第36話:和解の申し出 前編
和解の申し出大阪の救出作戦から一週間が経った。
和は死んだサルス達を供養するために墓を作った。
和が手を合わせるのを見て、俺達も一緒に手を合わせた。
今思えば、和とサルス達はかなり強い絆で結ばれていたように見える。
出会って間もないはずなのにここまで心を通わせられたのは、和の純粋な心にサルス達が惹かれたからだろう。
朽葉さんはMARK2を作ると言って毎日のようにロボット開発を続けている。
「今度はもっと能力に頼った性能にしてみたいですね。
一体だけで完結させず、壊される前提で大量生産する、とかですかね」
朽葉さんはあの日、復帰できなかった事を嘆いていた。
「MARK1が破壊された後、急遽カメラと銃を取り付けたドローンで現地に向かったのですが、あの場所には別のドローンがすでに飛んでいたんです。
空中は警戒していなかったので簡単に撃ち落とされてしまいました」
「攻撃してきたとなると、特審のドローンですかね」
「私は見ていませんでしたがあの場に特審がいた事を考えるとそう考えるのが妥当ですね」
俺はあの日を思い出す。
何者かが凛に撤退命令を出していた。
情報が伝わっているという事は、やはり特審のドローンか。まあそんな事はどうでも良いのだが。
「開発、頑張ってください」
「任せなさい!」
俺は研究所を後にすると、みんなのところへ戻った。
食堂では萌黄と宗一、和、葵が一緒に昼食を食べていた。
そして萌黄の隣では萌黄の祖父である正彦さんが当たり前のように一緒に食べている。
正彦さんはあの日、姫乃先生を倒した上に、凛を撤退にまで追い詰めた。
強すぎると思っていたが、昔特審の隊長だったらしい。しかも序列は1位。
俺達は当然驚いたが、なるほどと腑に落ちた。
正彦さんは宗一の苗字を聞いた時、少し驚いていた。
どうやら宗一の父親は昔、正彦さんの弟子だったらしい。
「まさか誠二の息子がここにいるとは思わなんだ。そうか、誠二はSOPを手放したのじゃな...」
今の序列1位についても聞いた。
「今は黒鳶聡と言う男がなっておる。あまり話した事はないのじゃがな、奴は強いぞ」
やはり黒鳶先生も特審だった。まさか序列1位とは思わなかったけど。
「戦闘技術だけでもわしと互角かそれ以上じゃろう。
奴のSOPについては詳しく知らんがひょっとすると、わしより強いかもしれん」
「おじいちゃんよりも!?︎」
「安心するのじゃ、萌黄。わしは負けんぞ!」
この人、萌黄に対しては態度が急変する。そして萌黄も正彦さんにはよく甘えていた。
仲がいいんだな、といつものように二人だけの世界に入る様子を見て俺は思った。
月城さんが特審との和解を手伝ってもらうよう頼むと、正彦さんは快く了承した。
「萌黄のためなら、わしはなんでもするぞ」
こうして正彦さんは和解の成功率を少しでも上げるための協力者として、地下施設に住む事になった。
そして今、テミスは対サルスの兵器開発をしながら特審との和解の準備を進めていた。
俺が食堂を出て部屋に戻っていると、司令室が何やら騒がしい。
気になって入ってみると、外を映すモニターには見知らぬスーツ姿の男が映っている。
「ここ、テミスの地下施設が何者かに見破られました!」
どうやって!?︎いや、そうか。
凛はここに来たことがある。つまり男は特審の人間の可能性が高い。
それに、前に戦った者の中に確か透視能力を持つ者がいた。
今までバレなかったのは偶然か必然か。
常に透視できるわけではないならあり得なくはないか。
俺が考えていると朽葉さんや月城さん、正彦さん達が司令室に入ってきた。
「男は何か話していたか?」
「はい!自分は書類を渡しに来たと、先ほど言っていました」
「彼はおそらく特審の議会の者じゃな書類と言うのは和解を提案する手紙か、それともわしらを誘き出す罠か...」
「それなら私がロボットで地上に行きましょうか?それが一番安全だと思います」
「朽葉、それはダメだ。罠の場合、敵にむやみに情報を与えてはならない。
特にSOPがバレるのはまずい。そして勿論危険でもある。ここは涼風さんに任せよう。それでよろしいな?」
月城さんはそう言って正彦さんを見た。
なるほど、正彦さんならもうこちら側だと知られているし、おそらくこの中で一番強い。
人選としては申し分ないわけだ。
「うむ、それが良いじゃろうな。では、ここはわし一人で行くとしよう」
そう言って正彦さんは司令室を出た。
正彦さんがいなくなった事を確認すると、月城さんは俺達に話しかける。
「万が一、万が一だが涼風正彦がスパイだった場合、吉岡君や露草君や他の誰かが向かっていたら、
テミスは全滅していたかもしれない。
何しろここ、司令室からでしか転移装置を使えない。戦力が確実に一人減るわけだからな」
これに朽葉さんが反論する。
「それなら夜中に襲えば良いんじゃないですか?それに、あの涼風さんがまさかスパイなわけがありません!」
「だから万が一だと言ったのだ。証拠は何もない」
月城さんがなぜこんなにも疑うのか、俺には分かる。
平坂凛という前例がいる以上、新参者をうかつに信用する訳にはいかない。
月城さんも指導者として、責任感を感じていたのだろう。
「俺達を殺せるタイミングなんて、いくらでもありました。それに正彦さんは一度俺達を助けています。
今更襲う意味はあるのでしょうか」
月城さんは俺の質問に答える。
「あるだろう。油断させてテミスの中に入ることで確実に全滅させる事ができる」
この答えに朽葉さんが再び反論する。
「でも涼風さんの実力は本物です。
特審の隊長だったというのも信憑性がありますし、わざわざ機会をうかがう必要は無いと思います。
あの人なら簡単に我々を殲滅できます。
唯一障害になるとすれば、健人君ぐらいのものでしょうし、それでも健人君が勝つ事はできないでしょう」
健人のSOPは確かに通じるかも知れない。
でも攻撃が当たらなければ、意味の無い力だ。
正彦さんに比べて経験の足りない健人では勝機は無いに等しい。
「それもそうだ。私の考えすぎか」
月城さんが納得しかけた時、俺の背後から声が聞こえた。
「いや、裏切り者だとして、組織の意思が全てとは限らない。
何か私的な理由があるんじゃないですか?
例えば、大好きな萌黄にバレたくなくて、萌黄がいる間は誰も殺せない、とか」
「健人君!...聞いてたんですね」
健人か。健人ってそう言う難しい事も考えられたんだな。
「あぁ!?︎何か言ったか?」
「なんでもない」
なんでわかるんだよ!と思わずツッコミそうになった。
「迷宮入りだな。万が一は無くならないが、特審が2度も同じ手を使うとも考えにくい。
涼風さんを、信じよう」
「良いんですか?」
「ああ、何でもかんでもよく考えれば正解に辿り着くわけではない。
考えても足りない分は、経験と信用で埋めるのだ。私は彼を信用できると判断した」
俺達が話している間に正彦さんは何事も無く書類を受け取った。
拍子抜けだな。
正彦さんは書類を持って司令室に戻ってきた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。次回の投稿は10月18日の19:30です。
すみません。
12日に投稿するはずが15日に投稿してしまいました。
投稿できていると私が勝手に思い込んでいました。
今後、このようなことがないようにします。
投稿を待ってくださっていた方、誠に申し訳ございませんでした。




