作った人物だ。
在処程度彼女が分からないはずがない。
「……ふむ」
ヨルは片目を閉じて、キリエを見る。
いつものお茶らけた様子とは程遠い、真剣な様子だった。
表情こそ変わらないが、長年彼女と共に過ごしている。
キリエには分かっていた。
「どうしてですか?キリエ、貴方には魔剣はいらないはずでしょう」
「俺の分じゃない」
そんなことはヨルもわかっているだろうに。
敢えて聞いたのだ、キリエは意地悪な彼女に苦笑する。
「ならば、どうしてです?」
「友のため」
短く、キリエはそう言い切った。
友——つまりシラハの事だ。
出会って一日も経っていないが、それでもキリエは彼の事を友と呼んだ。
「シラハは、良い奴だ」
キリエは自らが世間一般的に、変人に分類される人種であることを自覚している。
彼との初対面も、いきなり名を聞いてきたり変な人だったろう。
しかしシラハは、そんなキリエになんの偏見もなく接してくれた。
「それだけじゃ、駄目か?」
ヨルは首を横に振って肩を竦める。
「まさか」
パイプ椅子から立ち上がり、立てかけてあった一振りの剣を持つ。
色は無く、装飾は無く、すり減らした反れている刃が無色の鞘によって封じられている。
その名は日本刀。
昨今見られるような観賞用を兼ねている道具ではなく、ただ者を斬り、物を斬るためだけの機能を搭載した純然たる殺しの道具。
それこそが、キリエの持つ魔剣である。
「場所は第二地下世界ダンジョン、十五階層」
「試練の間か」
キリエは自らの魔剣をヨルから返してもらう。
すぐに刀を腰に差して踵を返す。
「キリエ、急ぎなさい。魔剣が地下世界由来の物である以上、すぐに吸収されます。そうなってしまえば、二度はありませんよ」
「……生憎、二度目の機会なんて捨ててる」
そうですね、とヨルが笑う気配。
キリエは迷わず駆けだした。
向かうはダンジョン。
マガツキ中心に聳える巨大な二つの石柱、境界門である。




