第37話:和解の申し出 後編
俺達は会議室に集まり、書類の中身を確認する。
「手紙、ですね。差出人は、...金青尚輝!?︎」
「罠か!?︎いや、これは...」
「本気みたいですね」
手紙にはこう書かれていた。
「初めまして、テミスの皆さん。私は内閣総理大臣を務めている、金青尚輝です。
皆さんにはとても迷惑をかけてしまった。まずはその事をお詫びしたい。
テミスを犯罪組織として指定する事を許してしまった私の責任です。
そして昨年の織野市を襲ったあの大震災にもご存知の通り特審が関わっています。
情報漏洩を懸念しているのでこの場ではこれ以上話せませんが、後述する住所まで来てくだされば全てをお話ししましょう。
そして現在全国で暴れている、サルスと呼ばれる生命体は特審と関係性はありません。
その発生源は我々も知り得ないのです。
我々とテミスで会合を開き、和解して協力関係を築く。
サルスの討伐、そしてその正体を突き止める事を目標とし、共に闘うために。
協力関係を築く事は和解する条件ではありません。
和解を最優先とし、その上で協力を検討してくだされば結構です。
会合は先程も話した、後述する住所に来てください。
日付と時刻も記しておきます。
では、会合でお会いしましょう。
金青尚輝」
その下にはとあるビルの住所や会合の日程が書かれていた。
そしてその横には総理大臣本人だと証明する花押が押されていた。
「なんか、思ってたより腰が低いな」
「これが罠の可能性ってあるのかしら」
宗一が感想を述べ、萌黄が疑問点を口にした。
これに月城さんが答える。
「無くはない...が、その可能性は限りなく低いだろう。何しろ、総理大臣の花押が押されている。
公的な書類でなくとも、嘘を書く事はかなりのリスクがある」
もし罠だったら俺達はこの手紙をネット上に晒してしまえばいい。
偽物を疑う者はいるだろうが信じる者も必ずいる。
テレビで報道され、最終的にはSOPの存在も知れ渡り、政府が嘘をついていた事もバレてしまう。
凛を通してテミスがSOPの存在を知れ渡らせる事を目的としている事も知っているはずだ。
嘘でも本当でも同じ結末になるなら、わざわざ政府の信用が地に落ちる方を選ぶだろうか?
「確かに、本当かも知れないわ。
姫乃先生があの後私の言った通り和解するよう働きかけたなら、本物の可能性は十分にあるわね」
俺はもう一度手紙を見た。
公的な文章よりもかなり砕けた文章だ。
言葉を飾らない事で、間違いなくその意図が伝わるようにするためだろうか。
文章が硬すぎない事も、俺がこの手紙を信用している理由の一つだ。
「これまで通り我々は慎重に疑い続ける。ただし、この手紙には従う方針でいく。
ここに書かれた場所に、指定された日時に行こう」
疑いすぎるあまり、この気を逃してしまうのは避けたいからだろう。
「我々の悲願も、もうすぐ達成されるんですね!」
「そういう事だ。交渉を成功させるためにも人選は大切だ。
私は行くとして、後何人か会合に連れて行こうと思う。
露草一希、涼風萌黄、お前達は震災の被災者として連れて行く。すまないが交渉の材料にさせてもらう。
そして涼風正彦さん、あなたにもついてきてもらう。
過去に隊長を務めたあなたが仲介役になれば、交渉も捗ると言うものだ」
「勿論それで良いのじゃが、...わしは金青尚輝を詳しく知らんぞ」
そうか、正彦さんが隊長だったのは金青がまだ総理大臣になる前だったから知らないのも当然か。
「問題ない。特審の元隊長の意見、と言う事実が大切なのだ」
月城さんは今度は朽葉さんを見た。
「朽葉は、......」
朽葉さんが同行する理由は特にない。
ただ、さっき萌黄が口にした『姫乃先生』という言葉に少し反応していた。
俺はその理由が気になっていた。
「あの〜、...隊長の姫乃美空の事なんですが、...実は学生時代の親友と同姓同名なんですよね...」
その瞬間、全員が朽葉さんを凝視した。
嘘だろ...。
なんで今までそれを言わなかったんだ。
これには月城さんも呆れた顔になる。
「違うんです!同姓同名だとしてもまさか特審の隊長が本人だとは思わなかったんです」
「どう考えても同一人物だろう。集められる情報はなるべく集めたかったがな。
双方に知り合いがいるのは和解する上でありがたい。会合には朽葉を入れたこの5人で行く事にしよう」
話し合いは終わり、俺達は会議室を出た。
一気に和解に近づき、みんないきいきとしている。
テミスの誰もが和解の成功を願い、会合の日を待ち望んでいた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。次回の投稿は10月21日の19:30です。




